第8話 均衡を崩してしまったらしい


窓から朝の日差しが俺の体に降り注ぐ。あの悪夢の後。阻害魔法が付与された魔宝石を着けたお陰で夢の中で師匠の干渉は無かった。


最高の目覚めである。アリーナから帰って来てやっと地球での平穏な暮らしが始まろうとしているのだ。


なぜわざわざ死にそうな思いを何度もした世界に好き好んで関わらないといけないのか。そう思えて仕方がない。


そんな事を考えながら体を起こすと布団の中に何かいることに気づいた。


「ん?何でここにいるんだ?こいつ?!」


エスフィールが俺の布団の中でスヤスヤと寝息をたてていた。


「ラブコメあるあるだな!だが俺は年上お姉さんしか認めん!ふん!」


スヤスヤ寝ているエスフィールを振り払い俺は、立ち上がった。


「起きるまで寝かしておこう!」


寝間着から普段着、着替え朝食を作るために一階に降りた。感覚的には数年振りである朝食作り楽しみである。


俺は、料理が昔からの趣味の1つであった。そのせいでアリーナに飛ばされてからは料理が一切出来ない勇者パーティーメンバーの代わりに、朝昼晩と料理三昧であった。


パーティーメンバーも王族関係者や貴族出身の人間がいたため味にもうるさく。料理が不味いと作り直させられたものである。

その為か料理の腕はアリーナにいた数年で劇的に向上した。


しかも、アリーナの食材はこちらの世界(地球)に似た食材も多かった為。アリーナに飛ばされる前である小さい頃から料理を作っていたお陰で差ほど苦ではなかった。


「しかし、なにが、高貴の者は、料理等せぬ!だ。ランスのやろう!」


ふとアリーナでの苦い記憶を思い出し愚痴が出てしまった。


魔王討伐、初期の頃、集められた勇者パーティーメンバーでの最初の頃である。名門武家貴族のランスロット、教会法王の孫娘にして聖女のセレス、魔法院での権威を持ち、魔法の名門貴族のサーシャ、武家一族の族長の娘、セシリア・アインズ!異世界から飛ばされた何の後ろ楯を持たない俺、勇者セツナ。

この5人で、魔王討伐の旅に出たのだった。


だが、5人中4人が、高貴の生まれで、彼ら彼女らの今までの人生は、使用人に面倒を見てもらい身の回りの事も任せていた為、生活能力は皆無だった。


だが、各々の戦闘能力は高く尊敬できる所や4人とも高貴の産まれの為。見た目も良く。行く先々の町や村では勇者である俺よりも目立って人気だったことを覚えている。


(俺の顔立ちも女性に間違えられやすい為。ランスロットを勇者と勘違いする人達も結構いた。)


そんな、彼らだが旅に対する知識も無く。町や村以外の時の夜営の準備、旅の道具等の準備、回復アイテムの在庫管理、旅の路銀管理等は、出来なかった為そこら辺の事は全て勇者である俺の役目になってしまった。


夜営の時は。皆が魔王討伐後の夢を語り合い(俺は、食事の下ごしらえをしている中で)、またある時はランスロットの奴が他の女性メンバーと楽しく酒を酌み交わし(俺は、料理の片付け等をし)。


今、思えばとても大変な旅(労働)だった。

だが、これからは、やっと解放されるのだ。

ゆっくりと人生を楽しむ事に使うとしよう。


嫌がらせにアリーナ世界・エウロペ大陸から武器やら魔道具も数え切れないほど持ってきたしね。


そういえば、マーリン先生はそのせいで人間と魔族の力のバランス崩壊し今では人間側と魔族側の力の関係が拮抗してしまったと怒っていたな。


そもそも、俺がアリーナに飛ばされて初めて見た魔族の人達は人間とそれ程違いが無く。強いて言うならば耳が尖っているかいないかくらいだった。


それに人間である筈のエスフィールの様な魔力が高い魔法族が魔族認定されているのにも疑問があった。


しかも人間側よりも魔族側の方が貧しく飢えていた。


それなのにわざわざ俺を転移魔法で呼びつけ勇者として祭り上げ魔王討伐等と良く行ったものである。


魔王城に向かう前に幾つかの魔王側の町や村に寄ったが皆、痩せ細り、疫病等が蔓延し。壊滅寸前になる場所もあった為、見るに耐え難く。反対するランスロットを押し退け。町の復興や疫病の治療等を行い。何度も感謝された事は今でも覚えている。


