第8話
珍しく早く起きた。
大概私は、朝起きることができない。起きたとしても、身体が言うことを聞かず、布団の中で
そんな私が、この時間に起床できた。
まあ、だから何だ、という話ではあるが――やることもないので、小説を書くことにした。
精神状態は、意外に安定している、ように思う。
いや、時折異常なまでの睡魔に襲われるのは、睡眠導入剤がまだ残っているのだろうか。
ただ何かがあるというのはそれくらいで、それ以外は平素の私であった。
平素の――陰鬱な私であった。
ずどんと落ち込むというより、初めから低迷し停滞している、という感じである。
躁鬱の曲線が劇的でないのだ。
だから書く小説も、陰鬱になる。
これは、なかなかどうして創作の俎上に載ることかもしれないけれど、作者と作品との因果関係というのは、実際あるのだろうか。
いや、人が死ぬミステリを書く人は全員快楽殺人鬼であるとかいう難解な話ではない。
もっと表層の、明るい人は暗い話を書けるのか、暗い人は明るい話を書けるのか、という話である。
私は――微妙である。
明るい話を書けと言われたら、書けないかもしれない。
偶然話が明るくなることはあるけれど、それを意図的に作ることができるかと言われると、何とも言えない。
まあ、実際に作家を生業とする先生方はなかなかどうして人格者というか、人格がきちんと完成している方が多いので、そういう固定観念のような枠にも収まらないのだろうけれど。
根がネガティブなので、話もネガティブになる。
人生を負の方向でしか見ることができない、というのは、確かにあると思う。
これは知り合いから言われたことだが「君は人生の楽しみ方を知らないね」という言葉が、妙に頭の中に残っている。
それは確かにその通りだと思う。
人生とは辛く、苦しく、しんどく、痛みを伴い、傷を負いながら生きてゆくものではないのか。
皆そうやって、死にたいのを我慢して生きているんじゃないのか。
分からないなあ。
そう思いながらも、今日も何かの間違いで、私は生きる。
(続)
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