3章

3章 第1話 銀河連邦警察

 児童養護施設の誘拐事件の次の日。

 月影は銀河連邦警察の本部にいた。

 それは地球より何光年も離れた個所にあった。

 一種のコロニーである。数万人はいるだろう。

 月影はSFに出てくる近未来の基地の様な雰囲気の部屋にいた。その本部の一室である。

 その部屋にて月影はモニターごしにソフィーと話していた。


「そうですか……そんなことがあった」

 月影はスクリーンに映ったソフィーに言った。服も普段とは違い、近未来の警察が切る様な制服の様なものを着ていた。


「はい。施設の子供たちも無事に戻りました」

 

「それは何よりです」

 

「子供たちを人質にして、本丸の星辰様をおびき寄せる。星辰様を狙う犯罪組織も本腰をいれてきたと言うことでしょうか?」


「ふむ」

 月影はあごに手をあてて少し考え込んだ。


「先ほどソフィーさんが仰った犯罪組織の幹部。確かにクスカと言う菜で間違いないでしょうか?」


「はい。三人ともそう言っておりました。その名に聞き覚えが?」


「犯罪組織アルゴルの幹部です。犯罪組織の一員だけあって、冷徹な男ですが欲も強い男と聞いたことがあります」


 それを聞いて、今度はソフィーが少し考えるようにあごに手をあてる。

「そんな男なら自分の手柄のため、同じ組織の者でも星辰様のことは言わない?」


「頭が切れる男の様なので油断はできませんが……それよりも星辰君のご両親のことを話したと言う少女の方が気になりますね」


「ラートルですね。こちらに聞き覚えは?」

 ソフィーの問いに月影は首を横にふる。


「そうですか」


「おそらく、偽名でしょう」

 月影が言う。


「その少女につきましては、こちらでも調べてみます」


「よろしくお願いいたします」


「では失礼いたします」

 ソフィーがそう言うと、モニターは消えた。


「……」

 モニターが消えた後、月影は少し考え事をしたのち部屋を出た。

 廊下も月影のいた部屋と同じ雰囲気である。


「よう。エバン」

 部屋を出ると、月影と同じ三十代半で背も同じくらいの人間の男性が声をかけてきた。

 月影よりいくぶんか筋肉質でかつ、月影と同じ服装をしていた。

 かれは地球で言うところのアジア系の顔立ちで、顔だけ見れば地球人と言われても特に違和感はない。ただ、髪の色は赤い色をしていた。


「ロカ」

 月影が声をかけてきた男性の名を呼んだ。


「もう話は済んだのか?」


「ええ」

 月影は短く答えると歩き始めた。


「しかし、お前が久ぶりに連絡入れてきた時には驚いたぜ。何年ぶりだったか?」

 ロカが月影の隣に来てこう言った。


「十年以上でしょうか?」


「そうか、そんな経つのか……」


「連絡もせず申し訳ない」


「怒ってるわけじゃねえって。ティグリスさんとアリアさんの状況を考えれば用心に越したことはねえからな。この前も聞いたが、二人はもう……」

 ロカはそう言うと悲しい顔をした。


「……」

 月影は黙っているが、ロカと同じように少し悲しい顔している。


「地球では二人は幸せだったんだよな?」


「ええ、少なくとも、ここにいる時よりは穏やかな生活でした」


「そうか、ここにいる時より……それなら良いんだ……」


「……」

 ロカがしゃべった後、しばらく二人とも黙ったまま歩いた。


「……それと、例の件。お前の言った通りになりそうだ」


「そうですか。あなたが署長なら心強い。だけど、申し訳ない」

 月影がすまなそうに言った。


「なにがだ?」

 なぜ月影が謝罪したのかロカは聞いた。


「しかし地球に配属される署長となれば、辺境の星までくることになりますし、それに出世することはもう……」


「お前、そんなこと気にしてたのか。出世なんて俺が興味あると思うか?見損なうな!」

 多少、侮辱に感じられたのかロカが少し声を荒げた。 


「まあ、ありませんよね。スミマセン」


「へ、そういう事だぜ。まあ、こんな俺でも三等警視だ。まあ俺にしちゃあ上等じゃねえか?」


「でも、あなたなら、もっと上。そうですね……一等警視くらいにはなれたのでは?」


「買いかぶりだ……それにあの時、お前と一緒に地球に行けば良かったと思うことは何度もあったぜ。だから地球に行くのも苦じゃねえって」


「あの時の説得には骨が折れましたね。だた、あなたの様な警察官も必要でしょう。奥さんも子供もいるんだし」


「まあな……」

 ロカは少し複雑そうな顔をした。

 そうして歩きながら話をしていたが、ふと二人は一つの扉の前で立ち止まった。


「着いたぜ。銀河連邦警察のお偉方が向こうでお待ちだ」

 ロカが言った。


「……」

 月影は静かに扉を見ている。


「特に問題はないだろうが、気をつけろよ」

 ロカが少しだけ心配そうに言った。


「ありがとう」

 月影が微笑みながら言った。


「まあ、お前には愚問か」


「いえ、あなたの言うとおりでしょう」


「いくぜ」

 ロカの言葉に月影が無言で頷く。

 月影のうなずきを見た、ロカは扉の横にあるボタンの様なものを押した。


「ロカ三等警視です」

 ボタンを押したロカが言った。


「入れ」

 どことなく声が聞こえてきた。

 そして、声が聞こえる同時に扉が開いた。

 月影とロカは開いた扉に入っていく。

 ロカが前、ロカの左後ろに月影ついてくる形になった。

 二人は扉の中に入ると数歩進み、そこでいったん止まった。そこで扉が閉まった。

 その部屋の中には、様々な人間がいた。いや、その中には人間離れした姿をしている者もいた。彼らは月影とロカが部屋に入ると一斉に二人に注目した。

 どうやら、そこは会議室の様な場所の様だった。


「ロカ=ベラトール三等警視参りました」

 ロカはそう言うと敬礼をした。月影もロカと同じ様に敬礼をしている。

 敬礼は地球と同じ形式の様である。


「来たかね。エバン=マギスト君」

 会議室の中央にいた人物が月影に話かけてきた。

 姿は地球人に似ているが、顔が水色だ。地球にはいない人種だ。


「はっ」

 月影が返事をする。


「前にきたまえ」


「承知しました」

 月影はそう言うと、歩いてロカよりも前に進んだ。


「随分、久しぶりだなエバン君」

 会議室の中央の人物がまた話しかけてくる。


「お久しぶりです。メンダー=クルス=キールム一等警視長殿」

 月影は話かけてきた人物に答える。

 月影の顔がかすかに厳しくなった。

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