4章 第2話 別の星にて

 星辰、ルベル、アクイラの三人がエクスプローの影に飲まれて数時間後に話は戻る。


「う、ううん……」


「気が付いたか星辰」

 星辰が目を覚ますと、そこにはルベルが目の前にいた。


「ルベル?」

 目の前のルベルを見た後、星辰が周り見渡す。


「ここはいったい?」

 星辰は周りを見て多少、困惑した。

 見覚えが無い景色で、何かの建物の中にいる様だった。いつぞやの廃ビルの様な雰囲気の建物だ。


「俺もどこか分からんが、地球ではなさそうだ」


「そんな……ここは地球じゃないだって?」

 ルベルの答えに星辰が多少の驚きをもって聞いた。


「多分な」


「そうか、僕たちエクスプローの影に飲み込まれて、ここに飛ばされたんだ」


「ふん。思ったより冷静だな。もっと取り乱すと思ったが」


「十分、驚いているよ」


「ふん」

 ルベルが鼻を少しならした。


「ルベルは怪我は大丈夫なの?」


「超能力で治療した」


「そんな能力あったんだ」

 星辰が感心した様に言った。


「応急処置程度のレベルだがな。それでも、ある程度は動ける」


「そう、良かった」


「ふん」


「そういえば、アクイラは?」


「自分をさらおうとした相手の心配か?呆れるな」


「そんなことを言われても……そう言う性格だし」


「そうらしいな……。そこに寝てるぞ」

 ルベルが、右手の親指で自分の後ろに寝ているアクイラをさした。

 星辰が寝ているアクイラのそばによっていく。


「寝ているだけ?」

 アクイラの様子を見た星辰はルベルの方を向いて聞いてみた。


「おそらくな。医者じゃないから詳しくは分からんが、問題ないだろ」


「そう、良かった…………君、アクイラに寝ている間に何かしてないよね?」

 アクイラを見た星辰がルベルに聞いた。


「貴様、無礼だぞ! 俺はそんなことする様に見えるか?」


「ご、ごめん。……いや、でも……」


「いや、でも。なんだ?」


「い、いいやなんでもない……」

 星辰の様子を見たルベルが近づいてくる。


「お前、疑ってるな?」


「い、いいや……」


「目が泳いでるぞ?」


「そ、そんなことは……あはは」

 星辰はかわいた笑いをした。


「寝ている女に何かすると思うか。おれは警察官だぞ」


「そ、そうだね。本当にごめん」


「ふん。まあいい」


「う。うう」

 その時、アクイラが目を覚ました。


「アクイラ。気が付いたんだ」

 

「おまえは星辰?」


「良かった。大丈夫そうだね」

 星辰はそう言うとニカっと笑った。


「ここは? そう言えばアタシはあの女のファミリアの影に飲まれて……」

 アクイラは上半身を起き上がらせながら言った。


「あの影に飲まれて、地球とは別の星に飛ばされたみたい」

 星辰がアクイラに説明した。


「なんだと?」

 少し驚いた様にアクイラが星辰に聞いた。


「星辰の言う通りだ。どこの星かはまだ分からんがな」

 ルベルが星辰の代わり答える。


「あの女、なに企んでやがる……」

 アクイラが不快感を隠さずにつぶやいた。


「お前ら、一応仲間……なんだよな?」

 ルベルがアクイラに聞いてみる。


「仲間に見えたか?あの女はクスカの部下で、アタシは依頼されているだけだ」

 アクイラが腹立たし気に言う。


「ふん。まあ、立場違うって言うのは理解した。人質みたいになっていたしな」


「あれは油断しただけで……」

 アクイラはバツが悪そうに少しうつむいた。


「星辰が、異常なほどのお人よしで良かったな」


「異常なほどって……そこまで言う?」

 星辰がルベルに異議を唱える。


「どこの世界に自分をさらいに来た女を人質されて、攻撃を躊躇するやつがいる?」


「ま、まあ、そうかもだけど……だって見捨てられないよ」


「お前の優しさには感心するよ。おかげで地球とは別の星に飛ばされたがな」

 ルベルが皮肉にこめて星辰に言う。


「ごめんって……」

 星辰が申し訳なさげにルベルに謝る。


「おい」


「何?」

 アクイラに不意に話しかけられて星辰は、その方を向いた。


「……その、こんなこと言うのは変な感じだけどよ……。一応、礼は言っておく……ありがとよ」

 アクイラが少し顔を赤らめながら星辰に言った。照れくさいらしい。


「別に僕は何もしてないけど……」

 星辰はそう言うと顔をぽりぽりと少しかいた。


「礼くらい言わせてやれ。お前が見捨てたら、その女は死んでいた」


「けっ。おまえには言わねーけどな」

 横から入ってきたルベルにアクイラは顔を背けながら言った。


「結構だ」


「へっ。そうかよ……」

 アクイラはそう言うと立とうとした。


「ぐっ……」

 しかし、力を入れると右足に痛みが走りいったん立つのをやめた。


「あ、右足を怪我してるね」 

 星辰が心配そうに、怪我をしているアクイラの右足を見た。ふくらはぎのあたりに傷口がある。


「傷はふさがってるみたいだけど……」

 星辰はかがんでアクイラの怪我を見た。

 傷はふさがっているが、本来なら傷口を針で縫わなくてはいけないかもしれない傷に見えた。


「こんなの平気だって……くっ」

 そう言ってアクイラは再度立とうするが思ったより傷が痛む様だった。


「ルベル」

 星辰がルベルに近づく。


「断る」

 ルベルがそっぽを向きながら言った。


「まだ、何も言ってないけど……」


「その女の傷を治せと言うのだろう」

 今度はルベルが星辰の方を向いて言う。


「そうだよ。いいだろう?」


「見たところ、我慢すれば立てないほどではない」


「でも、彼女痛がってるじゃないか?」


「応急処置程度しかできん」


「それより、やらないよりましだろう?」


「おい、もういいって、その赤頭の言う通りで我慢すれば立てるからよ」

 アクイラが見かねて割って入った。


「いや、良くない。なんでそこまで彼女の治療を嫌がる?」

 星辰がムキになって答える。


「そいつは、ブーステッドヒューマンだ。その程度の傷はすぐ治るさ」


「ブーステッドヒューマン?」


「知能や身体能力、超能力などを強化された人間だ。怪我の治りも早いはずだ」


「そんなの関係ない。すごい痛そうじゃないか。それに動くと傷口が開くじゃないか。君、女の子には優しいはずだろ? 彼女は女の子だぞ」


「そいつは敵だ」


「分かった、もう頼まない!」

 星辰は怒ってアクイラの方に歩いていく。


「ふん。どうする気だ?」

 その様子を見た、ルベルが肩をすくめる。


「もういいって、そいつの言う通り治りも早いからよ」

 そう言って立ち上がろうとするアクイラ。だが、そうは言っても辛そうだった。


「大丈夫。そのまま動かないで」

 星辰はアクイラに近づくと立ち上がろうとしていたアクイラを制した。

 そして、アクイラのそばにかがむと、ふくらはぎの傷がある箇所に右手をあてた。

 ただし、手はふくらはぎには触れていない。


「お、おい。どうする気だ?」

 アクイラは星辰の行動に少しとまどっていた。


「最初からこうすれば良かった……ちょっと待ってて、多分、僕にも出来る……」

 星辰がそう言うと目をつぶった。

 すると、アクイラのふくらはぎをかざしていた星辰の右手が光った。

 その光がアクイラの傷をふさいでいった。

 

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