第10話 ヒュェルリーンとアイカユラ
商会のトップであるジュエルイアンと、その筆頭秘書であるヒュェルリーンは、アイカユラに期待を寄せていた。
商人として見込みがあるとみて、若い女性であったが、エルメアーナの店を任せた。
エルメアーナとも、年齢的にも近い事も有って友人感覚で接しられる事と、アイカユラに店の運営とマネジメントを実践で学ばさせるためには丁度良いと考え任せることになった。
任せてみると、営業成績も見込み以上の成果を上げたが、行き過ぎてしまいエルメアーナに過酷な労働条件を強いてしまっていたが、売上の上がり方が思った以上だった事からヒュェルリーンが気付いて調整を行った。
それもアイカユラに経験を積ませる結果となった。
その後のアイカユラは、ヒュェルリーンに倣って過酷な労働条件にする事なく、ジューネスティーンの新開発のベアリングの商品化に成功させ商会の工場設立に貢献した。
現在では、商会系列の荷馬車の製造を行う
その工場の立ち上げの際にも、エルメアーナの代わりにアイカユラが詳しい説明を行って量産化に貢献した。
アイカユラは、ジュエルイアンとヒュェルリーンの想定以上の仕事をしてくれていた。
ヒュェルリーンは店を訪れた際、アイカユラの行動が気になり窓から、その様子を眺めていた事を話すと恥ずかしそうにしていたが、仕事の話になると切り替えてきた事に満足した。
アイカユラは、発送の為の箱について検討した結果を報告すると、ヒュェルリーンは納得でき、そして、嬉しそうにした。
今までは、マネジメントに対する才能を見せてくれていたが、エルメアーナがパワードスーツの組み立てに専念できるように、発送の為に使う梱包用の箱を考えていた。
その内容が、思った以上に緻密だった事をヒュェルリーンは喜んだ。
「よかったわ。エルメアーナが、仕事に専念できるようにしてくれた事、本当に感謝しているわ」
「ありがとうございます」
反射的にアイカユラは返事をしたが、何か思う事が有るような表情をしたので、ヒュェルリーンは気になったのか探るような目で伺っていた。
その沈黙がアイカユラには苦しく思えたようだ。
「あのー、ご意見を伺いたい事があります」
(やっぱり、思った通りだわ。この娘、箱の事以外に何か考えている事があったみたいね)
ヒュェルリーンは、思った通りに進んだというように笑顔になった。
「何かしら? 私に話せる事なら構わないけど」
嬉しそうに言うとアイカユラは、軽く会釈をすると入口のドアの所に行き、外に閉店の看板を出して鍵を閉めた。
(あら、外部には知られたくない話みたいね)
その様子をヒュェルリーンは、確認するように見ていると、戻ってきたアイカユラは、真剣な眼差しでヒュェルリーンを見た。
「あのジュネスのパワードスーツ、いえ、外装骨格で構わないのですけど、あれを量産化できないかと思うのです」
ヒュェルリーンは、その言葉に満足そうな笑みを浮かべた。
「外装骨格を動かす時は、頭の中の信号を検知して各部位を動かす事になると聞きました。それは、体が動かなくなってしまったり、無くしてしまった人でも、動かしたいという意思があれば可能だと思うのです。不自由になってしまった体の代わりを外装骨格が行ってくれるので、事故で失ってしまったとしても体に装着して使う事が可能だと思うんです」
ヒュェルリーンは、面白いと思ったようだ。
「それに、力を必要とする職業においては、筋力の補助を行ってくれますから労働環境にも良い影響を与えると思われます」
話を聞いて納得するような表情をした。
(なる程、体の不自由な人にも労働を助ける為にも使える。特に労働を助けるとなったら需要は多い。肉体労働の単純作業なら、ギルドの提供する召喚した魔物で何とかなるけど、人の知能や経験が必要な部分となったら、アイカユラの言うように外装骨格を使う方が良いに決まっている。それに、事故で失った部位を外装骨格で補えるのなら、ベテラン作業員が事故で復帰できなくなったとしても外装骨格を付ければ復帰できる事も考えられるわ)
アイカユラは黙っているヒュェルリーンを不安そうな表情で伺っていた。
(やっぱり、この娘をエルメアーナに付けた事は正解だったみたいね。エルメアーナはパワードスーツに触れるだけで満足しているから、その有用性や応用について考えられなかったけど、アイカユラは開発製造に携わってない事もあるから冷静に見る事ができたから気が付けた訳ね。一人の視点では見えなかったけど、もう一人が見てくれているのよ)
ヒュェルリーンは、満足そうな笑顔を向けた。
「うん、面白い発想だわ。ジュエルイアンにも話をしてみるわ。ベアリングの量産化も良かったけど、あれは部品でしかなかったから購入する相手は商会や個人商店になるけど、外装骨格なら個人に対しての販売も可能になるわ。まあ、販売価格の問題もあるけど、作業の効率化が見込めたら市場は広がってくるわ」
嬉しそうに話すとアイカユラも不安そうな表情が消えた。
「あ、ありがとう、ございます」
「あなたが、この店にエルメアーナと一緒に居てくれたから気が付いてくれたのね」
ヒュェルリーンが、思った以上の評価をしてくれていると思えた事がアイカユラには嬉しそうだった。
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