4章 第9話 信頼

「おい。星辰。戦争だぞ」

 星辰とユーラーのやり取りを聞いたルベルが星辰を止める。

 アクイラも驚いて星辰を見た。


「黙りな! ルベル」


「はい」

 ユーラーの一喝でルベルは黙った。


「まあ、一応なんでアタシ達の加勢をする気になったか聞いておこうか? そんなに地球に帰りたいのかい?」

 ユーラーは視線を星辰に向ける。


「それもあるけど、アルゴルよりあなたの方がマシだと思ったからです」


「マシ?」

 ユーラーは少し怪訝な顔で星辰の話を聞いている。


「はい、ここに来る途中に道すがら色んな人達の話を聞きました。みんなアルゴルは嫌いで、あなたたちのことは良く言ってました。それに……」


「それに? なんだい?」


「アクイラの妹さんを人質にしたり、星を支配してこの星の人たちを苦しめてるアルゴルはものすごく嫌いです。だから、あなたがあいつらをこの星から追い払うって言うならそれに加勢したいです」


(くそ。今更だが、こいつこういう奴だった……)

 ルベルは少し諦めた様にうなだれた。


「ふん」

 星辰の話を聞いたユーラーはゆっくりと椅子から立ち上がった。


(この女、思ったよよりでかいな……)

 ユーラーはアクイラが見上げるほど長身だった。

 立ち上がったユーラーは星辰へと歩いて近づいた。


「ふっ、よく言ったよ。さすがティグリス警視とアリアさんの息子だ。気に入った」

 星辰の前に立ったユーラーは、星辰の顔を見ながらこう言った。

 身長差から星辰が見上げて、ユーラーが見下げる様になった。


「さて……」

 ユーラーは踵を返すと、ゆっくり歩いて戻り椅子に座った。


「あのアルゴルの塔にいる幹部だが、ドロースと言う」


「なんだと! ドロースだと!」

 ユーラーから出た名前にアクイラが反応した。


「アクイラ?」

 その様子に星辰は驚きアクイラは見た。


「ドロースはクスカの愛人で右腕と言われている女だ。まあ、お互い打算的な関係でもあるんだろうがね」

 ユーラーが説明を加える。


「クスカの仲間……」


「さて、どうするお嬢ちゃん。その坊ちゃんを捕まえてドロースに渡すのかい?」

 ユーラーがそう言うと、部屋にいた全員がアクイラを見た。


「……」

 アクイラは複雑な表情でユーラーを見た。まるでにらみつける様だった。


「はっきり言ってやる。妹は諦めな」


「ああ? なにを言ってやがる」

 アクイラが少し気色ばむ。


「妹の名はコルムだったか? 千里眼の能力にもピンキリがあるが、ピンの方だね。広い銀河の中でも貴重な能力だ。そんな能力者をクスカが、そう簡単に手放すと思うか?」


「それは……」

 アクイラが言いよどむ。


「クスカはお前らを利用してるのさ。まあ、貴重な能力を持ってる限りは大事にされるだろうよ。殺されはしない」


「コルムは一生奴らに道具として扱われる」

 アクイラが反論する様に言った。


「だから、死にゃしねえって」


「ふざけるな!」


「じゃあ、そこの坊ちゃんをドロースに渡すかい。その坊ちゃんはアタシに手を貸すと言った。そう言った以上、戦が終わるまで客人と扱う。あんたに手を出させないよ」

 首を少し傾ける様にユーラーが言った。


「ぐっ……」


「さらわれている時点で詰んでるだよ。だから諦めな。で、アタシに手を貸しな。戦が終わったらアタシの傘下に入っても良いじゃないかい?」


(そうか、もしかして、この人はアクイラを自分の部下に入れようと……)

 ルベルは二人にやり取りを見てそう思った。


「……」

 アクイラは黙っている。


(思ったより情に厚いね。これは戦場に連れて行くのは危険か……。説得は五分五分だと思ったアタシの見立ては甘かった様だ)


