偽物の宝石
「やっぱりやめるわ」
「ええっ。ここまで来て、今さらなんだっていうのよ」
「だってあんたより綺麗なピアスが見当たらないんだもん」
女の耳たぶでひかえめに輝く人工宝石は、ショーケースに並ぶ本物のダイヤモンドたちに萎縮して小声でささやいた。
「気を使わないでよ。たまに思い出して付けてくれれば、あたしはそれで十分よ」
「五年も一緒だったじゃん。もうあんたは私のからだの一部なの。早く帰ろう」
「待って待って。あなた、新入社員のとき、お金が貯まるまでの間に合わせであたしを買ったんじゃない。一生ものなら、やっぱり本物じゃないと」
「本物だもん」
「え?」
「あんたの美しさは、本物だもん!」
女の叫びは人工宝石の心に刺さった。
まがい物、なり損ない、みっともない偽物。誰かに言われたわけではない。人工宝石は、自分の首を絞めていた。本物への憧れが、持ち主への愛情が、イミテーションとして生まれた人工宝石に強いコンプレックスを抱かせていた。それを今、女の言葉が打ち砕いた。
「……あたし、綺麗かな」
「もう、しつこいな。自分で見てごらんよ」
女が微笑んでいたからかもしれない。でも、試着用の鏡にうつる女の顔は、人口宝石が反射する光を受けて、確かに明るく輝いて見えた。その美しさはまぎれもなく本物だった。
「帰ろう」
「うん」
<おわり>
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