第2話 アイカユラとエルメアーナ
アイカユラは、ジト目でエルメアーナを見るので視線を向けられずにいた。
(エルメアーナったら、ちょっと、胸にコンプレックス持ち過ぎよ。あそこまでの大きさを求めなくても。きっと、大きい人には大きい人なりの悩みもあるはずでしょ。あんたは鍛冶屋なんだから、アリーシャさん並みになったら、そのパワードスーツの作業で中に手を伸ばして入れる時とか、絶対邪魔だって言うに決まっているでしょ)
すると、仕方なさそうな表情をしてから複雑な表情をした。
(エルメアーナって、冒険者の男性から人気が高いのにねぇ。私が店で応対している時、鼻の下を伸ばした男達があなたを探すように見ているのよ。目の前に私がいるのに、あなたを探す人って結構多いのよ。胸の大きさで女の価値が決まるなんて事は無いのに!)
アイカユラは、ガッカリするような表情をしたが、何か気になるような表情をした。
(でも、エルメアーナって、何であんなに男の人を嫌悪するような態度を取るのかしら? ……。ジュネスの剣を初めて見た時の話をアンジュから聞いたけど、あの剣が無かったらジュネスの事も避けるような態度で終わってたかもしれないのね。……。男を毛嫌いしても、それ以上にジュネスの剣は魅力だったのか。これは、職人の
納得するような表情をすると、アリアリーシャ用のパワードスーツを見た。
(職人の性があったから、こうやってパワードスーツを組み立てる事になったし、私もこの店に派遣される事も無かったのか)
エルメアーナがタジタジしているのを、アイカユラはボーッと見ながら近寄った。
「夕飯にするわよ」
そう言ってエルメアーナの手を取ると、その手を見て嫌そうな表情をした。
「うーん、食べる前に手を綺麗にしてからね。まずは、洗面所に行きましょう」
アイカユラは、エルメアーナの作業で汚れた手を引いて工房を出ようとしたので、エルメアーナは少し慌てた。
「あ、食事の前には私だって手を洗う。一人で出来る」
「何言っているの! あんた、まともな手の洗い方しないから! この前なんて、指紋や爪の間が真っ黒だったでしょ! 私が確認します!」
エルメアーナは、子供扱いされたと思ったのか慌てて反論するように答えたが、アイカユラは納得できないというように言い返したので黙ってしまったまま引っ張られて工房を後にした。
アイカユラは、エルメアーナの店がジューネスティーンの剣を作り始めた事から販売が好調になり、エルメアーナに店番をさせずに剣の生産に集中させるためにジュエルイアンが店の運営をアイカユラに任せるために派遣していた。
ジュエルイアンとしては、若く女性だったアイカユラが将来有望と考えていた事から、エルメアーナに剣の生産に集中させるために丁度良い人材と思って派遣したが、アイカユラの誤解によって受注を増やしてしまい、過酷な労働条件を強いていたところ、売上が思っていた以上に上がっていた事からヒュェルリーンが気がつき、ブラック化した環境の調整を行なっていた。
今ではお互いに認め合い、エルメアーナに鍛治に集中させるために、アイカユラが営業から経理と家事全般を受け持っていた。
そして、剣の作業がひと段落するとジュエルイアンからベアリングの量産化を行い、ジューネスティーンの作る3台目からのパワードスーツの製造に携わった。
ジューネスティーンは、ギルドの高等学校には特待生として入学したが、卒業までに設計中のパワードスーツを完成させて、入学前に使っていたフルメタルアーマーを改造したパワードスーツと共に卒業までに納品する事になっていた。
それが出来なかった場合、学費から寮費と在学中に掛かった費用の全額の支払いが請求される事になっていたが、無事にギルドに納品できていたので膨大な借金を負う事は無く卒業できていた。
しかし、卒業後に冒険者として活動する為のパワードスーツが無かった事から、それをベアリングの開発から引き続きエルメアーナの工房で行う事になり、費用もジュエルイアンが全額出資してくれていた。
ジューネスティーンは、外装骨格を6台分完成させた後、自身の1台を完成させると、残りの5台は外装骨格に取り付ける外部装甲のパーツの加工から組立をエルメアーナに任せて、ギルドの依頼で大ツ・バール帝国に旅立って今に至る。
エルメアーナの手が綺麗になったのを納得したアイカユラは、リビングのテーブルに座らせるとカップにお茶を注いでエルメアーナに渡した。
「料理を持ってくるから、それまで飲んでいて」
「ありがとう」
エルメアーナは、カップを受け取ると直ぐに口に持っていった。
その様子を、アイカユラは確認してから台所のカウンターに置いてある二人分の夕飯を乗せたトレーを取って戻ってくると配膳した。
エルメアーナは、その様子をカップのお茶を飲みながら待っていた。
「それじゃあ、いただきましょう」
配膳が終わってアイカユラが声を掛けると、エルメアーナはカップのお茶を飲み干して、テーブルに置き食事に手を付けたので、アイカユラは空いたカップにお茶を注ぐと自身も料理に手をつけた。
しかし、アイカユラは、エルメアーナがガツガツと食べる様子を見ながら、ゆっくりと料理を口に運んでいた。
「おかわり」
エルメアーナは、主食の皿だけを一気に食べて差し出したので、アイカユラは皿を受け取ると台所に行き料理をよそって戻ってくるとエルメアーナの前に置いた。
おかわりが届くと、別の料理を食べていた手を止めて出された皿の料理を食べ始めた。
少しするとエルメアーナの空腹も解消されてきたのか食べるスピードが落ちてきた。
「梱包用の箱はどうするの?」
「完成品のまま送るのは重量の問題があるから分解して送る事になる」
アイカユラが聞くと、エルメアーナは料理を食べるのをやめて答えてくれたので納得するような表情をした。
「作ってもらう業者は用意してあるから、箱の内寸は教えてね。ああ、重さも一緒にお願い。完成後は直ぐに発送するからって、ヒュェルリーンが言ってたわよ」
エルメアーナは、完成の納期を煽られていると思ったのか、面倒臭そうな表情をしたので、アイカユラは一瞬表情を曇らせた。
(何で、物を作る人って納期の話をすると表情が強張るのかしら? 約束の期日に間に合わせられるように配慮しているのにぃ)
仕方なさそうな表情をした。
「ねえ、金属で作った鎧に関節まで付けて、まともに動くの? 関節が動くと言っても金属で完全に覆われていたら重いし摩擦もあるから、足の方なんて全身の重量を受けているから動かすにしても重量から動きが鈍くなるんじゃないの?」
その質問にエルメアーナは、ニヤリと笑った。
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