シンデレラ・A

 舞踏会の広間に十二時の鐘が鳴り響きます。シンデレラは驚いて辺りを見回しました。

 王子と過ごす時間が楽しすぎて制限時間のことをうっかり忘れていたのです。「十二時になったら魔法が溶けてしまうから気をつけるんだよ」魔女の言葉が甦ります。

 今鳴っているのは十二回分のうちの一つめです。魔法が解けてしまわないうちにお城を去らなければなりません。シンデレラは王子に背を向け走り出しました。

 二つめの鐘が鳴ります。ガラスの靴の輪郭が溶け、ランニングシューズの姿を取りました。

 三つめの鐘。靴はシンデレラの足に無理なくフィットし、厚みのある靴底は着地の衝撃をしっかりと吸収します。

 四つめ。魔法の解けかけたドレスがパンツスタイルのシルエットを形作ります。五つめ。空気抵抗の点ではまだまだ改善の余地がありますが、一定の動きやすさを保証します。六つめ。七つめ。八つめ。シンデレラは力強いフォームで後続の王子らを更に引き離します。九つ。十。十一。魔法が本格的に解け始めましたが、ここまで来ればとりあえずは大丈夫でしょう。

 十二。すべての鐘が鳴り終え、シンデレラはすっかりもとの姿に戻っていました。ガラスの靴だけが残っています。左右とも、です。最後までシンデレラと共に駆け抜けました。駆け抜けてしまえた、とも言えます。

 シンデレラは少し考えると、片方の靴をいかにも途中で脱げた風に目立つ場所に置き、残った側の靴を持って帰りました。

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