3章 第3話 赤い髪の少年

「ええ! 僕が銀河連邦警察に?」

 その日、月影と話をしていた星辰は素っ頓狂な声を出した。

 場所は紅鏡家の地下。以前、月影に様々事情を説明された部屋である。


「はい」

 星辰の声に、月影は落ち着き払って答えた。


「そう言えば先生、そんなこと言ってたっけ?」

 月影は銀河連邦警察の本部に行く前に星辰に、銀河連邦警察の警察官に就任するかも知れない事を事前に伝えていた。


「忘れてました?」


「ううん、そんな簡単になれると思ってなかったから、びっくりしただけ」


「なら、承諾でよろしいでしょうか?」


「ああ、うん。分かったよ。それに、これはみんなを護るために必要なことなんでしょ?」


「……そうですね」

 月影は、ほんの少し難しい顔した。


「でも、僕が銀河連邦警察の警察官なんかできるのかな?」


「私も、君ぐらいのときはすでに銀河連邦警察の警察官でした」


「ああ、そういえば、そうだっけ?いやあ、でも僕と先生じゃ月とすっぽんじゃない?」

 星辰が謙遜する。


「いやいや、君なら私などすぐに追い抜くでしょう」


「そうかなあ?でも、レグルスや僕の力がみんなのために使えるなら頑張るよ」


「では、君は今日より銀河連邦警察の三等巡査です」


「はい、わかりました。でも三等巡査って階級なんだね?」


「銀河連邦警察の階級は各階級に一等、二等、三等とあります。同じ巡査でも三等巡査が一番下、一等巡査が巡査の中でも一番偉くなります」


「ふうん。そうすると、僕は一番下になるんだね?」


「そうです。もっと上が良かったですか?」


「別にいいよ。階級とか。なんの功績もないのに、上の階級になんかなれないだろうし」

 星辰は階級に関してはそっけなかった。興味は無い様だ。


(こういう階級や出世に興味が無いところもお父上にそっくりですね)

 星辰の言動を見て月影は、そう思った。


「それと、今日は紹介したい人たちがいます」


「紹介したい人?」


「ロカ」

 月影がロカの名前を呼ぶ。

 すると部屋の扉が開いて、二人の人間が部屋に入ってきた。

 一人は赤色の髪の毛の男性。ロカであった。

 もう一人は少年でだった。ロカと同じ赤い髪だった。

 二人は月影と星辰の前まで歩いてくると止まった。


「あなたたちが、先生が僕に会わせたい人たち?」


「そうだ。星辰君」

 ロカは星辰を見ると笑顔で答えた。


「……」

 もう一人の赤い髪の少年は黙っている。星辰よりも長身である。


「彼はロカ=ベラトール。地球に出来る銀河連邦警察の警察署長です」


「え、凄い。この地球にも銀河連邦警察署できるの?」


「地球の人たちには秘密ですが……」


「そうなんだ。でも、心強いね」


「はい。ロカと私は古い友人なんです」


「ロカ=ベラトール三等警視だ。よろしくな星辰君」


「あ、はい。紅鏡星辰です。よろしくお願いします!ロカ三等警視!」

 星辰が元気に答え、ロカと握手した。


「いい返事だ。おいルベル、お前も自己紹介しろ」

 ロカが隣の少年をうながす。


「ルベルだ」

 ルベルと名乗った少年は、不機嫌そうに答えた。


「俺の息子のルベルだ。君と同じ年だし、仲良くしてやってくれ」


「はい。よろしくルベル」

 星辰が手を差し出す。

 だが、ルベルが星辰の手を払った。


「悪いが、男と握手する気はない」


「ええ……」

 少しあっけにとられる星辰。


「おい、ルベル……」

 ロカがたしなめようとする。


「それに俺は一等巡査だ。階級は上だから敬語使えよ」

 ルベルはロカの言葉を聞く前に、星辰に言った。


「え、うん。分かったよ。いや、分かりました」


「おい、ルベル!すまない、地球に来てから機嫌が悪いんだ。任務中ならともかく、普段は敬語など使わなくても良い」

 ロカが星辰に謝った。


「でも、それだと……」

 星辰がルベルをチラッと見る。


「ルベル君。申し訳ないが、ここ折れていただけるとありがたい」

 月影が横から言った。


「……父さんとエバンさん。ここでは月影さんでしたね。月影さんがそう言うなら、そうします。おい」

 ルベルが星辰に声をかけた。


「うん」


「特別だ。普段はため口でも良い」

 そして、ぶっきらぼうにった。


「でも……」


「いいんだ星辰君。これから同じ学校のクラスメートになるんだ。敬語だと違和感がある」


「クラスメート?」

 ロカの言葉に星辰が聞いた。


「ルベル君は星辰君の通っている中学校の同じクラスに転校する予定なんです」

 月影がロカに変わり星辰に説明した。


「そうなんだ。でも、どうして?」


「普段は私や桜さんたちが星辰君を護れますが、学校まではそうもいけないので……」

 月影が説明した。


「じゃあ、僕のためにルベルは転校するの?」


「そういうことになるかな」

 

「ふん。父さんと月影さんの二人の命令だから、しょうがなくお前を護ってやrる。だが、自分が特別な存在と思わないことだ」

 ルベルは少し強めに星辰に言った。


「僕は自分は特別だなんて……」


「これで失礼します」

 ルベルはそう言うと踵を返して足早に部屋を出ていった。


「……たく、しょうがない奴だ。改めてすまない星辰君」

 ロカが星辰に謝罪した。


「いえ、僕のために地球まできて転校なんて逆にルベルに申し訳ないです……」

 星辰が本当に申し訳なさそうに言った。


「それが、彼が機嫌が悪い理由でしょうか……」

 月影がロカに聞く。月影も申し訳なさそうだった。


「多分な。地球に来る前に、色々含めたつもりなんだがなあ……」

 ロカがやれやれとため息をついた。


「無理を言ったのは私です。私からも彼に謝罪しておきます」

 月影がロカに言った。


「そうしてくれるか。少しは機嫌を直すかもしれん。」


「あの……」

 星辰が二人に声をかけた。


「なんだい?」

 ロカが聞き返す。


「僕からもルベルに謝ります。で、仲良くなるように頑張ります」


「いや、君は謝らなくても……」

 ロカが少し恐縮した。


「ううん。ルベルの立場になったら納得できないと思う。だから謝りたいし、僕もルベルと仲良くしたい」


「そ、そうか。そこまで言うなら俺から何も言うまい」


「はい。それと、僕も失礼してもいいかな?」


「はい」

 月影が朗らかに答える。


「じゃあ、失礼します!」

 星辰はそう言うと、二人に丁寧にお辞儀して扉へと向かって言った。

 星辰を見送る二人。


「いい子だ。やはり、どことなくティグリスさんやアリアさんを思い出す。性格はティグリスさんよりかな?」

 少し微笑みながらロカは言った。ただ、どことなく複雑そうだ。


「ええ……」

 月影もロカに少し微笑みながらも、複雑な表情で星辰の背中を見ていた。


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