キャリーケース狂想曲

「しっかりしてくれよ! デカいのは図体だけじゃねえか!」

「完全にキャパオーバーなんだよ! オレは一泊想定の設計だ!」


 社会人一年目のこの男、明日から出張だというのに荷造りが一向に終わらない。


「とりあえず枕を出せ! どう見てもかさばってんだろ!」

「よせよせ! 俺は枕が変わると眠れないんだ!」

「ならその箱入りフィギュアを諦めるんだな!」

「まっ魔法少女ユメユメのことか!? ふざけんな! ユメユメは留守番できない!」


 キャリーケースは大きくからだをふるわせ、中身を床にぶちまけた。


「いいから言う事を聞け! オレはビジネス用として、お前の出張を成功させる義務がある!」

「くそ……だからバックパックがよかったのに……」

「てめえ! もういっぺん言ってみろ!」

「バックパックの方が!! よかった!!!」

「うおおおおおお!!!!!!」



 取っ組み合いの喧嘩は朝まで続き、満身創痍の男は片手にキャリーケース、片手に枕とユメユメを抱えフラフラと新幹線に乗り込んだ。

 キャリーケースの中には着替えとパソコン周辺機器が詰まっている。

 大切な書類は部屋の机の上だが、男とキャリーケースがそれに気付くのはもう少し先の話だ。




<おわり>

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る