歯ブラシ同棲中
「ぼくはもうだめみたいだ」
「いやよ! ひとりにしないで!」
「ピンクちゃん、今までありがとう」
「青くん! しっかりして!」
コップに立つ二本の歯ブラシたち。
ピンクの歯ブラシは未だ美しさを保っているが、青色のそれは毛の先が広がり、まるで使い古したデッキブラシのような有様だ。
「今日は彼女が水回りの掃除をする日だ。きっとぼくは、洗面台をごしごしされて、ポイさ」
「まだ大丈夫よ! もっと優しく磨くよう、あたしが彼氏を説得してみせるから!」
無情にも脱衣所のドアが開く。現れた彼女は迷いなく青くんを掴むと、汚れた排水口に突っ込んだ。無力なピンクちゃんは叫び声すらあげず、地獄絵図を見下ろしながら、ただ涙を流し続けた。
いつまでこうしていただろう。気付けば彼女はいなくなり、ピンクちゃんはひとりぼっちになっていた。
「あああ! あのクソ男! 磨く力が強すぎるのよ! 歯ぐき下がっちまえ! 青くんを返せー!」
「呼んだ?」
はっとして振り向くと、そこにはなんと、新しい歯ブラシがいた。豊かな毛にはつややかなハリがあり、くすみのないボディは光を反射してまぶしいくらいだった。見た目は違う。でも、声は……。
「あ、青くん……?」
「ピンクちゃん、ぼくは新品として生まれ変わったみたいだ。今回はみどり色になったよ」
「うわーん!」
歯ブラシは輪廻転生する。
命は限りあるから美しいと言うけれど、歯ブラシくらい、生き返ったっていい。
ちょっとだけ飛べるペンギン 水野いつき @projectamy
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