第6話 パワードスーツとアイカユラ


 アイカユラはニヤニヤし始めると、目尻が下がり口の端が吊り上がるような表情をした。

 それは、あまり、人には見せられないような表情になっていたので、見ていたエルメアーナは気持ち悪そうに表情の変化を見ていた。

「お、おい、大丈夫、か?」

 恐る恐る聞いても、アイカユラは聞こえていないのか表情が戻る事はなかく、口からヨダレが垂れてしまった。

「おい、何か有ったのか!」

 強い口調でもう一度聞くとアイカユラは気がついて表情を戻してエルメアーナを見た。

「お前、どうしたんだ? まるで悪霊に取り憑かれたみたいだったぞ」

 そう言ってエルメアーナは、自身の口の下を指差して、アイカユラがヨダレを垂らしている事を教えたので慌てて手で拭った。

「あ、ああ、ありがとう」

 答えると直ぐにアイカユラは鋭い目をした。

「パワードスーツは、部位が無くても動くなら話は別だわ。そうね、うん」

 アイカユラは、壁に置かれて並んでいるパワードスーツの前を行ったり来たりしながら顎に手を当てて考えていた。

「これは良いわ」

 その様子をエルメアーナは不思議そうに見ていた。

(うん。この技術は歴史を変える。パワードスーツに汎用性を持たせられたら、歩けなくなった人も、事故で手を失った人も、代わりになる物を得られるから、動けなくなった人も、また、仕事をできるようになるわ)

 面白そうに笑ったので、エルメアーナは少し怖いと思った様子で見ていた。

(橋をかけていた時、家を作っていた時に落ちてしまって動けなくなった人にパワードスーツ、いえ、この外装骨格だけを与えても動けるって事になるわ。この技術が有れば、有能だった職人が、また、現場に立つ事も可能になるし、年齢的に衰えた人でも力を発揮できるかもしれないわ)

 すると、イヤラシそうな表情をエルメアーナに向けたので、エルメアーナは怖いと思ったのか、いつでも逃げ出せるように一歩離れた。

(エルメアーナは、ジュネスの1台と、ここの5台を組み立てているし、今回の物は部品を作るところから一緒に仕事をしていたのなら、これと同じ物は作れるって事。それなら、5台の完成を急がせて、新たな外装骨格を作らせればいい)

 アイカユラは、ゆっくりとエルメアーナの方に歩き始めた。

「お、おい、どうした? な、何だか、顔が、怖い、ぞ」

 そう言って後ずさり一気に逃げられるように状態を低くすると、アイカユラは一気に間合いを詰めて両手を握ると胸の前に上げた。

「エルメアーナ。ここの5台は早く完成させましょう」

 笑顔で語りかけるのだが、エルメアーナは膝を曲げて逃げる準備をしていた事から見上げるように見ることになっていたので、天井の明かりがアイカユラの頭の後ろから差していた。

 アイカユラの笑顔が逆光になり不気味に写っていた事から、エルメアーナは声を失い、ただ、うんうんと頷くしかできないでいた。

「5台のパワードスーツが完成したら、今度はエルメアーナが外装骨格を作るのよ。パワードスーツは歴史を変えるゲームチェンジャーなの。魔物と戦うだけに使うなんて、勿体無いわ」

 アイカユラは、自身の思いつた内容に酔っていたが、話し方に威圧するような事は無かった。

 しかし、それまでの様子からエルメアーナには怖いと思って見ていた。

「そうだわ。完成したら直ぐに梱包して送るのよ。ねえ!」

 アイカユラは笑顔で声を掛けたのだが、声を掛けられたエルメアーナは、瞬間恐れるように肩をピクリと動かした。

「あなたに時間を掛けさせるわけにはいかないから、梱包箱は私が用意するわ。だから発送の時の状態を教えて」

「あ、ああ。送る、時は、腕と、足を、……。は、外して、胴体に、わ、分ける」

 エルメアーナの説明を聞きながら、アイカユラは組み立てているアリアリーシャのパワードスーツを見た。

「ねえ、その時、この装甲は付いたままなの?」

「い、いや、そ、装甲を外してからじゃないと、手足の取り外しは、む、難しい」

 それを聞いて、うんうんとアイカユラは頷いた。

「そうなると、胴体、右腕、左腕、右足、左足の大型のパーツと、装甲の各パーツって事になるのね。そうなると、梱包箱は3個位に分けた方がいいわね。胴体が一番重いでしょうから箱の強度の基準は胴体から考えるとして、腕と足のパーツを入れたスペースに装甲を収められるようにとなったら、内部に固定できる梱包材? うーん、専用の梱包材にしても良いか」

 そう言うと壁に置かれた4台のパワードスーツを見た。

「一番背の高いのはカミューとアンジュになるけど、問題はシュレのパワードスつの頭か」

 そう言うと左端に置かれたパワードスーツの前に立った。

「何でシュレのパワードスーツは頭に円盤を乗せているのかしら? 中央に三角錐が付いているから、魔法職の帽子みたいだけど、こんなに大きくしなくても良かったんじゃないかしら? 頭だけじゃなくて肩にも支えが必要になってしまうんだから大き過ぎよね。梱包するにしても、これだけ別に考える必要があるわ」

 アイカユラが、壁際の4台の外装骨格に気を取られた事で、エルメアーナは、気持ちも落ち着いてきたように表情を和らげた。

「頭の円盤は魔物の位置を捉えるために付けられているって言ってたぞ。シュレの話だと、人も魔物も魔素を出しているらしい。それを検出する魔法紋が仕込まれているらしい」

 エルメアーナの説明に納得するようにシュレイノリアの外装骨格を眺めた。

「ふーん、そうなのね。でも、こんなに大きくしたのに意味があるの?」

「シュレは、これが、カッコいいって言ってた」

 アイカユラは、何を言っていると言うようにシュレイノリア用の円盤を睨むとエルメアーナを見た。

「カ、カッコいい。……。そう言った」

 エルメアーナは何か不味い事が起こったかもと思った様子で繰り返すと、アイカユラは力が抜けガッカリした。

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