第5話 パワードスーツの未来


 朝食が終わると、エルメアーナは直ぐに工房に向かったが、アイカユラは、朝食の片付けを早めに終わらせてから工房に向かった。

(昨日の話は面白かったわ。これは武器としての効果もだけど、それ以上に人の為に使う事も可能なのでは?)

 廊下を歩きながら考えをまとめるように顎に手を当てていた。

(ひょっとしたら、足を無くした人の為に使ったら、また、歩けるようにならないかしら? ……。それに、腕を無くした人に、あの腕を付けたら腕としての機能も持てるんじゃないの?)

 アイカユラは立ち止まった。

(体の動きに合わせて動かせるなら、あれには人の動きを読み取る事ができるって事よね。……。あ、でも、足や腕が無かったら、その動きを読み取れないのなら、それも無理なのか)

 少しガッカリした様子で、また、歩き始めた。


 工房に来たアイカユラは、壁に並んでいるパワードスーツの外装骨格の関節部分を見ていた。

「でも、よく考えてあるわ。腕を回すとか、足を曲げたり回したりもだけど、腰回りの構造も横に広げられるなんて、考えられているわよね」

 ジューネスティーンの設計したパワードスーツは、人の動きに連動して動く事から、外装骨格は自在に動く人体の各関節部に応じて考えられている。

 人の骨格は人体の内部に有るが、外部に作られた骨格で内部の骨の動きに連動させるには幾つかの工夫が施されていた。

 肘や膝のような単純な動きならば蝶番を使えば良いが、股関節や肩や足首の動きに対応するには複雑な機能が必要になる為の工夫を加える事によって、外装骨格が人の動きに近くなっていた。

「ジュネスは面白い事を考えた。だが、完全に人の動きを模倣はしてない。できない格好も色々あるぞ。だが、ジュネス達は冒険者だからな、防具としてのパワードスーツなら動きに対応可能だ。それにホバークラフトはいい」

 アイカユラは、聞きなれない言葉に疑問が浮かんだ。

「ホバークラフト?」

「ああ、パワードスーツは重くなるからな。早く走るとなると、外装骨格を動かす人工筋肉の速度が追いつかない。あんな物を付けてたら生身の人より遅いが、ホバークラフトによって地面から浮いて風魔法で移動する。ほら、レオンとアリーシャが使っているホバーボードの原理をパワードスーツに付けているんだ。まあ、ホバーボード程じゃないが地面から浮く事で人が走るより早くもなる」

「レオンとアリーシャのって、あの細長い板よね。大きな葉っぱみたいな形のやつでしょ」

 エルメアーナは、話に付いてくるアイカユラに満足そうにした。

「ジュネスの話だと、学校から提供された空き教室でパワードスーツを作っていた時、パワードスーツの内部に発生する熱を冷却するつもりで、外部装甲の内側から風を送ろうとしていたらしいが、床に置いておいた装甲にシュレが間違って魔法紋を発動させたら、床を滑るように動いて壁にぶつかった事から思いついたらしい」

 アイカユラは感心したようにエルメアーナを見た。

(男嫌いなのに、ジュネスとは、そんな事まで聞いていたのね)

 エルメアーナは作業を行いつつ話をしていたのでアイカユラの表情の変化に気付く事はなかった。

「そのアイデアをシュレに話したら、あのボードだけを用意して、後は、シュレの魔法紋だけの実験で作ったらしいぞ。そのテストパイロットがレオンで、開発当初は、まともに使えなかったらしく、転んで生傷が絶えないからレオンが逃げ出し、シュレが捕まえて実験に付き合わせたとか、だったかな」

(そう言えば、ジュネスの転移とシュレの転移って1日違いとかって言ってたわね。レオンは、その4年後だったかしら。3人は兄弟みたいなものだったから、ギルドに納品するパワードスーツを作っていたジュネスには、ホバーボードの開発実験に時間を避けなかったのか。それで実験を手伝ったのはレオンだったって事なのね)

 ホバーボードは、パワードスーツの組立中にシュレイノリアのミスによってジューネスティーンが閃きアイデアからボードを作成した。

 風魔法によって移動させる為には、シュレイノリアがソフトウエアとしての魔法紋の開発によるが、基本的な魔法紋が開発されると実際に人が乗って操作する為の制御に関する魔法紋の構築にはテストパイロットが必要だった。

 それが、弟分であるレィオーンパードによって行われた。

 その際、シュレイノリアは、人の持つ魔素の違いに気が付き、魔素から人や魔物を見つける魔法を開発していた。


 アイカユラは、何か思い出した様子でエルメアーナを見た。

「ねえ、パワードスーツって人の動きに連動するというけど、足でも腕でも動き出したのを確認してから動いたら、遅れが出てしまって動きに違和感を感じないかしら?」

 エルメアーナは、特に気にする様子もなく自身の作業を進めていた。

「シュレの話だと、体の部位を動かす信号が脳から発信されるらしいんだ。脳から部位までに伝わるまでの時間を利用して、信号の受信、処理、部位の駆動をするらしいから、動きの遅れはあまり気にならないらしい。人の神経が信号を伝える時間というのは案外遅いらしいからな」

 アイカユラは面倒臭そうに聞いていたが、何か閃いた様子になると険しい表情をした。

「ねえ、今の話だと、パワードスーツの中の人って、手や足が無くても動かせるって事じゃないのかな」

 エルメアーナは手を止めて今の話を考えるように上を向いた。

「そうだな。多分、頭の信号を受ける機能が有れば、手や足が無くても動かせそうだな」

 その答えにアイカユラは肩をビクリと動かした。

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