第2話 お兄ちゃんが無双するみたいですよ!?

 ︎︎この部屋から出れなくなったとなると配信なんて気にしてる場合じゃないかな。カメラを無駄にするのは勿体ないけど、命には代えられないからね。


「礼華にはこれ使って先に逃げておいてもらうね」


「ちょっと、待っ!」


 ︎︎時間が無いので有無も言わさず僕は妹に転移結晶を使用して地上に返した。こういう時のために配信をする時には常に一つダンジョンに持ってきているものだ、やっぱり役に立ったね。


 ︎︎それにしてもモンスターの姿が見えない。それなのに気配は消えていないし姿を消せる系のモンスターなのか。もしそうだとしたら不利とかのレベルじゃない、知らない間に近づかれているとか本当に勘弁して欲しい。


「雑種、我の領土に足を踏み入れて生き帰れると思うなよ」


 ︎︎その声と同時に声の主は影の中から姿を現した。さっきの血の攻撃と今影から現れたことを考えたらヴァンパイアなのは間違いないと思うけど、階級はどれだろう。


 ︎︎【冒険者】にランクがあるように、モンスターにもランクと階級が存在する。さっき一瞬で殺されたゴブリンロードがいい例だろう。

 ︎︎ゴブリンロードはDランクでゴブリンという種族の中でゴブリンより上の階級である。


 ︎︎階級が上がるほどモンスターのランクも上がるのだが、ヴァンパイアという種族は最下級種だとしてもDランクもあるのだ。いま僕の目の前にいるのがただのヴァンパイアか、ロードかは知らないけどやるしかない。


「ほう、我に牙を向けるか面白い。その度胸に免じて正々堂々やってやろうじゃないか」


 ︎︎知性のあるモンスターは面倒だ、ゴブリンのように本能で突っ込んで来たりはしない。人間のようにしっかりと考えて行動するし、話せるから嘘をつく事だってできるのだ。


 ︎︎ただ、このヴァンパイアは結構プライドを持ってるみたいだから自分の発言を嘘をつかないタイプみたいだ。プライドを持っているのなら丁度いい


「何故だ、何故当たらんのだ。雑種如きに我の攻撃を避けられるわけが無い、我はヴァンパイアロードだぞ!」


「雑種、雑種って相手を見下すから僕に攻撃を避けられてる理由が分からないじゃないかな? というかヴァンパイアロードにしては弱いよ、自分をヴァンパイアロードだと勘違いしてるただのヴァンパイアなんじゃないの?」


 ︎︎煽ればプライドのあるヴァンパイアは絶対冷静さを失うはずだけど、どうだろう。


「……黙れ、黙れぇ! 雑種、そこまで死にたいのなら殺してやる。不特定多数の槍を喰らえ」


「不特定多数? 本気で言ってるのなら笑うよ」


 ︎︎僕の体の表面積は決まっている、なら必然的に僕に当たる槍の本数は限られる。ただ、向こうは影に潜って直接僕を叩いてくるかもしれないからそれは気をつけないとね。


「我を煽るとは、面白かったぞ雑種。いや人間よ」


「勝手に死んだことにしないで欲しいかな。僕はちゃんと生きてるし、そもそも怪我だってしてないよ」


 ︎︎の人間はモンスターと違って特殊な攻撃が出来ないんだから、この人間の体でその攻撃に対抗するために色々努力しているのだ。


「何故だ、何故当たらんのだ!」


「さっきも聞いたよそれ……。血の槍だとしても物体なんだからさ、全部切り落とせば当たらないよ」


 ︎︎血の槍がどれだけ速いスピードで飛んできたとしても所詮は僕たち人間も触れられるものなのだ。まぁもしかしたら実体のない攻撃を繰り出してくるかもしれないし、正直今回は切れるか切れないかの賭けだった。

 ︎︎

「人間、こっちに来い」


 ︎︎ヴァンパイアロードの目が赤く光り、ヴァンパイアロードに睨まれた礼は言われた通りに歩いていく。ヴァンパイアのスキルである【魅了】だ。

 ︎︎見つめた相手を自分の傀儡にする非常に凶悪なスキルだが対象の精神力が高ければ意味をなさない。


 ︎︎その上対処法も幾つかあるのでそこまで脅威ではない。正直影に潜られるのとか血の槍とかの方が厄介というのがよく言われることだ。


「人間、自害しろ」


「……油断しすぎだよ」


 ︎︎僕は持っている剣でヴァンパイアロードの心臓を深く突き刺した。


「ガハッ……!? 何故、だ。人間如きが【魅了】に対抗できるわけが……」


「僕の精神力が高いだけじゃないかな? それに協会で売ってる呪いに対抗するお守り持ってるし。まぁモンスターが知ってるわけもないか」


 ︎︎僕はヴァンパイアロードにとどめを刺して、その体を燃やす。ヴァンパイア系はただ刺して倒すだけじゃコウモリに変化して逃げるからね、ちゃんと燃やして処理しないと。


 ︎︎さてと、投げ捨てたカメラがどうなってる確認しないとね。別に壊れてたとしても買うお金はあるけど、出来れば長いこと使い続けたいから壊れてないで欲しい。


 ︎︎この部屋の入口に転がっているカメラを見ると、光を放っているので壊れてはないようだ。そのカメラを拾い上げて画面を見ていると、見慣れた画面が映っていた。


「これ、もしかして配信中? 配信中ならコメントで教えて欲しいんだけど、僕が戦ってたのってカメラに映ってた?」


『そりゃあ絶妙な角度だった』

『ローアングルで見てたぞ』

『礼華ちゃんの兄、Bランクのヴァンパイアロードをボコボコにする』

『カメラの耐久性に感謝』


 ︎︎非常にまずいことになったかもしれない。

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