朱い雨の降る時間5

「二階には四つの部屋があって、厨房にはシェフロボが三体、メイドさんが一体。廊下には料理を運んでいた執事さんが二体。浴室とトイレがある部屋には誰も居なかったし、一つは扉が開かない部屋だったからさっきのパーティー会場を抜けばこの六体だけね」

厨房に集まった僕たちは、連れてきた二体の執事さんと元から居た四体を並べて考え込んでいた。

「あの、みなさん、私たちパーティーの準備が…」

「申し訳ないけど、こっちは命かかってるんで」

一真に睨まれ、メイドロボットは首を垂れる。

ああ、人狼が人間の剣幕にやられてる…。

「この六体は全員持ち物を調べたけど、拳銃を持っている人は居なかった。ロボットだからそもそも手に拳銃が埋め込まれているのかもしれないし、昼の間はどこかに隠しているのかもしれない」

「となると、これ以上は絞れないね。どうしよう…」

美里さんの言葉に、一真が「いや」と首を振る。

「まだ方法はあるよ」

ふーん、どうするのかねぇ。

少しだけ悩むと、一真は六体のロボットに向かって言った。

「君たち、顔は覚えたから準備に戻って良いよ」

「は、はぁ…」

「みんなはまずアトリエに行こう」

一真は手招きして、厨房を出ていこうとする。

こりゃあ、ロボットをもっと強気な性格にプログラムしてもらわないとダメだな。

頭の中で今回の反省点に追加しながら、みんなと一緒に廊下に出て、一階に下りていく。

「アトリエで何をするの?」

「アトリエでは別に何もしない。それよりも絵具が必要なんだ」

「絵具?」

「ああ、夜は人狼しか動かないことを利用して、罠を仕掛ける」

アトリエの前に着くと、一真は中に入り、まっ直ぐに棚へと向かう。

「ええっと、絵具はどこに…。ん?これ、ペンキか?」

下の方の棚から大きめの缶とハケを取り出し、首をかしげる。

「なんでアトリエに?」

「最近はペンキアートっていうのもあるのよ。それで使うんじゃないかな?」

「へー、だったらこっちの方が良いや。これ、一人一つずつ持ってって」

一真がペンキ缶とハケを僕たちに配る。

「これを部屋の入口の床に塗っておくんだ。パーティー会場でメイドさんに聞いたんだけど、人狼は夜になると必ず屋敷の部屋を回るらしい。だから、その時に人狼の靴の裏にペンキが付くようにする。一階の部屋には従業員は来ないみたいだから事前に塗っておいて、二階の部屋はみんなで分担して予告の鐘が鳴ってから床に塗る。時間が無かったら、床にぶちまけて良いから。鐘が鳴りだしたらロボットたちは動かなくなるが、その前に塗ってしまうと関係のない個体にもペンキが付いちゃうからフライングはしないように。次の夜が終わったら、すぐに誰かが踏んだ跡が無いか確認して、さっきの六体の靴の裏を調べる。まあ、足跡が残っていたら良いんだけど、十分間も歩き回ったら、途中で乾いちゃうかもしれないから裏を見た方が早いだろ」

…なるほど。

「二階の部屋は入れる部屋が三部屋。人数は足りるね」

「パーティー会場は奥と手前に出入口が二つあるから、そこは二人で分担する。これでちょうど四人だ」

「でも、厨房に隠れる場所は無いよ?」

「隣のパーティー会場に隠れれば良い。他の扉よりは時間がタイトかもしれないが、一分もあれば大丈夫だろう。ちなみに、浴室は浴槽に蓋が閉まってたから、その中に隠れる」

「そんな分かりやすい場所で見つからないかな?」

「今更だろ。それに、人狼は部屋の中をうろついていたが、どこかを念入りに探すということはしなかった。歩く速度が一定だったから。つまり、隠れていたらわざわざ見つけ出そうとはしない可能性が高い」

質問を続けた僕に、一真が「他に何かある?」と首をかしげる。

「ううん、無いよ。良いね、やってみよう!」

「美里さんと春香はどうです?」

「私も賛成。とりあえず、やってみましょう」

「私も、良いと思います」

「部屋の分担は、厨房がシュウ、パーティー会場で厨房に近い入口が俺、遠い方が春香、浴室が美里さん…、とかどうですか?何かある人?」

誰も手を挙げない。

「決まりですね。では、まず一階の部屋全てにペンキを仕掛けてしまいましょう。終わり次第、二階の自分の担当の部屋へ」

一真の言葉に全員が頷いた。

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