高校の時書いたエッセイが黒歴史だったから一緒に見てほしい

十又水青

17歳の自分(厨二病) VS 23歳の自分

高校時代、国語の時間にある習慣があった。

毎回授業の終わりにコメントを書いて先生に提出する。

次の時間にそれを読んだ先生が返事を書いて返却する。

そんな取り組みがあった。

大抵の生徒は「興味深かったです」「ためになりました」など簡単なことを書く。

しかし、自己顕示欲と承認欲求の塊だった私はそんな程度では終われなかった。

長文を書いた。

ほぼ毎回毎回、お経並みの長文を書いた。

この女、それほどコメントが返ってくる事が楽しかったのである。

次第にその長文は『Tちゃん(本名)エッセイ』と呼ばれ、

職員室で回し読みされるようになった。

しかし『Tちゃんエッセイ』は社会を知らないくせに

自信と自己顕示欲と承認欲求だけはある17歳の少女が書いた物だ。

今読むと、なかなか辛いものがある。

今回はそんな私の黒歴史、『Tちゃんエッセイ』をお披露目しつつ、

23歳の私の手により、ツッコミという名の注釈を加えていこうと思う。

(以下“ ”内の文章が『Tちゃんエッセイ』、

そうでない文章が23歳の私によるツッコミ)


“「紀元前202年、劉邦、垓下の戦いで項羽を破る」。

世界史の教科書の一行の裏に

これほどの物語があると気付かせてくれるのが『史記』の偉大なところだ”


ここはまだいい。

なかなか素敵な文章だったため、教師も赤ペンで線を引いている。


“紫式部や清少納言もこの書物を女ながらに読み、男たちを驚かせたと云う”


云う!!

出ました、云う!!!

「いう」とも「言う」とも書きたくなくて、

かっこいい方の「云う」をわざわざ採用している!!!

自意識が見え隠れしている!!!


“何故鴻門の会で項羽は劉邦を殺さなかったのか。理由は様々あるだろうが、主流なのは項羽が義理深すぎたからというものである”


長いので大略して上のようにまとめた。さて、次の文章が問題である。


“義理は往々にして破滅に導く羅針盤となる”


一気にポエミーになったなぁ?

海外の文豪が言ってそうなセリフだなぁ?

ちょっとくさくなってきたぞぉ?


“宋の王が楚の陣営が整うまで待ったことにより、

宋襄の仁という言葉が残ったように”


難しげな故事を普段から使っているように語っているが、

ネットでちょっと調べて初めて知った単語を書いているだけである。

本人はまったく身についていない。

現に23歳の私が全く覚えていないのだから、間違いない。


“悪徳を犯した勝者より、美徳を守った敗者の首に死神は鎌をかけるのだ”


ああああああ!!!!

くさい!!!!!

対比構造使ってるのもくさいし、

死神が鎌をかけるっていう表現がほんと詩人ぶってて痛い!!!!!

絶対自分のことかっこいいと思ってるよこいつ!!!!!!!


“人間が命をかけて戦う時、そこに善も悪もない。

いや、存在はするが意味をなさないのだ。

銃を突きつけられている時、聖書は弾除けにしかならない。

虫の息の戦士が欲するのは偽善に満ちた言葉ではなく薬だ。

飢えた兵士が欲するのは神の存在でなく、一切れのパンだ。

それらを得るためには何でもする。奪われないためにも何でもする。

それが戦争の条理であり、また世の中の定則だ”


ああああああ、くささ全開!!!!!!

もうだめだ窓開けよう!!!!!!!!

お前絶対タバコ吸ってる刑事とか兵士とかかっこいいと思ってるだろ!!!!!

眠たがりなやつがかっこいいと思ってるだろ!!!!!

教室にテロリスト入ってくる妄想10回ぐらいしてるだろ!!!!!!

リフレイン使っているところも、とってもきつい!!!!! 

後、戦争の条理って言ってるけど、戦争に出たことないだろお前!!!

歴史の教科書でしか知らんやろ!!!

それと、親の金でご飯食べてマンガ買ってるやつが

世の中の定則を語るな!!!!!!

