鳥の王様選び

 ある日神様が「一番美しい鳥を王様にする」と言いました。

 様々な鳥が「勝ったな」と内心で拳を固めました。鳥だけど。孔雀とか白鳥とかクルマサカオウムとかヘビクイワシとか、羽根が綺麗とかくちばしが綺麗とかフォルムが綺麗とか、まさに百花繚乱といった風です。鳥だけど。

 そんな中、面白くなさそうにしている鳥がいました。カラスです。他の鳥と比べるといまいちぱっとしないので。

 どうしたものか。カラスは考えました。

 そうして王様を選ぶ日がやってきました。カラスは広場に向かう道に落ちている他の鳥たちの羽を拾い集め、己を飾り立てました。すべてを兼ね備えしご陽気な極楽鳥といった風情です。これは勝った。カラスは堂々と広場に姿を現しました。

 突然現れた見慣れぬ鳥に皆の目は釘付けになりました。が、それは一瞬のこと。すぐにそのご陽気なメカニズムに気がつきました。

「私の羽根じゃん」

 アオカケスが指差しました。一羽が気づけば後は早い。皆次々とカラスの中に自分の一部を見いだし始めました。そして非難します。

「オマエそれ自分の羽根じゃないじゃん!」

「人の褌で何イキってんだ! 鳥だけど!」

「私の羽根勝手に使うな! 返せ!」

「別にずるくないし」

 カラスは口を尖らせました。鳥だけど。

「ていうかこの羽根は皆が落としてそのままにしていた、いわば不要なゴミなわけ。それを有効活用して意味と価値を持たせたのは私だし、私のセンスは私の延長線にあるものなんだから、これは私の総合的な姿ってわけ」

 それっぽい理屈をまくしたてます。いや、それはそうだけど何かおかしくない? と鳥たちは思いましたが、わざわざ言語化して説明するのはとても面倒です。正直ダルい。

 黙って聞いていた黒鳥がくちばしを開きました。

「ずるくはないけどセンス微妙だと思うんだわ」

 その瞬間、皆の割と厳しめの審美眼がカラスに集まりました。

「ああ、それもあるね。それ以外もあるけど」

「色の合わせ方がおかしい」

「引き算できんやつやわ。」

「ここ邪魔じゃない?」

「尾に移動させましょ」

 などと口々に言い合いながらカラスの羽根をいじり始めます。

「あの、私たちも参加していいですか?」

 王様選びを遠巻きに眺めていた地味めの鳥たちも参加を表明しました。「これならうちらもできますし。てゆっか誰でもできますし」「やるだけならね」

 そしてカラスは皆のマネキンと化しました。色んな羽根を抜いたりつけたり抜いたりつけたり抜いたり抜いたりつけたりつけたり抜いたりつけたり抜いたり抜いたり延々とやり続け、ついに針山のようなありさまで逃げ出しました。

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