第4話

 *


 今日は調子が良かった。


 ただ、私にとって調子が良いというのは、良いということにはならない。


 訪問看護の看護師さんに言われている。


 うつの時より、そうの時の方が、危ういのだそうだ。


 何もしたくない、より、何でもできる――という、所謂ハイの状態の方が、危険である、と。


 危ういという暈した表現を看護師さんはしたけれど、要はそれは死にやすいということなのだろう。


 何でもできる――だったら。


 、と思う。


 選択肢が増えたとしても、根幹の希死念慮は変わっていない。


 成程、若干調子が良く、できる行動が増えたことによって、自殺という選択肢が赤く光るのは、必然と言えよう。


 ほら、使う言葉も、いつもの陰鬱なものとは違っているだろう。


 この元気が続けば良いが、私の元気は、元気ではない。


 躁という名前が付いている。


 それでも陰鬱な自分は嫌いである。


 周りに悪い影響を及ぼしてしまうからだ。誰も私のことなんて気にしないとは分かっているけれど、それでも、近くに陰鬱そうな奴が居たら、誰だって不快になるだろう。


 だから、看護師さんがそう言う理屈も、心理も、結構分かるのだ。


 それでも、積極的に「死」についてを考えることはしないようにした。


 最近流行りの音楽、iTunesからトップのポップスの曲をいくつか聴いて、流行に乗り遅れる自分を是正しようとした。


 部屋の掃除をした。


 まあ私の部屋は、とても汚い。


 人の入れる余地こそあるにはあるけれど、人を呼べる余裕があるかと言えば、ない。


 昔から掃除が苦手なのである。


 特に物を捨てることが苦手だ。


 物を捨てる――捨てるという行動は、不可逆である。捨ててしまって、やっぱりほしいとなっても、基本的には取り戻せない。再び同じものを買うしかない。


 だから私の部屋は、ものであふれている。


 いや、ゴミも捨てれば良いのだけれど、朝は起きられない。


 身体が、言うことを聞いてくれないのである。


 まったく。


 生きることは綺麗事ではないな、と。


 汚い部屋に掃除機をかけつつ、私は思った。




(続)

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