第8話 梱包箱の手配


 アイカユラは、高額になる費用に付いても、ギルド本部が無償提供してくれた事を聞いて商会に負担も掛かって無い事を知り一安心すると、発送の為に用意する箱の事に思いが向いた。

(これも、外部装甲が付けられてパワードスーツになるでしょうけど、頭の円盤は大きすぎるわ。腕と足を取ったとしても肩の幅と同じ円盤は邪魔になるわ。でも、肩幅と同じ位なのか。梱包箱は全部同じ大きさにした方がいい。発送の際に荷台に詰め込むにしても、移動中の荷崩れの心配とかも考えたら同じ大きさよね)

 アイカユラは、シュレイノリアの外部装甲の取り付けてない外装骨格だけのパワードスーツを見て考え込んでいた。

(場合によっては、腕と一緒に梱包も可能なのかもしれないわね。円盤の中央に乗った三角錐は人の頭程度だから、円盤を下に置いて、梱包材を工夫したら上に腕を入れられるわね。あと、外部装甲とか小さなパーツも入れられる位の大きさ、それに頭の円盤は円形だから、胴体の長さを考えたら長方形になるから円盤を置いたら長手方向にスペースも開けられるから、円盤の厚み分のスペースも生まれる。何とかなりそうね。それより、頭の円盤は取り外しできるわよね)

 ジーッと見ていたが、何かを思いついたようにエルメアーナを見た。

「ねえ、シュレのパワードスーツだけど、頭の円盤は外れるようになっているわよね。あれは、外して梱包しないと梱包が面倒ね。胴体と外して梱包した方がいいわ」

 その話を聞いたエルメアーナは、困ったような表情をした。

「あの円盤は、外して梱包するから」

 アイカユラは、笑顔で繰り返すと、エルメアーナは黙ったままコクコクと頷くと、納得してもらったと思ったアイカユラは清々しい顔をした。

「うん、後で寸法を計って、梱包箱の内寸を決めるわ。箱の中の固定用の梱包材か。うん、その程度なら梱包の際に当て木を切ったりして作れるか」

 そう言うと入ってきたドアの方に歩き出し、ドアノブに手をかけると振り返った。

「お店の方がひと段落したら始めるから」

 そう言って工房から出ていくと、エルメアーナは緊張が解れ、落ち着いた様子でアリアリーシャのパワードスーツを見た。

「この組み立てを急がないといけないのか。パワードスーツというより、この外装骨格よね」

 ボヤくように言うとニヤリとした。

「開発のコンセプト、必要とする市場、その時の経済効果、商会の売上と利益。うん、調べたり考えたりする事は沢山あるわ。まとめたら、ヒュェルリーンに報告して、開発に関する許可を得ないとまずいわ。あ、そうか、予算も算出しないといけないわね」

 人に聞かせるというより自分を納得させるように呟いたアイカユラは、そのまま工房を出て行った。

 そして、工房に残ったエルメアーナは、アイカユラのボヤキを聞いて嫌な予感を感じたのか青い顔をしていた。

(あの顔、何だか、剣の注文を取った時に、似ているような……)

 エルメアーナは、以前、ジューネスティーンの剣を複製して販売を始めると人気に火がつき、一人で店番と生産に追われて休む暇も無く働いていた。

 それをヒュェルリーンがアイカユラを連れてきて助けようとしたが、アイカユラはエルメアーナが疲れて店番をしていたのを暇すぎてだらけているのだろうと勘違いしてしまい必要以上の注文を取ってしまった。

 その際に取ったアイカユラの行動は、エルメアーナに1日12時間の労働を強いた事だ。

 アイカユラは、店番以外に生産管理と資材調達を行って、食事を含む家事全般と生活面でも面倒を見てくれたが、エルメアーナの仕事は刀鍛冶となるので疲労は計り知れないものがあった。

 そんな中、店の売上の急激な上昇を見てヒュェルリーンが異変に気が付き顧客との調整してくれたから事無く終えたが、エルメアーナは、その時の凄惨な労働環境を思い出すと寒気がしたようだ。

 嫌な予感を感じていると、工房のドアが突然開いた。

 そこにはアイカユラ居て嬉しそうな笑みを浮かべてエルメアーナを見たので、エルメアーナは、その笑みが恐ろしいと思ったようだ。

「梱包用の箱は、私が全部手配するから。それと、パワードスーツの材料で足りない物は手配するから、気がついた時に黒板にでも書き出しておいて。毎日、私が確認してヒュェルリーンに依頼は出しておくわ。だから、あなたは組立に専念してね」

 アイカユラは笑顔で自分の言いたい事だけを伝えると工房をドアを閉めた。

 そのドアをエルメアーナは不安そうに見つめていた。

「嫌な予感」

 そう呟くと大きく息を吐くと、自分を奮い立たせるように体に力を入れ頬を両手で叩いた。

「あいつの事を考えていても仕事は終わらない。何か変な事を考えていそうだが、今は、アリーシャとレオンのパワードスーツの完成の方が先だ」

 外部装甲の取り付けを行っているアリアリーシャのパワードスーツに向いて、アイカユラとの話の前に行っていた作業を確認して仕事に戻ろうとすると、エルメアーナは全体を確認するように見た。

「アリーシャとレオンは、自分達の視覚や聴覚を大事にしたいから首から上は要らないって事だけど、何だか微妙だよな。首から下は金属で覆われていて首から上はウサ耳の顔とヒョウ耳の顔が乗っかっているんだから、まるでタルから首が出ているみたいだ」

 首から上の無いパワードスーツを見てエルメアーナは呟いた。

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