「しょうがない。この様子だと、途中で裏切る可能性があるね。悪いが牢に入れさせてもらうよ」


「な……。この、やってみろよ!」

 牢に入れると言い出したユーラーに対して、アクイラが敵意をむき出しにする。


「ほう、面白い。やりやってみるかい。小娘」

 ユーラーがアクイラをにらみつける。凄まじい殺気だ。


(アクイラは確かに通常の人間よりも強力な力を持っているが、この人にはかなわん。まさに子供と大人の喧嘩だ)

 ルベルは二人の様子を傍観するつもりの様だ。


(アタシよりも強力な力を感じる……。ちくしょう。残念だが、格が違う)

 ユーラーの殺気から自分より格上の力を持っていることをアクイラは感じていた。


「待ってください!」

 二人の一触即発を止めたのは星辰だった。


「アクイラは貴重な戦力だと思います。連れて行くべきです」


「ふん。戦力になると言うのは一理ある。だが、今の様子を見ただろう? その嬢ちゃんは裏切る可能性があるよ」


「僕が気を付ければいい事です。それにアクイラが裏切ろうとしても、その前に、そのドロースってやつをやっつけるんです。そうしたら、裏切ったことならない」


「なんだその理論は?」

 ルベルが話に入ってきた。


「変かな?」

 星辰はルベルの方をみて少し首を傾げた。


「無茶苦茶で意味不明だ」


「うーん。そう? じゃあ、捕まえるのはどう? そしたらアクイラがドロースをやっつけるのに手を貸したことをクスカにばれないんじゃ」


「そう、うまくいくかよ」


「おい」

 ユーラーがルベルをにらみつけた。


「……」

 ユーラーににらみつけられルベルはまた黙った。


「だが、ルベルの言う通りだね。めちゃくちゃだ。よしんばドロースを捕まえたとして、その嬢ちゃんが裏切ったらどうする?」


「地球に帰るまでは裏切りません」


「……」

 アクイラは星辰を見つめている。


「なぜ、そこまで言える?」

 ユーラーは星辰に聞いた。星辰が何を言うか興味があるようだった。


「アクイラを今は仲間で信頼しているからです」


「また始まった」

 ルベルがぼぞっとつぶやく。


「聞こえてるよ」

 ユーラーがルベルをにらむ。


「坊や、信頼しているから裏切らないなんてことはないんだよ? むしろ信頼してた奴が裏切るなんてことは世の中ザラにあるんだ」

 ユーラーが星辰を諭すように言った。


「それは理屈として分かります……。でも……」


「でも?」


「知り合ってまだ日は浅いけど、アクイラはいきなり不意をついて僕をさらうようなことはしないと思います」


「そうは言うがね。人は切羽詰まったら何するか分からんのだよ? 優先順位では人質の妹が最優先だろ?」

 ユーラーはアクイラを見た。アクイラが視線をそらす。


「でも、信じるしかないと思います。僕はアクイラを最後まで信じたい。仮に彼女が裏切っていたとしても」

 

「星辰……」

 星辰の言葉を聞いた、アクイラが星辰を見た。


「ふん」

 ルベルがあきれた様に明後日の方を向いた。もう好きにしろと言う事だろう。


(ティグリス警視とアリアさんの息子か……。この性格はもしかして……)

 ユーラーを右手で頬を支えながら、星辰をじっと見つめた。


「ふ。お人よしと言うより、底なしの馬鹿だね。ルベルがあきれるのも分かるよ」

 ユーラーも少しあきれたように言った。


「はは……。自分で言うのもなんですけど、そうかも……」

 星辰は少し自重する様に笑う。


「坊やが、そこまで言うなら、そのお嬢ちゃんを拘束するのはやめよう。戦力としてあてにしよう。それに、ドロースとは因縁がありそうだ。あの女をぶちのめしてやりな」


「ふん。言われるまでもねえ」


「ただし、完全には信頼はしない。少しでも妙な動きをしたら、裏切ったと見なして後ろから撃つ。坊やもそれでいいね?」


「はい」

 星辰が返事をする。


「しかたねえな……」

 アクイラも同意した。

 ルベルは本当に少々投げやりなった様な表情で、その様子を見ていた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る