朝昼 晩

記念日

 僕が小学生の頃の話。

 父さんと母さんから、変な誕生日プレゼントを貰ったことがある。

 それはリボンでラッピングされた、小さな箱だった。

 中には何もない、手のひらサイズの箱。

「大事な物を入れなさいね」と、両親は言う。きっと、何かしらの想いがあったのだろう。

 そんな気持ちを小学生が汲み取れるはずもなく、僕はただただ落胆し、泣きじゃくった。


 最初、その箱には適当な物しか入れなかった。たとえば石や、拾ったネジ等。あまりに小さかったので、ろくな物も入れられずに、雑に仕舞っていた。

 ある日、母さんにその事がバレてしまい、こっぴどく叱られた。

「もっと大事にしなさい」、「一番大切な物を入れなさい。」そんな言葉を、当時の僕はポカンと聞いていた。何故怒られたのかが分からない。不信感を抱きながらも、僕はひとまず母の言う通りにする事にした。


 次に入れたのは、中学生の頃。好きな女の子から貰った消しゴムを、大切に仕舞った。

 何かある度に箱を開け、中身を見てはニヤニヤしていた。端から見れば、消しゴムをやたら眺めるヤバい奴だったが、僕にとってその消しゴムは間違いなく宝物だ。

 この頃から、あまり意識していなかった箱の頑丈さに気付くようになった。手触りもいいし、もしかしたら、とても高価なのかもしれない。そう思うと、尚更不思議だ。何故、子供の僕にこんな物をプレゼントしたのだろう。


 あれから月日が流れ、僕は大人になった。

 いろんな経験をし、僕はあの箱の本当の使い方に気付いた。

 きっと父さんと母さんも、この時のためにプレゼントしてくれたのだろう。

 まさか、大人になって感謝する時が来ようとは。

 僕はポッケの中から箱を取り出し、意を決して開ける。

「僕と、結婚して下さい!」

 目の前の女性は涙ながらに「はい」と答えた。

 ありがとう、父さん、母さん。

 箱を開ける練習をさせてくれて。

 お陰で、最高の宝を手に入れられました。

 気付くのに時間はかかったけど、僕にとって一番の誕生日プレゼントです。

 でも、一つだけ文句を言えるのなら。

 やっぱり変身ベルトのほうが、欲しかったなぁ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

朝昼 晩 @asahiru24

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