第3話

 *


 今日も、何もできなかった。


 久方ぶりに読書をしようかと思い、本を広げてみたけれど、目が滑って、思うように読むことができなかった。


 3ページまで読んで、一旦諦めた。


 諦めは、早い方なのである。


 食事は、3食は食べることは出来ない。2食が限界で、それ以上食べると、吐き戻してしまう。


 その後は、ゲームをしてみたり、外の景色を見てみたり、意識の空白を作らないように頑張った。


 本来は「頑張る」ことではないらしいのだが、私にとっては、「努力」が必要なことである。


 意識の空白、余白を作ると、そこにすぐに、負の感情が湧いてきてしまう。


 それは、私の今までの体験から理解していた。


 だから、それを散らすことに、躍起になっていて、結局非生産的な日曜日を過ごした。


 夕刻を過ぎると、言葉にできない罪悪感におそわれる。


 何やってんだろ、私。


 どうして、普通の人たちみたいにちゃんとできないのだろう、私。


 それが、とても嫌だ。


 自分が「普通」から外れるのが嫌だ。


 その枠組みから外れたら、せっかく積み重ねてきた私の「ちゃんと」した人生も、無意味になってしまう。


 まあ、仕事もせず、何もできず、病気の治療に努めている今は、果たして「ちゃんと」しているかと言えば、そんなことは微塵もないのだけれど。


 試しに文章を書いてみても、こんなものしか書けない。


 鬱々とした、陰鬱な私小説。


 最早私を象徴するといっても過言ではない。


 主人公は私、病気を負った私の闘病記――しかしこころの病ほどに、物語映えしない病というのもない。


 いついつに完治する――というのがないのだ。


 一応寛解という言葉はあるらしいけれど、病原菌が取り除かれるとか、症状がなくなるとか、そういうことが、ない。


 下手したら、一生このままかもしれない。


 だったら――いっそ。


 そんな風に思おうとして、私は頭を二度ぶった。


 浮上しそうになる希死念慮を、そうやって散らした。


 昔、良く父から、そうやってぶたれていたっけ。


 過去は、思い出したくないことばかりである。


 その過去のせいで、今の私がある。


 あの時、死んでおけば良かったな。


 もう薄暗くなった空を見ながら、私は思った。




(続)

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