箱に封印された全能のラスボスの口述

秋津幻

プロローグ

 無限に、落ちている。

 私は、負けた。長らくの間世界をおもちゃ箱のように好き勝手いじり続けて来た結果勇敢な主人公たちにやられ神の手でこの箱の中に封印された。

 100年は出られない、牢獄だと言われた――

 だが、その結果に不満はない。

 だって、ようやくこの全能たる私の、隣にいてくれる人が現れたのだから。


 私は生まれながらに全能だった。

 スキル:全能を持っていた私は、何でもできた。

 なんでそんなスキルを私に与えたのかをシステムに聞いたが、「なんとなく」「そういう奴が一人くらいいてもいい」って事だった。

 ぶちぎれてぶっ殺してやった。

 どうせすぐよみがえるのだろうけど。

 何でもできる私は何でもできた。

 魔法をすぐ覚えることも、剣でどんな相手を倒すことも、あらゆる強大な魔物を私になつかせることも、気に入らない存在を消すことも、誰かの運命をもてあそぶことも。

 何だってできた。

 つまらなかった。寂しかった。

 ただ一つできなかったのは、この寂しさを誰かにわかってくれる事だった。

 私と同じ苦しみを味わえる人間がいなかった。

 誰かに悩みを聞いてほしかった。

 でも人は、私をもてはやすだけで、私を危険視するだけで、誰も、隣に寄り添ってはくれなかった。

 寂しかった。

 だから私はこうしたの。

 世界中に、スキル:全能を配ってやろうってね。


 世界は滅茶苦茶になった。

 そりゃそうだろう。私みたいに人をもてあそぶような質の悪い人間が何人も増えたら何倍もの人間が不幸になる。

 ある全能持ちは一つ大陸を滅ぼし、ある人はそれに立ち向かうべく全能を振るったり。

 自分のためだけの巨大な王国をつくったり、いろんな人を救うべく巨大な管理システムを構築したり。

 人間を集めて囲って殺し合いのような事をさせたり。夜を儚んでただ一人誰も来られない場所に籠もったり。

 全能と全能がぶつかり合って、無茶苦茶になった。

 馬鹿らしかった。大笑いした。

 神どもはこんな無茶苦茶な光景を見て、「こういうストーリーもいいか」と放置した。

 馬鹿じゃないかなと思った。

 こんなの、破綻するのが目に見えてるのに。


 私に立ち向かってきた全能持ちの人間もいたけど、返り討ちにしてやった。

 まあ私が配ったのは劣化全能だから、本物にかなうわけないんだけどね。バカみたい。

 私は待ち続けた。待つだけで良かった。騒動は放っておいても全能を持つアホな人間どもが勝手に引き起こしてくれる。

 そして、この騒動を終息させるためには、オリジナルの全能を持っている私を倒せばいい。

 倒す方法は私も知らないけれども。だって全能だもの。

 その不可能をかなえてくれる人間が欲しかった。

 そんな人間なら、私と対等に、同等に、一緒に、そばに、いてくれると思ったから。


 無茶苦茶は、途方もない時間続いた。

 複雑に絡み合った世界情勢が解決に向かったその瞬間、横やりが入って全部無茶苦茶になったりした。

 人が死んでも全能の手で再生され、何度も転生し、その積み重ねで全能にも対抗できる上位者が何人も現れるようになった。

 全能無効なんてスキルがいつの間にかできていた。全能無効無効なんてスキルも出来た。そんな無限のインフレが始まって呆れすら覚えた。

 神――いや、もはやこの事態を収束できないこいつらはただの管理人システムと呼ぶべきだろう。そいつらがようやく事態の解決に乗り出した時には手遅れだった。

 先手を打って、スキルを管理する管理人は先んじて無力化させておいた。口手八丁で耐性スキルを解除させ、精神を破壊し、誰も手を出せない箱の中に放置した。

 管理人同士で干渉することが出来ないという使用を悪用したものだ。

 元々このことがあってスキルをばらまいたのだ。管理人はすでにいないのだからばらまいても問題はないとわかっていたのだ。

 永遠に終わらなかった。破綻は誰がどうしても明らかだった。


 そしてそれを管理する私は何もするつもりはなかった。

 この程度どうにもできないクソシステムどもにほえ面を掻かせてやった事に高笑いしてたのであった。


 そして、飽きた。

 世界が無茶苦茶になっても、世界に敵が出来ても、人はまとまらなかったし。

 これ以上の進展はなさそうだった。


 だから、そんな行き詰まりの中で、私を倒すことが出来た勇者が来てくれた時、本当にうれしかった。

 決まり手は、魔法:疑似全能であった。なんだよそれ。

 なんでも、魔法とは元来何でもできる力、それはもはや全能ではないか、という解釈らしい。なんだそれ。

 全能ではないから全能無効は効かない。全能だから私を殺す事は出来る。

 意味が分からん。

 つまるところ、私を倒せるだけのスキルに裁定を変えてしまったのだ。

 スキルに手を出せないのなら、スキルの解釈を変えてしまおうという発想だ。

 管理人が考えたのならつまらない解決法だったけど、これはその件の勇者が思いついたことらしかった。

 感動した。

 これは私のミスだ。スキルには手を出せても、解釈をするのは世界のシステムそのものである穴に気づいた勇者の勝ちだ。

 私はアホだった。バカだった。

 私は、全能ではなかった。

 まあ、システムの中で生きている私の限界、という事でもあったけど。

 その、限界に気づかせてくれたのが、とてもうれしかった。


 ようやく私は、隣にいてくれる人間を得る資格が出来たのだ。


 そう思って、勇者に手を伸ばしたその瞬間、私は箱の中に封印された。


 そして私はずっと一人で落ちている。

 だが、何も寂しくはない。

 もう私は一人じゃないのだから。

 初めて私は恋をしたのだから。

 あの人にまた会えるという可能性を考えるだけで私は幸せなのだから。


 ここからは100年後に解放される。

 その時まで、ずっと私はこの箱の中で落ち続ける。

 ずっとその時を楽しみにしながら。

 あの人に会えることを楽しみにしながら。

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箱に封印された全能のラスボスの口述 秋津幻 @sorudo

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