第13話 アイカユラの構想


 アイカユラは、組立作業作業が完了したアリアリーシャのパワードスーツの前に立つと隣に並んでいる外装骨格のみの3台と見比べて、自身がヒュェルリーンに提案した一般向けの外装骨格について考えていた。

(私は、構想を練れるけど、作る事はできない。作るのはエルメアーナになるのだけど、ジュネス達のように錬成魔法が使える訳じゃないから、作るにしてもエルメアーナの鍛治技術に掛かっているわね。でも、構想を伝えるにしても、もっと詰めておく必要があるのか)

 完成したパワードスーツではなく、並んで置いてある3台の外装骨格のみを見比べていた。

(外部装甲は魔物との戦闘には欠かせないけど、体が不自由になってしまった人の為なら不要な物になるわ。あ、でも、また、冒険者になる人なら必要になるのか)

 腕を組むと片方の手を頭に当てた。

(あ、でも、色々な事に対応させるより、基本部分となる外装骨格を中心にオプションとして装備できれば対応できるわ。それなら、外装骨格をもっとシンプルにしてしまっても構わないはずよ)

 ニンマリと完成した1台を見てから、3台の外装骨格を見た。

(それに外装骨格にも一般的な生活にも不要となりそうな部分も多い。背骨を二つに割ってそこから入るってのもジュネス達なら可能だけど、体が不自由な人なら、腰の高さまで上るのも大変よね。座ったままとか寝たまま装着できないと具合が悪そうだわ)

 アイカユラは難しい顔をして、額を人差し指で叩いた。

(体の不自由な人にとっては立ち上がるだけでも人の介助が必要だったり大仕事になる事だって考えられるのだから、より簡単に装着できるように工夫する必要があるし重量ももっと減らす必要が有るわ)

 見比べている壁に並んでいるパワードスーツを見て残念そうな表情をした。

(イメージするにしたって何かヒントになるものが無いかしら?)

 並んでいるパワードスーツを見るが、何も思いつかないというように天井を見上げた。

(構想は良かったけど、実用化させるためには、もっと考える必要があるわ。……。私は、まだまだね)

 アイカユラは、未完成の外装骨格だけで建具に引っ掛けられているパワードスーツの背骨を見た。

 背骨は縦に二列にブロック化した金属を重ねてワイヤーで繋がっているので、人の背骨の動きに合わせられるようになっていた。

 通常は左右のブロックが接続されて一つとなっているが、人が出入りする際は中央から割れてブロックが開くようになってるので、腰から下を引き抜くには直立状態のまま足を引き抜く必要がある。

 腕の力だけでジューネスティーンは足を引き抜いていたが、それを簡単にこなしてしまうのは、体をしっかり鍛えてあったからなので、一般人に体を腕だけで支えて足を引き抜けというのは無理な話になるだろう事はアイカユラは知っていた。

(でも、背中から出入りをするなんて発想するジュネスって本当に凄いわ。机と机の間に手を付いて腰を上げようと思った事有るけど、私には無理だったわ。でも、背骨を開いて出入りするって、どうやったら、あんな方法が思い付くのかしら?)

 考えながら周囲を見渡していると作業をしているエルメアーナが目に入った。

「ねえ、エルメアーナ。ジュネスは、出入りするのに何で背中からにしたの?」

 アイカユラは、気になった事を思わず聞くと、エルメアーナは手を止める事なく話を聞いていた。

「ああ、蝶の羽化するのを見て思いついたらしいぞ。外装骨格だから昆虫が動くのを模したらしいけど、シュレの話によると、ジュネスが蝶の羽化から思いついた時は大喜びだったって話だ」

「へー、蝶の羽化か。そうよね、人体の外側に骨格を持たせるって事だから昆虫が参考になるのか」

 昆虫の中には硬い表皮に覆われたものもいるが、そんな昆虫達も体や足を動かしている事を思い出しつつ、壁際に並んだパワードスーツを見た。

(昆虫って、そんな物が参考になるなんて、本当に不思議な人だわ)

 アイカユラは、エルメアーナに答えつつ考えるような表情をした。

(蝶の羽化か。サナギから成虫になる時か。あれって、背中が開いて出てくるのよね。ああ、それで、背骨を開けて出てくるのか。蝶の胴体は柔らかいから体を丸めるようにして出てくると、羽を広げて乾かすのよね。だんだん広がっていく蝶の羽って、意外と綺麗なのよね)

 昔を思い出すような表情をすると、思わず笑顔をこぼした。

(蝶の羽化から出入りを考えたのなら昆虫を観察してみようかしら。案外、きっかけが見つけられるかもしれないわね。時間が取れたら、私も庭で昆虫観察でもしてみようかしら)

 そして、何か吹っ切れたような表情になった。

(蝶の羽化に出会えるなんて考えにくいけど、外装骨格については、外骨格を持つ昆虫が参考になるかもしれないわ。軽くして、簡略化、寝ている状態で取り付けられる事が理想だけど、ベットに腰掛けるように移動させた後に取り付けられるなら、それでも良いかもしれないわ)

 すると、アイカユラは、面白いというようにニヤニヤと笑った。

(そうよ。まずは、条件付きだとしても完成させる事が重要なのよ。外装骨格の有用性を世に示す事ができれば、開発は進むことになる。要望を聞いてバージョンアップさせたりバリエーションを増やす。いえ、外部装甲のようにオプションを用意していって、その人の障害に合わせるっていうのも手よね)

 すると、何か思い出したようだ。

(構想は広がるけど、まだ、最初の装着する方法が解決してないわね。でも、その課題が解決したら、一気に展開しそうだわ)

 凹んだような表情をすると、また、希望に満ちたような表情に変わった。

「おい、お前、変だぞ」

 アイカユラは、エルメアーナに声を掛けられたので視界にとらえると、不思議そうに見ていたので、恥ずかしそうに顔を赤くした。

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