3章 第2話 キールム警視監

「今は二等警視監だ。エバン君」

 キールムと呼ばれた男は微笑みながら答えた。


「失礼しました。キールム二等警視監。しかし、わざわざ警視監殿にお目通りできるとは思っておりませんでした」

 月影は敬礼をしたまま答えた。


「話を聞いたときに懐かしくなってね。君が警察を離れてずいぶん経つからな」

 キールムはそう言うと、右手を挙げた。


「はっ」

 月影が敬礼をやめる。


「しかし、君が銀河連邦警察に戻ると聞いたときは驚いたよ」


「一度離れた私のわがままを聞いてくださり、ありがとうございます」


「君の優秀さは知っているつもりだ。戻ると言ってるのを拒否するつもりはないよ。ただ階級は二等警部補になる。良いかね?」


「構いません。ありがとうございます」


「君ほどの男なら一等警部でも良いと思うがね。周りがうるさいのだよ」


「当然の声だと思います」


「ふふ、まあ謙遜するな」


「まあ、地球などと言う辺境の星の警察など暇だろう。今の仕事と兼業も許す」


「よろしいのですか?警視監」

 キールムの隣の席の別の者が話かけてきた。モノクルをした堅物そうな女性である。


「よい。地球では仮の身分も必要だろう」


「ご配慮ありがとうございます」

 月影が再度敬礼をした。


「よい。それより、例の話を聞こうか?」


「はっ」

 月影が敬礼をやめる。


「私は現在、地球の日本と言う国の財閥紅鏡家に籍をおいております」


「それで」

 キールムが聞く。


「その紅鏡家の当主の孫が、ティグリス=レークス警視とアリア研究員の子供となります」

 月影そう言うと、会場にいる警察官僚たちはざわめいた。


「……」

 キールムが黙って右手を上げると会場のざわめきは消えた。


「そうか、あの二人は辺境の地球に……」

 キールムは表情を変えずに聞いた。


「はい。紅鏡家の当主の厚意で、日本の国籍をとり地球人として暮らしておりました」


「過去形か……そうか、二人はもう?」


「はい。亡くなっております」


「そうか、惜しい人材を亡くした……」

 キールムはそう言うと少し悲しい顔をした。


(二人が亡くなったのは、おまえのせいだろうが!)

 ロカが少しだけだが、怒りの表情でキールムを見ている。


「いや、それでその二人の息子だが……アレではないのかね?」


「アレとは?」

 月影がキールムの質問に逆に聞く。


「……アレだよ。君は事情を知ってると思ったが……」


「星辰君はお二人の子です。間違いありません」


「そうか、ふむ。分かった。その子は星辰と言うのか……。妊娠して、その子を産んだのかね。人工子宮ではなく」


「地球では人工子宮はまだ一般的ではありません」


「ふむ。アリアが産んだと言うことか」


「その子だが、能力はどうなのだ?」

 先ほど話に割って入った女性官僚が聞いてくる。


「こちらをご覧ください」

 月影がホログラフィーの様な映像を官僚たちに見せた。

 星辰の映像が映し出される。


「この子は今いくつかね?」

 キールムが聞いてくる。


「数え年で十四になります」


「人間種の十四歳としては、背が小さいな。身体能力や知能はどうなのだ?」


「地球の学校に通っておりますが、身体能力、知能ともに成績は下の方です」


「それだけ聞くと、アレではないようですね」


「その様だな」

 キールムが横の女性官僚の問いに答える。


「だが、あの二人の子だ。超能力の方はどうかね?」


「予知、サイコキネシス、テレパシーの能力の素養があります」


「おお、それは良い。どれほどのレベルだ」


「私の見立てだと、かなりのレベルになるでしょう」


「なるほど、君がそこまで言うのだ。そうなのだろう。そう言えばファミリアを使用した戦闘も行ったとか?」


「犯罪組織の一つが、星辰君のことをかぎつけ刺客に襲撃されましたが星辰君がファミリアを使用して撃退しました」


「そのファミリアはアルブスAIを使用したものか?」


「はい」

 月影がそう言うと、再度会場がざわめいた。


「……」

 キールムが右手をあげて会場を鎮める。


「それは、素晴らしいな」

 キールムが言う。


「現状、そのファミリアは星辰君のみしか使用できません」


「その様に設定されている?」


「はい」


(なるほど。その子がアレであろうとなかろうと、置いておく価値はありそうだ)

 キールムは月影の話を聞いて、そう考えた。


「分かった。君が申し出ていた、その子を銀河連邦警察の三等巡査にする件は前向きに検討しよう」


「ありがとうございます」

 月影がまた敬礼をした。


「銀河連邦警察の地球署の件も、対応中だ。署長はロカ三等警視。君とその少年はロカの下につくことになる」


「承知しました」


「今日は、もう良いだろう。下がれ」


「はっ」

 月影とロカの二人は一度敬礼した。

 敬礼を終えると二人は一礼して、部屋を出た。


「ふん、紳士ぶってムカつく野郎だ」

 ロカが吐き捨てる様に言った。


「ロカ、途中で顔に出てませんでしたか?」


「見えてないのに分かるのか?」


「それくらいは見なくても」


「これでも我慢した方だ……でも、これで良かったのか?」

 月影の傍にきて、小さい声で聞いてくる。


「……犯罪組織に星辰君のことが知られた以上は、彼を護るためには銀河連邦警察の手も借りざるを得ません」


「だがな……」


「ロカの心配もわかります。しかし、犯罪組織に星辰君のことが知られたと言うことは……」


「銀河連邦警察のお偉いさんに知られることは時間の問題だったと言う事か……」


「はい。それにただの地球人のままだと……」


「……」

 ロカは少しつらそうな嫌なそうな顔をして黙った。

 

「銀河連邦警察の三等巡査の地位になっておけば、キームル警視監にとっても手元に置いている安心感はあります。表面上は無茶なことはしないと思います」


「しばらく……それも表面上か……」


「しかし、時間は稼げるでしょう」


「その間にティグリスさんの息子を鍛えるのか?」


「はい。ただ銀河連邦警察はともかく、犯罪組織は待ってくれない……」


「場合によっては、犯罪組織どもからティグリスさんの子を護るためにあいつらの手を借りることも必要になるかもか……癪に障るが、保険としてはありかもな」


「少なくとも地球支部の署長はあなたになりました。それだけでも心強い」


「ふん、まあまかしておけよ。それにティグリスさんの息子に会うのが楽しみだぜ」


「ふふ、頼りにしてますよ」


「おうよ」

 ロカはそういうとニカッと笑った。気持ちの良い男である。

 その笑顔に月影もつられた様に笑った。

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