第16話 仮面の男となった理由
仮面の男の正体が亡きジュリエッタの弟とわかり、私とギャレット伯爵が驚いていると、ヴィンセントは静かに語り始めた。
「僕は、ジュリエッタ姉さんの敵を討つためにたびたび城に潜り込んでいた。花嫁を見張り、どこに連れられていくのかを見ていたら、あの秘密の部屋を発見した。だが、どうやっても開かず、伯爵の鍵が必要だった。そこで、伯爵に近づくため、偽の花嫁候補、ミッシェルとなって潜り込んだんた」
「階段から転落死してしまったと聞いていたけど、殺されたというの?」
私が驚きながら質問すると、ヴィンセントはうなづいた。
ヴィンセントによると、話はギャレット伯爵とジュリエッタが結婚した時に遡る。
ジュリエッタは大層美しく、いつも注目の的だった。
だが、その美しさゆえ、ギャレット伯爵が目を離すと、隠れてジュリエッタに言い寄る使用人も少なくなかった。物陰から、ジュリエッタがどうするのか観察していたが、ジュリエッタはその誘いをきっぱりと断っていた。
一時期はジュリエッタのことを信じていた。だが、次第に不安に駆られ、他の男性や使用人と会わせたくなくなり、部屋に監禁するようになった。
「どうしても弟のヴィンセントに会わせていただけないのですか?病気になったというのです。心配で心配で…」と涙ながらにジュリエッタが訴えても、伯爵は耳を貸さなかった。
それから数ヶ月経った頃、ジュリエッタは部屋からいなくなっていた。城の罠はかけてあり、無傷で出られないから出ていかないはずだと伯爵は慢心していたのが仇となった。
急いでギャレット伯爵がジュリエッタを追いかけたとこら、落とし穴によるものか、その他の装置によるものか、体のあらゆる所が刃物で引き裂かれていたが、血塗れになっても、なんとか階段の手すりに寄りかかって逃げようとしていた。
「なぜ私から逃げようとする!?」
「ヴィンセントが病気になっても、なぜ会いに行けないのですか?手紙だけでは、どんな状態かわからない。両親も体が弱く、私しか頼れる家族がいないのです。私があの子の傍にいかなくては…」
「そう言って、いなくなるつもりだろう。そうはさせない!」
その後、ジュリエッタはギャレット伯爵に追いかけられ、揉み合いになり、足の傷が元で階段から転落し、頭を打って死亡したという。
まだ城を夜中に歩いてはならないというルールがなく、たまたま当時のメイドの1人がその光景を見ていた。
その恐ろしい出来事に黙っていられず、すぐに辞めており、ヴィンセントは、事情もその元メイドから知った。 疑い深いギャレット伯爵が怪しまなかったのは、事件の少し後に病気の親が亡くなり、家の身辺整理や家業の手伝いがしたい、という理由でやめたからだった。
そのメイドはジュリエッタの身の回りの世話をしており、たまに見える傷にも気づいていたが、口出しできず、ジュリエッタもそれがわかっていた。
多くの使用人はギャレットのしていることに気づいているが、病気の親族の治療費や借金など、実家の仕送りができなくなると生活に困る人ばかりを雇っているため、真実を話せない。ジュリエッタが亡くなってから、次々と花嫁たちが苦しみ、死んでしまっても、全員夜は部屋に閉じこもっている。従順で控えめなジュリエッタの代わりがおらず、ギャレット伯爵が虐げているうちに衰弱死している花嫁ばかりだ。
ジュリエッタの死の真相をメイドから効いた後、復讐をはたすため、親戚のマックイーン家に協力してもらい、女性のふりをして潜り込んだ。
メイドからわかる範囲の城の構造も教わった。教えてくれたのは、「メイドの自分にも分け隔てなく優しくしてて、本当に素晴らしい方でしたから…」という理由であり、亡くなった姉のことを思うと涙が止まらなかったという。
ヴィンセントの話を聞き、悲しみをこらえながらも、たった一人で立ち向かおうとしていたかがわかり、私は胸が痛くなった。
「姉さんのことだけじゃない。今までの犠牲になった花嫁の報いを受けるべきだ」
ヴィンセントはまっすぐにギャレット伯爵を見据え、一方、伯爵はヴィンセントに視線を逸らせないようだった。
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