昨日、エスフィールから魔王側も支援や救助を行っていたが。何者かの妨害や不自然な災害に見回れたりし魔王側で暮らす人達は日に日に追い込まれていたと言っていた。


もしかしなくてもその妨害も人間側の仕業だったんじゃないかと今では考えてしまう。


そんな光景を何回も、見たためか王族や魔法院側に不振を抱くようになった俺はメンバーに隠れて資金集めや情報の入手。魔王討伐後の勇者への粛正等を知る。


キレた俺は大陸中にある人間側の宝物や貴重な魔道具等を片っ端しから回収し。

代わりに土くれで作った模造品を置いて。誤魔化した。もしも俺が、地球に帰還できた暁には、オブジェが土くれに戻るように細工した。


そして今、俺は無事に地球へと帰還できた為。人間側の強力な武器や宝物が土くれに戻りアリーナの王族や貴族連中が慌てふためいていると先生は言っていた。


なぜか魔族側もそれを知り。人間側との交渉に強気の姿勢を見せ、人間側は四苦八苦しているとの事。 


このまま話が進み人間側と魔族側の力の関係が拮抗すればアリーナの世界・エウロペ大陸も以前よりも平等になり。平和な世界になると俺は信じたい。


これまでのアリーナでの歴史は人間側だけが強い武器を持ち優劣が人間側に決まっていたが今のアリーナにはそれがない。

なので、以前の様な傲慢な対応を、人間側は出来なくなっているのは間違い無いと考える。


「これを機にアリーナ世界も平和になると良いな!」

独り言の様に呟き、俺は、キッチンに向かった。



昨日はなんとありがたい事にこちらの世界では祝日で休みだった。


これもアリーナでの日頃の行いが良かったからだろか?


だが今日からは俺がアリーナに飛ばされるまで通っていた聖豊中学校の登校日の日だ。


しかし感覚としては昨日までアリーナで旅をしていた感覚でこちらの生活に慣れるためにも時間が欲しくなる。急な食あたりと学校と両親には連絡を入れ体調の様子を見るため一週間程休みたいと連絡した。


それにエスフィールをこのまま家に1人にさせておくのも申し訳ないと思った。


休んでる間のこの一週間で。地球での暮らしに慣れてもらう為と少しでも日本の知識を教える為に時間が欲しかった。


正直、学校を休んで勉強が遅れるよりも今の問題を先に解決しておきたいと考えた。

聖豊中学校は全国でもかなりの進学校たが仕方がない。


考えもまとまったので朝食を二人分作ることに頭を切り替えた。食材は昨日、エスフィールと一緒に出掛けた時スーパーに寄り。2、3日分をまとめて買った。


まずはボールの中に卵、生クリームを適量入れ塩、胡椒で味を付け、かき混ぜる。フライパンを熱し、そこにバターを二切れ投入、溶けて、熱し始めたら溶かし混ぜた卵を投入、焦げないように火加減を調整し綺麗に形を整え皿に盛り付けた。サラダをそえる。


オーブントースターで食べやすく切った数斤の食パンを表面がカリカリになるまでや焼き皿に並べた。


ありふれた朝食のスタイルだがアリーナでは町や村での宿場での寝泊まり以外はゆっくりと食事を楽しめる時間が、取れなかったのでこれからはゆっくりとした食事を楽しみたいと思う。


朝食の準備をしていると眠たそうに目を擦るエスフィールが、起きて一階に降りてきた。


「おはようなのじゃあ~!」


昨日まで死闘を繰り広げていた相手とはとても思えないくらいボーッとしていて警戒心が無い為心配になる。


「朝ごはんできるよ。冷めないうちに食べよう」


「うん!ありがとうじゃ~」


そうして昨日と同じようにエスフィールと向かい合わせにテーブルに座り朝食を食べた。


アリーナにいた頃もパーティーメンバーで一緒に食卓を囲んで食べるのが日課だった為、(俺は、素早く食事を終え、雑務をしながらだが。)誰かと食事を一緒にするのが当たり前になっていた。


アリーナでは色々と酷い目にはあったがいろんな人達と出会い人間の良い面、悪い面を、見ることになって精神的な部分で成長出来たと思う。


地球に戻って来て魔法が使えなくなってしまったが失う物ばかりでは無く得られたものも沢山あったのだ。


先ほどトーストが焼ける間にアリーナで回収し地球で使うと危ないと思った貴重な魔道具や魔道具は封印の小箱というアイテムにしまい。鍵をかけたこの鍵は俺がアリーナにいた時に作ったオリジナルで。一度閉めてしまうと鍵の製作者以外は絶対に解除出来ないようになっている。


それでも誰かに持ち出されて悪用されても危険だと思い。封印の小箱の周りにも色々な細工をした。そのうち時間ができたら海の底にでも沈め。(マリアナ海溝辺りとか)誰かの手に絶対に渡らせないようにしようと思う。


金銀財宝の方は今後。俺の身に何かあった時に役にたってもらう為。アリーナでの戦利品代わりに上手く使わせて頂こう。

頭の中で回想していると、エスフィールが話しかけてきた。


「セツナ!今日は何かしたりするのか?」


「今日は学校を休んだからエスフィールにこっちの生活に慣れてもらうために時間を作ったんだ!」


「学校?!お主、こっちでは学生なのか?」


なぜか、凄い驚いた顔をされた。アリーナにも人間側、魔族側関係なく町や村には学舎が、あったはずだがどうしてだろう?


「そうだよ。俺はまだ学生だ。ちなみにアリーナにいた時も魔法院に数年間。在籍したことがあるからな」


「勇者が、学生をのう!」


そう言って何か考えにふけ始めたが今日の議題について話すことにした。


「そんな事よりエスフィールにはこっちの生活に慣れてもらうためにこっちの事を少し勉強してもらうことにするが、それでいいかな?」


「うむうむ。私も昨日から地球のことが色々と知りたいと思っていたのじゃ。よろしく頼むのじゃ!」


そう言って嬉しそうに首をブンブンと縦にふった。

話はまとまったので朝食を片付けて早速、エスフィールの勉強を始める事にした。


それとなぜか、昨日はあんなにやりたがらなかった片付けを一緒にやってくれた。やたら距離が近かったのはなぜだろう?


謎である。

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