第5話 『神隠し』その4


 『ノート』の冒頭ページには、あの不可思議なお経のようなセリフが、ずらっと、書き込まれていた。


 さらに、こう記されていた。


 『とくに旋律のような抑揚はなく、際立ったリズムもなく、先導者がいるということもなく、何となく皆が合わせてしまっている感じなり。だから、日によって多少音の高さにバラつきがあるが、おおむね、Fの音あたりで唱えられる。』


 つぎの、ページからは日記風に、月日と、その参加人数、確認できた参加者の名前が、日ごとに書き込まれていた。


 『これは、すごいですね。』


 『はい。意味があるかどうかは、よく判りません。そもそも秘密ではないのかもしれないから。あの図書館は、半分はガラス張りみたいな物だし。』


 『まあ、そうだよな。でも、ぼくたちには知らされていないからなあ。』


 『まあ、確かにね。』


 具李子さんの兄が行方不明になった日の2日前までの、詳細な記録があった。


 しばらく空きのページがあって、途中から別の項目になった。


 『儀式の方法』


 『へえ。すごいなあ。』


 『兄は、なんというか、記録魔みたいなとこがありました。やや、まとまりはないけれど。』


 『これ、つまり、あらかじめ待機していて、最初から最後まで観察していたんだな。どうやって? どこから?』


 『たぶん、学校のとなりの、公園から。そっちからは、丸見えだし。わりに高性能の双眼鏡を持っていたし、集音器も持っていました。』


 『立派なスパイだね。』


 『まあね。』


 具李子さんは、やや、うつむき加減に答えたのである。


 そこで、後ろから、ふいに声がかかったので、ぼくたちは大いに慌てたのだ。


 『あなたたち、恋人たちかな?』



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