3章 第7話 見捨てることが出来ない

「なっ!」

 アクイラが自分に飛ばされた石を避けようとする。

 だが石はアクイラではなく、アクイラの影に向かって放たれたものだった。


「うふふ」

 その声と共に、ラートルがアクイラの影から出てきた。その横からラートルのファミリア・エクスプローも出現する


「な、てめえ。いつの間に!」

 アクイラが驚きラートルの方に向きを変えた。

 その瞬間ラートルが指を鳴らした。

 アルタイルとデネブの影が巨大な刃物の様に二体のファミリアを真っ二つにした。


「デネブ!」

 ルベルが叫ぶ。


「アルタイル! このてめえ!」

 アクイラがラートルに殴りかかるが、影が伸びてきて盾となりラートルには当たらなかった。


「うふふ」

 ラートルはさらに指を鳴らした。影がアクイラに巻き付く。


「ぐ、なんだと……」

 アクイラが巻き付いた影をほどこうとするが、凄まじい力で巻き付かれとてもできなかった。


「いくら、あなたでもそれはとれないわよ」

 ラートルは余裕の笑いを浮かべている。


(あれが報告にあったラートルか? 思った以上にやばい女の様だな……)

 ルベルがラートルを見て冷や汗をかいている。


「アクイラを離せ!」

 ふいに星辰が怒気を含めた声でラートルに声をかけた。


「それは出来ないわ。この中で一番やっかいなのは星辰君、君よ。アクイラは君に対する人質」


「なぜそいつが人質になるんだ? 星辰をさらいに来た女だぞ」

 ルベルが声をはさんだ。


「どうかしら? 星辰君はそうは思ってないみたいだけど?」


「そうだ、ルベル。彼女を見捨てられない」

 星辰がルベルに言った。


「何を言ってる星辰。女を見捨てられないのは分かる。俺とて嫌だ。だが、あの女は敵なんだぞ」


「……」

 星辰はルベルの問いに黙っている。


「思ったより合理的ね。ルベル一等巡査」


「優先順位くらいわきまえている」


「ふーん。ただの女たらしってわけじゃなかったのね。でも星辰君は多分それは出来ないわ。お父さんと同じ性格だから」


「父親? ティグリス一等警視のことか?」


「そうよ。星辰君はお父さんの血をすごく受け継いでるの。いえ、ティグリス一等警視よりもさらに輪をかけて正義感が強いのよ」


(こいつ何言っている? まるで星辰のことを前から知っている様な……)


「どう星辰君? アクイラを見捨てられる?」

 ラートルはそう言うと、また指を鳴らした。アクイラに巻き付いている影がさらにアクイラを締め付けた。


「ああっ!」

 アクイラが悲鳴をあげた。


「やめろ!」

 星辰がラートルを止める


「そう無理よね。さて、どうしようかしら?」

 ラートルが笑う。相変わらず嫌な笑いだ。


「学校を破壊して、花里君の上に瓦礫を落とそうとしたのも君か?」


「そうよ」


「なんで、そんなことをした?」


「面白そうだったから」


「そんなことのために?」


「そうよ。まあ地球人にしては超能力の素養がある子だったから、殺すのは少しだけもったいなかったかしら? でもあれくらいは銀河に吐いて捨てるほどいるからそうでもないかな」


「君は本当に人の命を何だと思ってる!」


「あら、いいじゃない。そのおかげであなたはテレポーテーションを使える様になった」


「もし使えなかったら、花里君は死んでいた!」


「まあ、結果としては別にどっちでも良かったわ。でも、良かったじゃない。テレポーテーションを使えて。クラスメートを助けられた」

 ラートルは相変わらずの嫌な笑顔で、そう答えた。


(初めてだ。女に虫唾が走るのは……)

 星辰とラートルの会話を聞いてルベルはラートルに嫌悪感を抱いていた。


「ゆるせない……」

 星辰がラートルをにらみつける。


「あら、そんなにらんじゃ駄目よ。手元が狂うわ」


「あああっ!!」

 アクイラがまた叫び声をあげる。


「よせ!やめろ!この……」

 星辰がレグルスを呼ぼとする。


「あら? レグルスを読んじゃダメよ。このコをちぎり殺すわよ?」

 ラートルは星辰がレグルスを呼ぶ動作をしたのを、そう言ってけん制する。


「あ…ああっ」

 アクイラは締め付けられて苦しそうにしている。


「星辰! レグルスを呼べ! 気持ちは分かるが、あの女は見捨てるしかない。レグルスなら、この女は倒すことができる」

 ルベルが星辰にレグルスを呼ぶ様にうながす。


「無理よ。星辰君はそれは出来ない。出来ないの」


「お前は黙ってろ!」

 ルベルがラートルを怒鳴りつける。


「あら、怖い」

 ラートルはおどけた様にふざけた様に言った。


(こいつ……女を本気で殴りたいと思ったのも初めてだ)

 ラートルの態度にルベルは怒りを覚えた。


「君の狙いはなんだ。僕を連れ去るのが目的じゃないのか?」

 星辰がラートルに聞いた。


「おい、星辰!」

 ルベルが星辰の肩にあててたしなめる。


「ふふ。さあね」

 ラートルがまた指を鳴らす。すると影が伸びて星辰とルベルと足首をつかんだ。

 そのまま、二人の体に巻き付いた。


「くっ! これは!」

 星辰が驚いて影を引きはがそうとするが、無理だった。


「しまった! 貴様、どうする気だ!」

 ルベルがラートルに向かって怒鳴った。


「ふふ」

 ラートルは笑ったまま答えない。

 また指をパチンと鳴らした。


「ああっ!!」

 星辰たちが悲鳴と共に影が荒ぶる海の波の様に星辰、ルベル、アクイラを包むように三人を飲み込んでしまった。

 その様子を見ているラートルがまた指を鳴らした。

 影が収縮して消えた。

 しかし、本来いるはずの三人も姿も跡形もなく消えている。


「かわいい子には旅をさせろだっけ? さあ、この実験はどんな結果が出るのかな? 楽しみにしてるわよ星辰君。君はちゃんと地球に帰ってこれるかしら……」

 ラートルはそうつぶやくと、エクスプローと共に消えた。

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