第9話 アイカユラの設計
店の準備を済ませたアイカユラは、カウンターに入ると椅子に座り肘をついて顔を支えるようにした。
(箱を作るのか。何かを作るって、私、初めてかもしれないわね)
誰も居ない店舗内をボーッと眺めていた。
(何かを作るって、子供の頃に花の冠を作っただけ?)
そして、何かを閃くような表情をした。
(あ、今は、食事を作っているのか、これも作るなのよね。でも、何か違うような? ん? ああ、私が作る訳じゃなくて、人に作ってもらうための何かって事なのか。自分で作るなら、思い付いた通りに作ればいいけど、人に作ってもらうなら、思い付きじゃダメって事だから)
納得するような表情をした。
(人に自分の思った内容を伝えなくてはいけないから、出来上がった時に違うじゃ困るって事なの。うん、そうなのね。そうなると、必要な情報を伝えなくてはならないのか。そうよね。箱、梱包箱。だから、中に入る物の大きさ? ん! 運ぶのだから移動中に揺れて壊れたり傷付いたりしてはいけないって事になるわ。一つ一つ固定して動かないようにする必要がある。馬車で運ぶ時の振動、下ろす時の衝撃もだけど、万一落下させてしまった事も考慮しなくちゃいけないわね)
すると立ち上がって床を見ると、下に向けていた手を少し前に出し、軽く広げた。
(あれ、分解して送るにしても、金属なんだから重いし、梱包箱の重量も中の梱包材の重量も有るから、一人で持ち運びなんてしないわ。荷馬車に運ぶ時には代車に乗せて、乗せ替えには人が持つ事になるわ。その時に落としてしまったとすると? ん、持つ場所が上なら落下する高さは低くなるって事よね。だったら、上の方に持ち手を付けられたら落下の衝撃は少し抑えられるって事になるわね。作る時に取っ手を付ける事を考えた方が良さそうね)
少し困った表情をした。
(でも、取っ手って、それも考えなければいけないのかしら?)
面倒臭そうな表情をすると顔を上げ、壁と天井の境目を見た。
(いえ、それは何か有るかもしれない。これは箱を作っている業者に確認した方が良いのか。何か、既製品で使える物が有るかもしれないわ。素人が細部まで考えるより専門家に聞いた方が早いかもしれないわ。そうなると、必要になるのは、箱の内寸と内容物の重量か。梱包材として固定用の板とか?)
アイカユラは難しい顔をした。
(そう言えば、エリスリーンから極秘と言われていたわ。内容物について箱を作る業者に話したり見せる訳にはいかないのか)
ため息を吐いた。
(依頼できる部分は、箱だけになってしまうのか。それで、中の梱包用の板とかは自分で加工するしかないわね。ん? 板? 待てよ、中に入れる梱包用の板だけを購入しておいて、形に合わせて切るのはエルメアーナに頼めば良いのか。鍛治ができるなら板を切るくらいならお手のものかもしれないわね)
ふんふんというように、機嫌が戻ってきた。
(そうよ。発送の梱包の際に梱包材としての中板を内部の形に合わせて切って固定させる。隙間は綿入りの布袋で固定すればクッション代わりになるわ)
アイカユラは納得するようにウンウンと頷いて椅子に座ると背もたれに体重を預けると指を合わせてゆっくりと背伸びをした。
すると、店舗のドアが開いた。
(お客?)
慌てて姿勢を正して、表情を戻そうとした。
「あら、なんだか機嫌が良さそうね。何か有った?」
しかし、表情を戻せなかった。
(しまった。店番だったのに! 商人が心の内を表情に出すのは御法度なのに、しかも、一番見られてはいけない人に見られてしまった)
アイカユラは、しまったという表情でヒュェルリーンを見た。
「し、失礼、しました」
アイカユラは、慌てて立ち上がって深々と頭を下げた。
するとヒュェルリーンは、ニコニコと笑いながらカウンターの前まで来た。
「店に入ろうとしたら、あなたが立ち上がって考えるような表情をしていたから見ていたのよ」
その言葉にアイカユラは真っ赤になった。
「今は、ジュネス達の件も有るから新規のオーダーメイドを受けないのは噂話で冒険者達にも聞こえているから、店を訪れる人は少ないでしょう。在庫の販売だけなら店は暇になるわ。そんな中、考え事をするのは構わないけど、中々、活動的ね」
そう言ってクスクスと笑ったので、アイカユラは恥ずかしそうに俯いた。
その様子を面白そうにヒュェルリーンは見ていた。
「ねえ、それより、何か考えていたのでしょ。あの様子だと、何か良いアイデアが浮かんだんじゃないの?」
アイカユラは、自身が考えていたパワードスーツを入れる梱包箱について思い出したようだ。
今までの恥ずかしそうな表情ではなく、仕事の顔になってヒュェルリーンを見た。
「はい、エルメアーナの作っているアレですけど、発送用の箱の手配を私の方で考えていました」
ヒュェルリーンは、少し意外そうな表情をした。
「凄いわ。あなた、そんな事まで出来てしまったの」
嬉しそうに答えたヒュェルリーンに、アイカユラは少し驚いた様子をした。
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