2章 第9話 なぜ知っている?

「!」

 ラートルが、自分に襲い掛かってきた人影に気づいて攻撃を避ける。


「おい、てめー今何しようとした?」

 女の声だ。


「姉さま。落ち着いて」

 別の女の声も聞こえる。二人とも少女の声だ。


「アクイラとウルラ?」

 星辰が少し驚いた様に言う。

 暗闇で顔が見えないが、確かにアクイラとウルラの声だった。


「なにって、なにを?」

 ラートルがとぼけた様に答えた。


「すっとぼけてんじゃねえぞ! 今、そのガキを殺そうとしただろ」


「姉さま。こいつは……」

 ウルラがアクイラをなだめようとする。


「分かってる。こいつはクスカの部下だ。だけど、こいつのやろうとしたこと我慢できるかよ」

 アクイラは少しだけ興奮を抑えながら言った。


「最後のは冗談よ。冗談」

 ラートルがおどけた様に言った。


「けっ、冗談には見えなかったがな」


「本当に冗談よ。星辰君の反応を見たかっただけ」

 ラートルはそう言うと星辰を見た。


「……」

 星辰はその目を黙って見返す。


「それに、あなたには関係ないのではなくて?」

 ラートルが再度アクイラの方を見て言う。


「ああ言うのは気に入らねえんだよ!」


「優しいのね」

 ラートルがふふと笑った。


「ふん。白々しい。それに関係なくはねえだろ」

 アクイラはそう言うと、星辰を見た。


「なるほど、星辰君がらみとくくれば関係者と言えなくないかもね……。じゃあ、ここは協力して星辰君をつれさりましょうか?」


「……」

 星辰は黙ってみている。


「それだと手柄はお前のもので、コルムは返してもらえねえだろうが」


「あら、そこまで分かってたのね。そうか、その子とコルムちゃんが被って見えたのかしら?」


「うるせえ!」

 アクイラが声を荒げる。


(コルム?……あ、先生の言っていたアクイラとウルラの妹)

 月影が言っていたアクイラとウルラの妹の名を星辰は思い出した。


「まあ、とにかく、約束通り星辰君に子供たちは返すわ」

 ラートルはそう言うと、浮いている子供たちを超能力で星辰のそばまで近づけた。

 

「あ……」

 子供たちは星辰のそばで地面に降ろされる。


「……」

 星辰は二人を見た。二人とも気を失ったままだ。


「ふふ、さっきはごめんなさい。そこは謝るわ」

 ラートルは星辰に謝った。


「アクイラも邪魔した事はクスカ様には言わないわ」

 ラートルは次にアクイラに話かけた。


「けっ」


「ふふ、随分、嫌われたみたいね。まあ、いいわ」

 次の瞬間、外から窓ガラスを割りながらビルの中に吹っ飛んできた二つの物体があった。


「うう」

 ラートルの部下の二人だ。二人はうめき声をあげると気絶した。


「あら、そこそこ強いのよ。この子たち」

 ラートルが少し驚いた様に言った。


「星辰坊ちゃん!」

 窓から桜とエレナの二人が続いて飛び込んできた。


「あのメイドさんにやられちゃったのね。しょうがない」

 ラートルは右手をかざすとアポーツで空中に鉄骨を二つ出した。ちょうど、二人の部下の上にある。


「一体、何を?」

 星辰はあっけにとられてみてる。


「こいつ、まさか……」

 アクイラはラートルが何をしようとしているか分かった様だ。


「ふふ……」

 ラートルは相変わらずの不気味な笑いをしている。

 次の瞬間、ラートルが右の手の指をくいっと下の降ろすと同時に、鉄骨は二人の部下へと落下した。


「この、やめろ!」

 星辰が叫ぶながら、右手を上げる。

 すると、落下した鉄骨が止まった。


「! サイコキネシス……」

 ラートルがつぶやく。

 鉄骨はゆっくりと地面にラートルの二人の部下を避けて落ちた。


(やっぱり、少しづつ覚醒してるみたいね。うふふ、素晴らしいわ)

 ラートルから笑みがこぼれた。嫌な感じを受ける。


「おまえ、この二人は部下なんだろう! なんでこんなことをする」

 星辰が怒気を含めた様に声を荒げた。


「役にたたないからよ」

 ラートルは笑みを絶やさない。


「だからと言って。こんなの間違ってる!」


「そう。やっぱり、ティグリスにそっくりね」


「ティグリス?」


「あなたのお父さんよ? 知らない? ああ、そうか。日本では別の名前を名乗っているのね。ティグリス=レークス。あなたのお父さんの本当の名前よ。ちなみにお母さんはアリア=レークス」


「それが、お父さんとお母さんの本当の名前? でも、なんで君がそれを知ってるんだ?」


「ふふ、こう見えてもあなたたちよりも長く生きているのよ。もしかして、教えてもらってない? まあ、地球に暮らしている内にその名を捨てたのかもね」


「……」

 星辰は少し困惑した様にラートルを見つめた。


「おい、なんだか知らねえが、おまえ余計なこと言ってないか?」

 アクイラが割って入ってきた。


「さあ? でも、少し口が滑ったかしら。口が軽いのが私の欠点よね」

 ラートルは、まるで意に介さない。


「じゃあね星辰君。また会いましょう……」

 そう言うとラートルは消えた。


「テレポーテーション……」

 ウルラがつぶやく。


「ち、やっかいだな」

 アクイラが吐き捨てるように言った。


「彼女は一体?」

 星辰も茫然とラートルが消える様を見ていた。


「星辰坊ちゃん」

 桜が星辰に話しかけてきた。エレナも星辰のそばに寄ってくる


「あ、桜さん、エレナさん」

 星辰が二人の方を向いた。


「そこの二人はどさくさに紛れて星辰坊ちゃんをさらうおつもりだったようですね?」

 そう言いながら桜が空手の構えをする。


「様子を見てたってことか? ふーん、泥棒らしいじゃん」

 エレナも構えた。


「姉さま」

 ウルラに少しだけ緊張が走る。


「ウルラ。このメイドはやっかいだ。仕切りなおすぞ」


「分かった」

 ウルラがうなずく。

 すると星辰が話しかけた。


「待って」


「……なんだ」

 アクイラが星辰の方に振り替える。


「コルムって、君たちの妹? やっぱりあいつらの人質になってるの?」


(やっぱり?……あの眼鏡の推測か)

 アクイラが月影を思い浮かべる。


「関係ねえだろ」

 アクイラがつまらない様に言った。


「関係なくはない」


「ちっ、もし仮にそうだったらどうなんだよ? 一緒に来てくれるのか?」


「それは……」

 星辰が言葉につまる。


「ふん。どうせ何もできないさ」

 ちょっとだけ悲しい顔したアクイラはそう言うと、窓の方にジャンプして窓のふちに乗り移った。ウルラも続く。


「じゃあな」

 アクイラはそう言うと空を飛んで行った。後ろにウルラも飛んでいる。


「あ……」

 星辰は何か話そうとしたが、アクイラとウルラはすぐに見えなくなった。


「いっちゃったね」

 エレナが話しかけてくる。


「うん」

 星辰がうなずく。


「星辰坊ちゃん。ここは子供たちが無事なだけでよしとしましょう」

 桜が言った。


「そうだね。早く、この子たちが施設に送ろう」


「ラートルってやつの部下は、あたしの方で対応しとくよ」


「では、エレナさんに任せて、私たちは子供たちを送りましょう」


「うん」

 桜にうながされ星辰は、二人の子供たちのそばによった。

 その日も、すでに日は暮れていた。

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