第7話 材料価格


 アイカユラは、呆れた表情をした。

(この金属って、ギルドが開発した新しい合金で、市場に出回ってない物なのよ。新規開発の合金なんて、どれだけの費用になるのよ! 材料はうちの商会が提供することになっているのだから、ジュネス達に負担は掛からないけど、その費用を出すのは商会でしょ! それを、カッコいいからって、こんなふんだんに使ってしまうようなデザインにするって、どう言う事なのよ!)

 考えるような表情をしたと思ったら、怒気を含むような表情に徐々に変わってくる。

(待てよ、待てよ、待てよ。あの金属の単価を思い出した。価格が安定したところで、鉄の100倍が相場だとかヒュェルリーン達が話していたわ。でも、それって、量産した時の価格なのだから、今のような量産試作の段階なら、更に100倍の価格になっているかもしれない!)

 アイカユラは青い顔をして、組立作業中のアリアリーシャのパワードスーツを見る。

(これだけの大きさなら、材料費だけで、国宝級の宝石と値段が変わらないわ)

 そして、壁に置いてある未完成で外装骨格のみのパワードスーツを眺めて、最後にシュレイノリアの外装骨格を見ると怒りが込み上げてきたようだ。

 外装骨格の頭に乗った円盤は、肩の両脇から支えるようにして固定してあったので、それを見て指を指した。

「どうして、こんな勿体無い使い方をするのよ! 他は機能的に必要な部分だけなのに、これだけ何で大きな円盤が頭についているのよ!」

「えっ!」

 エルメアーナは、ヒステリックに言ってきたアイカユラに驚いていた。

 それは、デザインにも設計にも関与する事は無く、ジューネスティーンの設計通りに組み立てただけなので、シュレイノリアの頭の円盤が大きいとは思ったが意見を言う事も無く加工された部品を組み立てた。

 組立作業を担当するにあたり、ベアリングの取付などの加工方法に付いてジューネスティーンと話をする事は有っても設計やデザインについては、二人の会話を横で聞いていただけで意見を述べる事は無かった。

 エルメアーナは、その時の事を思い出すようにするが、アイカユラが何でヒステリックに言うのか分からずにいた。

「シュレが、こうしろって言ったんだ」

 恐る恐る状況を説明したので、アイカユラはイラついたような表情をした。

「誰も、止める事は無かったの? ジュネスは? ヒュェルリーンが反対したんじゃないの?」

 捲し立てるように言うアイカユラを、困ったようにエルメアーナは見る。

「ジュネスは、実用的じゃないから、小さい方が良いって言ったんだが、シュレは譲らなかったんだ」

 言い訳をするように答えてもアイカユラは納得できないという表情のままだった。

「ジュネスは、実用的じゃないって反対したのなら、あなたも一緒に反対すればよかったじゃないの!」

 捲し立てたアイカユラは、何か思いついたような表情をした。

「ヒュェルリーンは、何て言ったのよ! 新開発の材料だったから、私は関与してなかったけど、こんな頭でっかちの格好にしたら材料費が高騰するからダメだと言わなかったって言うの?」

 自分なら絶対に止めるだろうと思った事を、ヒュェルリーンなら指摘するはずだと思った様子でエルメアーナに迫った。

 しかし、エルメアーナは困ったような表情をした。

「ヒュェルリーンは、ジュネスが困ったような表情を見て笑ってた。それで、シュレの言うようにって言うから、ジュネスも渋々納得していた」

 その答えにアイカユラは力が抜けたようだ。

(な、何よ。ヒュェルリーンは笑ってた? あんな高価な材料をカッコいいって理由で大きな円盤に使わせてしまったの?)

 その様子を気にしつつエルメアーナは、何かを言おうとしていた。

「何よ! まだ、何かあるの?」

 エルメアーナの様子に気がついたアイカユラは声を掛けた。

「あ、あの金属は、ギルド本部が、無償提供してくれたらしいんだ。だから、ヒュェルリーンは、必要量を伝えれば、その量の金属が届くって言ってた」

 それを聞いたアイカユラは呆気に取られた。

「き、金属の提供は、ギルド本部で、タダで、提供してくれた? 国宝級の宝石と同じ位の金額がタダ?」

 呆然として、シュレイノリアの外装骨格を眺めるだけになってしまった。

(うちの商会に費用負担は無いけど、ギルド本部ってこんな金属をポンって渡してしまえる? ……。そうよね。ギルドって、冒険者のコアの買取や依頼の仲介じゃない。労働力の提供もだけど、国家事業に融資したりできるのだから、この程度の合金の提供なんて、……。あれ、合金を作っているのはギルド本部だから、……。ひょっとすると、合金の材料自体はそれほど高くないって事なのかもしれない? その技術なりの価値か、加工に掛かる費用が高いから高価になるって事なのかも)

 アイカユラは、自身の考えがまとまったのか、落ち着いた表情に戻った。

(でも、ヒュェルリーンが何でシュレの我儘を通すようにジュネスに言ったのかしら? ヒュェルリーンは笑いながらとなると、報告を受けたジュエルイアンも同じような態度をするかもしれない。……。大きくなった円盤に何か意味があったのかしら?)

 アイカユラは、大きく息を吐いた。

 一介の商会職員に取って、ギルド本部と商会トップの考えには大きな隔たりがあり、ヒュェルリーン達が知る内容まで、エルメアーナの鍛冶屋を任されたアイカユラには知る事ができない事も多い。

(きっと、ヒュェルリーン達には何か思惑があったからなのだろうけど、その理由まで、私が知るには時間が掛かりそうね。私自身がヒュェルリーンと話ができる事自体、同じ身分の職員達からとったら異例の事なのだから、これ以上の詮索はしない方がいいのか。薮を突いて蛇を出しても、今の私では対応できないなら、余計な事を言う必要は無いって事だわ)

 アイカユラは自分を納得するように頷いた。

「ギルドが材料を無償支給するし、ヒュェルリーンも納得してるなら、私がとやかく言う事も無いわね」

 諦めた様子でシュレイノリアの外装骨格を確認した。

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