4章 第8話 女王への謁見

 ニーナの後とついて、深紅の秩序の砦の内部に入っていく星辰たち三人。内部は、いかにもSFに出てくる宇宙の基地と言った趣だった。エレベータに乗って最上階で降りて、四人はまた歩いた。


(犯罪組織が支配する星で、よくもこんなもん造ったな。いや、正式な政府がないからこそ造れたと言うべきか……)

 アクイラは内部の構造を見て感心している。


「はあぁ、中に入ってみても本当に大きい砦だね」

 星辰も歩きながら、感心したように砦の内部を見渡した。元々好奇心は強い方だ。


「でも、これだけ大きいと、この星を支配している悪い奴らに攻められない?」

 星辰が前を歩くニーナに聞いた。


「そうですね。何回か戦闘になってます。でも、そのたびに頭領が先頭に立って追い払っているんです」


「へえ、ユーラーさんってすごいんだね」


「ええ。おかげで入団希望者もうなぎ上りなんです」

 ニーナは自分の事の様に少々得意げに言った。


「わざと攻めさせて、それを追い払うことによって人を集めたってことだ。アルゴルの支配に嫌気がさしてる奴は五万といるだろうからな。これだけの大きさなら、アルゴルにとっては目障りだし、不満持っている奴らには良いシンボルになる」


「この砦が大きいのも計算ってこと?」


「だろうな。単純に派手好きってのもありそうだが……。さすがにA-級指名手配犯ってところか」

 星辰の疑問にアクイラは答えた。


「A-級指名手配犯?」


「銀河連邦警察の指名手配犯のランクだ。大きくS級~D級ある。ちなみにその女はB級指名手配犯だな」

 さっきからずっと黙っていたルベルが会話に入ってきた。


「へえ、アクイラでB級なんだ」

 星辰が少し、意外そうにアクイラを見た。


「まあな」


「そう言えば、月影先生にそんな風にクラス分けされているって教わったっけ」

 星辰が少しバツが悪そうに頭をかいた。


「同じAやBでも、A+、A、A-など細かく分かれている。同じA級だとしても、A+とAと一つクラスが上がっただけでも、指名手配犯の凶悪さが段違いだ。銀河連邦の警察官ならこれくらい覚えておけ。」


「ああ、うん」


「さて、つきました」

 巨大な扉の前で、ニーナそう言ってが後ろにいる三人に振り返った。

 

「……」

 さっきまで饒舌だったルベルは、そこで無言になった。顔色が若干悪い。


(ここまで来たことを後悔してやがる。ざまあねえな)

 アクイラはルベルの様子を見て含み笑いをした。


「頭領。ニーナです」


「ああ、入れ」

 扉の前でニーナが名乗ると、女性の声が聞こえて扉が開いた。


「では、こちらに」

 ニーナはそう言うと扉の中に入っていく。

 部屋の中はまるで中世ヨーロッパの王の謁見の間の様相だった。

 三人はニーナを先頭にする様に部屋の中を進んだ。思った以上に広い。

 また、ニーナを含めた四人が部屋に入ると扉はゆっくりと閉まった。


「へえ。まるでファンタジーの王様の部屋だね」

 星辰が目を丸くして部屋を見渡す。


(本当それだ……。海賊と言うより、まるで女王か女帝の間だな。たいした趣味だぜ)

 まさに女王の間である。


「お待たせしました頭領。こちらが、お話しました三人です」

 ニーナは立ち止まると、いかにも女王が座るような椅子に座っている三十代半ばと思われる金髪の美しい女性に声をかけた。顔を見ると右目の上から眉間、左頬にかけて大きな刀傷がある。


「ご苦労」

 椅子に座っている女性がニーナを労う。

 ニーナはその後、椅子の横の位置まで歩いて進むと星辰達の方向に立ったまま振り向いた。

 まさに女王の従者である。


(この椅子に座っている女がユーラーか。顔の刀傷も大仰なこった……。治療しないのはわざとかね)

 アクイラはその顔の刀傷を見て思った。

 ユーラーは派手な赤い色の露出の高い服を着ており、艶やかな谷間と太ももが覗いているが、またそこには生々しい歴戦の刀痕が残されている。


「その赤い髪はルベルだね。随分でかくなったじゃないか? ロカは元気かい?」

 ユーラーはルベルを見ながら話しかけてきた。


「は、はい。元気です」

 ルベルが少し動揺しながら答える。


「ふん。ちなみにロカは今、銀河連邦警察の階級はどれほどだい?」


「三等警視です」


「ほう。あの世渡り下手な男が三等警視とは、ロカめ少しだけ見直したよ」

 そう言うとユーラーは少しだけニヤッと笑った。


「まあ、雑談はこれまでにしようかね。要件を言いな」

 ユーラーが顎をしゃくってルベルに喋るように促した。ルベルに説明をしろと言う事だろう。


「……では」

 ルベルは少し咳払いするとユーラーに向かって自分たちの状況を説明をした。


「なるほどね。状況は大体わかったよ」

 ユーラーは組んでいる足を組みなおした。


「そこの真ん中のちっこいのが、ティグリス警視とアリアさんの息子って訳かい?」

 ユーラーは星辰を見ている。


「ち、ちっこい……」

 ちっこいと言われた星辰は少しショックを受けた。

 

「そうです」

 ルベルが代わりに答えた。


「じゃあ、そっちの娘がアクイラだね。あんたのことは少しだが知ってる」

 次にユーラーはアクイラを見て言った。


「音に聞こえた海賊ユーラーに知られているとは光栄だね」


「しかし、妹が人質になるなんて、下手こいたね。単独での行動には限界がある。組織に所属していない弊害だね」


「……」

 アクイラはユーラーを黙ってにらんだ。


「確かにアタシにはティグリス警視とアリアさんには恩義がある。その息子に地球とやらに連れてけと言われれば、考えてやらんでもない」


「じゃあ……」

 その言葉に星辰は少しだけ喜色を顔に表した。


「とはいえ、今のアタシは銀河連邦警察でもなければ、慈善事業家でもない。宇宙海賊さ。タダでって訳にはいかないね」


(まあ、そうなるだろうな。さて、どんな交換条件だ?)

 アクイラにとっては想定内の答えだった。


「何をすればよろしいでしょうか?」

 ルベルがユーラーの様子を伺う様に聞いた。


いくさだ。手伝ってくれたら地球に送ってやる」


「それって、もしかして……」

 星辰がユーラーを見て聞いてくる。


「そう。この星を支配するアルゴルとの戦だ」


「頭領。それはいくらなんでも……。彼らはこの星の戦いには関係ない人たちです」

 ニーナが口をはさんできた。


「関係なくはないね。ルベルとそのちっこいのは曲がりなりにも銀河連邦の警察官で犯罪組織の連中を捕まえる責務があるし、そっちの嬢ちゃんは妹がクスカの人質になってる」


「ですが……」


(捕まえる責務で言ったらとA-級の指名手配犯のあなたもなんですが……)

 ルベルは表情に出さずに心の中で突っ込みを入れた。


「まあ、数ではこっちが上だ。ただ烏合の衆ってやつでね。ファミリアが使いこなせる頭数が少ない。三人でもファミリア使いが戦力に加わるのはこっちとしても願ったりだ」


(戦争か……)


(これは、どうするか……)

 アクイラとルベルはどうするか考えをまとめている。


「分かりました。お受けします」

 アクイラとルベルが考えをまとめている中、星辰が即決した。


「じゃあ、決まりだ」

 星辰の答えを聞いたユーラーがニヤリと笑った。

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