2章 第7話 不気味な笑顔

「このビルだと思う……」

 施設の子供たちを探す三人は一つの廃ビルの前に立っていた。


「いかにもだね」

 エレナが険しい顔をしている。


「でも、ここで間違いない……子供たちの意識を感じる。ううっ」

 星辰は答えると同時に頭痛に襲われたのか頭をおさえた。


「大丈夫ですか、坊ちゃま?」

 桜が心配そうに星辰に話かける。


「……もう大丈夫。もう痛みは引いたよ」


「でも星辰ちゃんが、そこまで言うならここっぽいね……」


「気を付けて、多分地球の人間じゃない気がする」


「宇宙犯罪者ですか?」

 桜が聞いてきた。


「多分だけど」


「星辰坊ちゃまの言うなら、そうなんでしょうね」


「二人とも行こう」

 星辰が二人を促すと廃ビルの中に入り始めた。


「承知しました」


「まあ、ここにいても埒があかないか」

 桜とエレナも星辰の後に続いた。


「ねえ」

 歩く星辰の後ろを歩いていたエレナは桜に聞こえるくらい声で桜に話かけた。


「なんです?」

 歩きながら桜が答えた。


「これってさ、あのアクイラって子たちの罠じゃないかな?」

 エレナがアクイラ達の罠ではないかと疑問を口にした。


「そのようなことをする様な子たちには、見えませんでしたが……」

 桜が少し首をひねった。


「甘いね。妹が犯罪組織に人質になってんでしょ? だったら……」


「ううん」

 星辰が二人の会話に割って入る。


「これはあの二人じゃない気がする」


「それって、超能力かい?」

 エレナが星辰に聞いた。


「いや、アクイラはすごいそういうことを嫌うと思う。一回しか会ったことないから根拠はないけど……。なんとなくそう思うんだ」


「星辰坊ちゃんが、そう言うならそうなのでしょう」

 桜が少し微笑みながら言った。


「やれやれ、うちの坊ちゃんとメイドはおめでたいね」

 エレナが、また肩をすくめた。


「エレナさん」

 桜が少し怖い顔してエレナを見た。


「わーってるって。冗談だよ。冗談。そんな怖い顔するなって」

 その後、三人は廃ビルの奥へと歩いていった。思ったより広い。


「いた」

 星辰が人影を見つけて物陰に隠れる。メイド二人も物陰に隠れた。


(女の子?)

 物陰に隠れた星辰が人影を見ると一人の少女が立っている。暗くて顔は見えない。


(確かにアクイラじゃないね。小柄すぎる)

 エレナも影に隠れながら、相手を確認した。


「うふふ。そこに隠れてないで、ここにいらっしゃい。お姉さんとお話しましょう」

 少女がふいに声をかけてきた。

 三人は顔を見合わせる。


「ほら、あなたたちが探している子供たちもここにいるよ」

 少女がそう言うと、星辰達がいる場所から影で視覚的に見えない位置から二人の子供が空中にぷかぷか浮きながら現れた。


(あの子たちは……)

 二人は星辰たちが探していた子供たちだ。気を失っている様だ。


(やっぱり罠っぽいね。狙いは星辰ちゃんか?)

 エレナは考えた。


(ねえ) 

 星辰が小さい声で二人に話かけてきた。


(わかってます。エレナさん)


(そうだね。まあ、しゃあないか……)

 三人はお互いの顔を見ると、互いにうなずいた。そして、物陰から出た。


「私の名前はラートル。あなたが紅鏡星辰?」

 互いに顔が分かる位置まで歩くと少女が笑顔で話しかけてきた。年齢は十代に見える。


(一見普通のかわいい女の子の様ですが……)

 

(笑顔なのに、目が笑ってねえな……)

 笑顔なのに不気味だった。


「確かに僕が紅鏡星辰だけど……」

 星辰がラートルの問いに答えた。


「そう、嬉しいわ。噂の星辰くんに会えてとてもとても。でも一人じゃなかったのね? 君の性格なら一人で来ると思ったけど……後ろのメイドさんは護衛のメイドさんかしら?」


