第12話 パワードスーツ


 アイカユラが梱包箱の事について話を進める中、パワードスーツの技術を流用する事を思いついていた事をヒュェルリーンに相談すると興味を持たれた。

 ヒュェルリーンが興味を持ったという事は、ジュエルイアンの筆頭秘書を務めている事と、秘書としての仕事以外にジュエルイアンの判断材料となる資料や情報の提供も行う事からも、そのヒュェルリーンに認められたとなるとアイカユラの提案について開発が始まる可能性が高いというより確実に近いと言って良い。

 ヒュェルリーンが、アイカユラのアイデアを伝えれば、ジューネスティーンの説明を聞いただけでベアリングの有用性を見抜き、短期間で開発に成功し量産させたジュエルイアンなら話に乗らない訳は無い。

 特に負傷して腕や足に障害を持ってしまい引退した冒険者もだが、魔物の脅威が身近に有り田畑を耕す農夫にも可能性はある。

 また、購入が不可能だったとしても、契約によって貸し出されるギルドの労働用に召喚された魔物のような扱いも可能になるなら、商会としてビジネスチャンスは広がると考えられる。

 そして、アイカユラは、ヒュェルリーンに認められたことにより、商会における自身の地位の確立のためには良い材料となっていたが、当人に自覚は無かった。


 工房のエルメアーナは、周りの思惑を知らずにアリアリーシャのパワードスーツの組み立てを完了させ、レィオーンパードのパワードスーツの組み立てに入った。

 アイカユラとしたらエルメアーナの工程が計画通りに進んでいるのかチェックを行う必要があり、時間をおいて1日に何度か工房に顔を出し、進捗が遅れていたら原因を取り除くために声を掛けて話し相手をする。

 何か必要な物が有ればアイカユラが手配するが、エルメアーナの話を聞く事によって考えをまとめさせる手段となっていた。

 技術的な話をされてもアイカユラには理解できなくとも、エルメアーナは話をする事によってイメージを再構築しているうちに答えが出てくる事もあるので、アイカユラとしたらエルメアーナの話を聞いて分からない部分を詳しく説明させたりする事によってエルメアーナが勝手に答えを導き出している。

 アイカユラは、話を聞いている中で繋がらない部分を見極めて、その繋がりを導く事によってエルメアーナを助けていた。


 アイカユラは工房の中に入りエルメアーナを見ると、何事も無かった様子で作業を進めている事を確認すると、壁際に並んでいるパワードスーツの方に移動した。

(ヒュェルリーンさんにアイデアを提案した以上、アイデアだけで終わらせてはダメよね。具体的な構想を練るためにもジュネスのパワードスーツの完成前の内部構造を見れるのはありがたいわ。少しでも参考になる物を見ておかないとね)

 アイカユラは、興味深そうに並んだ4台のパワードスーツを見た。

 完成したアリアリーシャのパワードスーツは、他の未完成の3台と一緒に並んでいた。

 動作を止めている状態では倒れてしまうので、倒れないように建具に脇を引っ掛けるようにしていた。

 完成されたアリアリーシャのパワードスーツは、外装骨格が取り付けられていた。

 腕や肩を覆う装甲、腰には細長い金属板が垂れ、太ももの中程まで覆われる事によって股関節周辺の可動部分を覆っており、その内側の太ももは金属で覆われていた。

 そして、膝にはガードが付いており、膝を曲げても前方から中の人の膝が見えないようにガードされていた。

 ただ、膝下のスネに取り付けられた外部装甲は二重構造になっており、外側の装甲は足の外側面と後ろのふくらはぎ部分が跳ね上がるように、膝の下にある蝶番で固定され、その内側は細長いパイプで足と外部装甲が接続されている事から、膝下の外部装甲は外側と後ろ側に広がるようになっていた。

 そんなパワードスーツだが、一箇所だけは人が入るようになってない部分があった。

 手と指については、人の手が入るようには出来ておらず、腕は人の腕より長く出来ていた。

 手と指は他の部位と同様に外側に外装骨格と人工筋肉を付けるには大きさに問題があったため、パワードスーツの腕の中に手を納めるだけにして手首から先はロボットハンドになっており、手の動きを模して動くようになっていた。

 人の脳が出す信号を神経を通じて送る際、外部に出る微弱な信号を検知し外装骨格の先に取り付けたロボットハンドに信号を送って動かす。

 その際、パワードスーツの腕の中で動く手首や指の動きも検知してロボットハンドの動きを微調整するようになっているため、手先の微妙な動きにも対応できるようになっていた。


 パワードスーツを初めて見たエルメアーナは、ただ、直立するフルメタルアーマーだと、ジューネスティーンの剣程興味を示さなかったが、詳しく確認し始めると防具としての機能だけでなく、内部に人を覆うように外装骨格を設けてあり各関節が動くようになって、更に力を増強する人工筋肉によって人の力を超える事を知ると興味は完全にパワードスーツに移ってしまった。

 それによって、新たな剣の注文を停止し、注文を受けていた剣の製造を急ピッチで終わらせると、ジューネスティーン専用のパワードスーツの開発に携わった。

 しかし、機械的な内容と魔法紋による駆動制御の話には付いていけず、二人の話を黙って聞いているだけだったが、実際に作り始めると細部の加工に関する技術はエルメアーナの意見が採用された。

 エルメアーナは、父であるカインクムから剣以外にもフルメタルアーマーや盾のような防具に関する内容も教わっていた事が幸いし、特にパーツ同士の固定方法等は本職の鍛冶屋の話が役にたっていた。

 また、鎖帷子のように鎧に付いての知識も多かった事によって、パワードスーツの稼働部分の防御も強化されていた。

 特に、胸部を覆う金属の鎧は、体を支える背骨によって腰部と繋がっているが、腹部全体は稼働する事を考えていた事から防御力の一番弱い部分となっており、外から見て弱いと分かる部分でもある。

 鎖帷子は線や面での攻撃は防げても衝撃の吸収は鎧よりは弱く、槍のように尖った物で刺された時は貫通する事もある。

 魔物の牙で噛まれてしまったら牙が刺さるだろうし、頭に付いた角で突入されれば刺さってしまう事も有り得る。

 金属で編まれていて自在に動ける代償となっていたが、エルメアーナが特殊な編み方をする事と、正面に防御板を重ね合わせる事によって、鎖帷子の見える場所を狭くしていた。

 これによって、Rev.3.00から作るパワードスーツから突き刺す攻撃に対する防御力も上がった。

 しかし、それは防御力が上がっただけで、胸・腕・腰・足のように金属パーツで覆われた部分より低く、その部分と比べたら防御力は同等と呼べない。

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