サビ残させられたり非正規になったり生活保護受けたりしてから語れ!!!!!


“そんなディストピアの中で頼り、すがるのは強さ。

ただ、純然たる強さだ。

それが戦いの中で光り輝く松明であり、剣であり、盾なのだ。

それを持って義理・人情・浪花節はようやく意味をなす。

詰まる所、勝者・強者が語る善は謙虚という美徳だが、敗者・弱者が語る善は負け惜しみという偽善に過ぎないのだ”


パパとママの金で生活して、スマホ使ってるガキがディストピアを語ってる!

ディストピアでの生き抜き方を強く語ってる!

お前がやるべきはユートピアへの感謝だよ!!!!!

いますぐパパンとママンに感謝しろよ!!!!!


この後、この文章は筆者の後書きに入る。


“追伸

書き終わった後、読み直しましたが、本当に私はニーチェと同じようなことを語っていたなと実感しました。やはり触れている時間が(恐らく)一番長い哲学者であるため、影響を受けているようです。ニーチェはやはり超えられないようです(笑)

では長文・駄文失礼”


ニーチェ読んでるアピールやめろ!!! 追伸でマウントを取るなボケが!!!!

なにが「ニーチェはやはり超えられないようです(笑)」じゃ!!!!!

超えられるわけないだろあんな偉人を!!!!!! 17歳のお前がぁ!!!!!!

あと、長文駄文を書いて失礼だと思うなら書くな!!!!!

先生だって忙しいんやぞ!!!!!

駄文だと思ってるなら、先生に配慮して短く書けアホンダラ!!!!!


他にもこのような文章があった。


“勝者が高らかにおたけびを上げるその裏では何百人もの敗者(モルモット)が血を流し、涙を流している。

(略)

歴史の編集者達(ワレワレ)はそこを無情にも切り捨て、一行にまとめてしまう”


なんなんだよそのルビ!!!!

「不運(ハードラック)と踊(ダンス)っちまった」かよ!!!!!

こんな文章を読まされている先生が

一番不運(ハードラック)と踊(ダンス)っちまってるよ!!!!!!!

あー、だめだ、お腹痛い……。


……わかった、わかったよ。

百歩譲って敗者(モルモット)は許そう。

でもこれだけは言わせて。

歴史の編集者達(ワレワレ)ってなんじゃい!!!!!

日本語読めんのか? 「の」はな「no」としか読まねえんだよ!!!!

ワレワレなんて読まないの!!!!!!!

わかったら黙っとけ、作家気取り(クソガキ)!!!!!!!


ちなみにこの文章の追伸は以下のようなものであった。


“追伸

また長文になってしまいました。すみません。

後、余談ですが先ほど童話大賞の佳作を受賞いたしましたことを報告致します。

(略)

大賞が取れなかったのは悔しいところではありますが、臥薪嘗胆の言葉のようにこれからも勉学共々精進していきたいと考えております”


普通におめでたい報告だった。

ちなみにお前「大賞が取れなかったのは悔しいところではありますが」とか言ってるけど、ネタバレするとこの後も大賞は取れてないぞ。それが唯一の賞だぞ。

でもお前はここで佳作が取れたことで自分に文才があると勘違いして、創作をやめては復帰して中断しては戻ってくることを繰り返すんだ。たかだか地方の小さなコンテストの佳作なのにな。


……なんだか悲しくなってしまった。

次で最後にする。


“うまいこと 長文書こうと 思ったが 書けずに苦しみ 歌で締める今”


いやうまく長文書けないなら書かなくていいんだよ!?!?

義務じゃないんだからね!?!?

他の子「面白かったです」ぐらいしか書いてないからね!?!?!?

下手な歌読まんでいいからね!?!?!?!?


というわけで、このエッセイを笑い飛ばすエッセイは幕引きである。


きつかった。途中から変な笑いが止まらなかったし、思わずじたばたしてしまった。

過去の自分はいちいち言葉が詩的で、なおかつ強くて、今の自分には毒薬であった。

しかしこの時には言葉にも行動にも強さがあったのは確かだ。

その純然たる強さは確かに武器だった。

たまにはその強さを忘れずにこれからも創作していきたいと思う。
















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