「それは……」


「星辰ちゃん、まともの会話しなくていいって」

 エレナが星辰に言った。


「でも……」


「悲しいわ。そちらのメイドさんには嫌われているみたいね」

 ラートルは笑顔だ。


「子供をさらう人間を好きになる訳がないでしょう」

 そう言ったと思った瞬間、桜がラートルに襲い掛かった。恐るべきスピードだ。


「あらあら。あわてんぼうね」

 桜がラートルに放った拳は、いつの間にかラートルの前にあった鉄板にあたった。

 またラートルの髪の毛の色が黒から緑の色に変化し、額から角の様なものが生えている。


「アポーツか……ち、やっぱり宇宙人かよ」

 エレナが少しイラつくように言った。


「すごいわね。鉄板がこんなにへこんで。メイドさんはブーステッドヒューマンかしら、それとも突然変異のミュータント?」


「……」

 桜はラートルの質問に答えない。そのまま、また拳を繰り出す。だが、また鉄板に防がれた。


「うーん。おしゃべりの邪魔ね。メイドさんの相手は君たちがしてくれる?」

 ラートルの後ろに、いつの間にか二人の男女がいた。


「はっ」

 二人の男女はそう言うと桜とエレナに襲い掛かった。


「くっ」

 桜には男が、


「こいつら!」

 エレナには女の方がかかってきた。

 二人とも攻撃を受けた衝撃でビルの窓から外に吹っ飛ばされた。

 窓ガラスが割れる音がした。


「桜さん、エレナさん!」


「あの日本人のメイドさん空手か何かのチャンピオンじゃなかったかしら?もう一人はアフリカ系アメリカ人? 使う格闘技はカポエイラかな? 二人とも凄い強いね」

 ラートルがやたら星辰に話かけてくる。

 桜とエレナはビルの外で戦闘中だ。ほぼ互角であった。星辰はそちらに気を取られていた。


「二人とも!」

 星辰が叫ぶ。


「ああ、ごめんなさい。いっぺんに質問されても答えられないよね」

 ラートルは星辰の様子を無視して話かけてくる。


「く、なぜこんなことを?」

 星辰がラートルをにらみつけながら聞いた。


「君とおしゃべりしたくて? これで邪魔されずにおしゃべりができるね」

 ラートルが質問に答える。


「じゃあ聞くけど、君が子供たちをさらったのか?」


「そうだよ。君にここに来てもらうためにね」


「僕をおびき寄せるため?」


「そうよ。君の性格なら、助けずにはいられない。でしょ? うふふ」

 ラートルが笑う。美少女の部類だが、笑顔がやはり不気味だ。


「君はやっぱり宇宙の犯罪組織の……」


「そう、アクイラの雇い主でもあるクスカ様が私の上司。クスカ様があなたをご所望なの」


「……僕はここに来たんだ。子供たちはもう関係ない。子供たちを返せ!」


「いいね。その答え。君らしい。そうだな。だったら、これならどう? サモンファミリア」

 ラートルがそう言うと腕にグローブがはめられると共に、人型黒いファミリアが地面から現れた。


「ファミリア……」


「そう、私のファミリアのエクスプロー。これと、あなたのレグルスと対決しましょう。あなたが勝ったら子供たちは返すわ。負けたら私と一緒に来て。どうかしら?」


「僕は子供たちを連れ戻しに来ただけだ。戦いに来たんじゃない」


「戦わないなら、子供たちを殺すわ」


「!」


「あなたが来なかったら、二人ともどこぞに売り飛ばすつもりだったのよ。そうそうファミリアの対決で負けても子供たちは殺すからね」


「なんで、そんなことを? 二人は関係ないだろ!」


「犯罪組織だもの、あなたの常識や正義が通用すると思って? 二人いるから、一人殺した方がやる気出るかしら」

 笑いながらラートルが言った。


「そんなこと、そんなこと絶対にさせない……サモンファミリア」

 腕が光って星辰のグローブが腕にはめられた。それと同時に獅子型のレグルスを呼び出した。


「そうよ。いいわ。ではファミリア対決といきましょう」

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