第4話 夕食と城のルール
城に着いてから初めてのディナー。色とりどりの食事が運ばれ、食欲がそそられるものばかりのはずが、緊張でほとんど味がしなかった。
ギャレット伯爵は食事を中断し、花嫁たちに声をかけた。
「今日から住んでもらう君たちに、この城のルールを教えたい」
「ルールとは?」
ミッシェルが首を傾げる。ギャレット伯爵は微笑しながら話しかけた。
「一つ目は、夕食の後、部屋から出てはいけない。二つ目は夕食後は部屋から出なくて済むよう、飲み水は部屋で用意したものを飲むこと。三つ目は、ダンスパーティーに必ず出席すること」
「まあ、それでは夕食の後は退屈ですわね。私、あまり部屋にこもることは好きではありませんの」
ブリジットは不満気に伯爵を見るが、伯爵は少し困った風に笑うだけだった。
「部屋から出ないでもらうのは、僕や使用人の目が届かないところに行ってしまうと危ないからだよ。私は初めての結婚の際に住み始めたんだが、隠された部屋があって驚かされたりしたんだ」
伯爵が言うには、からくりで隠された隠し部屋や、思わぬ罠があり、危険な目にあったのだと言う。
探索をするのにも危険が伴うのかもしれないし、何より夜に出歩けないのであれば、姉の手がかりを探せないではないか。何か伯爵から情報を得られないかと、私は伯爵に質問した。
「それだけ仕掛けがあるのなら、普段生活してても危ないのではないでしょうか?」
「普段は僕や使用人がいるから、もし危ないことになりそうならすぐに止めるし、心配ないさ」
つまり、自室や、その付近には仕掛けがないということだ。もしかすると伯爵の部屋の付近や、普段出入りしない場所に手がかりがあるのかもしれない。
「もし不安なら、夕食の後、僕が城を案内しようか?」
なぜだろう、案内してもらった方が手がかりがつかみやすいはずなのに。はい、と言えない。
なぜ、夕食の後は出歩けないのか。なぜ、伯爵の目を見ることはできないのか。まるで獲物を狙う狩人のような目だからだ。何かが起こりそうで怖い。
「うれしいお言葉ですが、私、その…」
「それでしたら、私がお願いしたいですわ、伯爵」
ブリジットが我先に、と名乗りを上げ、伯爵は少し面食らった顔をした。
「そ、そうか。それなら行こうか、ブリジット君」
伯爵とブリジットが席を立ってから、私はようやく深呼吸できた。こんなことではいけないのに、なぜ怖気づいてしまうのか。
「アン、大丈夫?顔色が悪いわ」
「ええ。心配してくれてありがとう」
ミッシェルはティーカップを置き、私に話しかけた。
「アン、部屋に戻ったらちゃんと鍵をかけるのよ」
「もちろんそのつもりだけど、どうして?」
ミッシェルはしばらく考え込み、それからまたティーカップで紅茶を口にしてから話した。
「鍵をかけないと、あなたのままでいられないと思うのよ」
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