第4話 模倣品


 アイカユラの答えにエルメアーナは勝ち誇ったような表情で聞いていた。

「甘いな。あの金型は、ジュネスの剣の技術が入っている」

 エルメアーナの言葉に強い自信を感じたアイカユラは、自分が気付かない何かが有ると思ったようだ。

「あれを見て同じ物を作ったとして、直ぐに金型が削れて誤差が増えてしまうはずだ。金型の加工の時は柔らかく、使う時には金型の硬度は高まっているから、耐久性の違いが出る。あんなデカい物に焼き入れを入れるなんて発想は無かったし、それに焼き入れの方法も、ちょっとコツがいるからな。それによって、金型の寿命が大きく変わる。金型の寿命が1000倍違ったらどうなる」

 数字が出てきた事は、店の経理面で計算をしている事から興味が湧いたようだ。

「金型を作った時の金額を償却するのよね。費用を予定販売数量で割った金額の上乗せして販売するわ」

 商品の金額の計算を始めたアイカユラを見てエルメアーナはしめたと思ったような表情をする。

「償却費は、商品の金額に上乗せされる。こっちが一つの金型で百万個のベアリングを作ったとしても、真似て作った粗悪品の金型は、千個で金型の償却する必要がある」

 今の説明には、数字が含まれていたので、アイカユラは頭の中で計算する必要も無いといったように視線を上げた。

「金型の代金が、金貨1枚だとすると、白銅貨1千万枚だ」

 金額が提示されると、アイカユラはニヤリとしてエルメアーナを見た。

「なる程ね。金型の償却費は、こっちが白銅貨10枚だったとしても、粗悪品の金型で作った模倣品は、白銅貨1万枚だから中銅貨1枚分を一つのベアリングに上乗せしないと赤字になるって事ね」

 エルメアーナはアイカユラが理解できた事に満足そうにした。

「そうなると真似した連中はどうする?」

 大きな金額の違いを克服する事をアイカユラは考える。

「うーん、材料費を下げる事になるか、償却期間が過ぎても使い続けるわ」

 エルメアーナは、思った通りの答えに満足したようだ。

「安い材料、つまり、粗悪な材料を使うから、金型も削れてしまうから出来上がったベアリングも粗悪品になって性能も出ないし寿命も落ちる。見ただけで焼き入れしているかどうかなんて理解できる鍛冶屋なんていなさ。金型もベアリングも焼き入れして硬度が増している事に気がつけなかったら粗悪品しか作れない。私達だって色々苦労して方法を確立したんだ」

 説明を聞いていたアイカユラは、興味津々という表情をしエルメアーナの目を見ていた。

(エルメアーナは、鍛冶屋としての腕も良い。ここの王都でも十本、いえ、五本の指に入るはず。製品の性能についても専門家として見れるわ。だから、製造工程にあるノウハウの事を考えての言葉なのね)

 アイカユラは、エルメアーナの話を聞いて納得したようだ。

「こっちの商品は、同じ値段で性能も寿命も良いって事ね」

 分かってくれたと思うとエルメアーナも安心したように笑みを浮かべた。

「それだけじゃないさ。購入した製品の性能も寿命も格段に違ったベアリングと知られたらどうなる?」

 エルメアーナの言葉にアイカユラも理解でき、同じように笑みを浮かべた。

「粗悪な物は買わなくなるから、うちの商会の物を買いたいと思うわ。……。そうか、売れなくなったら安売りするから、真似た商会は利益が出るどころか赤字になるって事か。いえ、それ以上に信用を落とした商会は、ベアリング以外も売れなくなるわ」

「……」

 アイカユラは市場に出回った粗悪品が及ぼすイメージが更にエルメアーナ達が完成させたベアリングの品質によって市場にイメージを与える事を言い出したが、それは鍛冶屋であるエルメアーナには考えが及んでいなかった事だったので黙って見ていた。

(ちょっと、話がズレたような気がするが、良い方向に話が進んでいる事はわかる。でも、最初の質問のパワードスーツの話に戻すか)

 エルメアーナは表情を戻した。

「パワードスーツは、ベアリングをふんだんに使っているから外装骨格に関節を作っても動きが滑らかになる。それに関節が取り付けられたことで、パーツを体に一つ一つ取り付けるフルメタルアーマーとは全く違う。外装骨格にフルメタルアーマーのような防御パーツを取り付けているから、服を着るより早く装着できる」

 アイカユラは、工房に置いてある外装骨格の構造を思い出すような表情をした。

「外装骨格の可動部分はベアリングが有るからスムーズに動く。それにシュレの魔法紋によって身体の動きに合わせて動く事で、人の力以上の能力を発揮できるんだ」

 アイカユラは、話を聞いて考えるような表情をした。

(エルメアーナって、説明が少し下手なのよねぇ。もう少し素人の私にもわかりやすく話してほしいわ。でも、まぁ、他の鍛冶屋とか料理人とかのように擬音を使って身振りで説明されるよりはマシかな)

 そして、面白いといった表情をすると、何かを思い出したような表情になった。

「そう言えば、フルプレートアーマーを身に付けた状態で身体強化しても、生身の人の力を超えられないと言うわね。工房で作っているのは、それを超えるって事なの?」

「ああ、パワードスーツの外装骨格は反作用の力を引き受けてくれる。攻撃した時の反動や攻撃を受けた時の衝撃は関節に影響を与えるから、一般的な身体強化魔法は人の骨格が耐えられる限界以上に掛ける事はできないのさ」

 人の体は骨格に付いた筋肉によって動かされる。

 どんなに筋肉を強化しても、それを支える骨格以上の力が掛かれば骨折してしまう。

 強力な力を人が使おうと思ったら筋力に似合った骨格も必要になる。

 パワードスーツは、外装骨格によって強力な力の反作用を引き受け、内部の人体に悪影響が無いように考えられていた事をアイカユラは理解した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る