朱い雨の降る時間3
「あのっ、大変です!!」
僕は叫びながら転がり込むように部屋に入る。
そこには春香と少年、女性の姿が揃っていた。
「あの、僕…」
声を震わせながらも、深呼吸をして言葉を紡ぐ。
「さっきの、仕切ってくれていた男性が、その、人狼に殺されて…」
「ええっ!?」
女性は声を上げ、他の二人は息を呑む。
「実は僕たち、音楽室?のような場所にいて、そこでいきなり電気が消えて…。僕は夜になったんだと思って、ちょうど隠れようとしていた楽器ケースの中に急いで入ったんです。でもその直後、何かがが部屋に入ってきてあの人を…」
「そんな!鐘には気づかなかったの!?」
「鐘?そういえば、直前に鳴るって…。でも、僕は聞こえなかったです。逆に皆さんは、聞こえたんですか?」
三人がそれぞれに頷く。
「えー、何で…」
「とりあえず、その音楽室に連れて行ってよ。まだ男性、生きてるかもしれない」
「う、うん!」
少年に促されて、僕は三人を男性が殺された部屋に案内する。
しかし、そこにはもちろん男性の遺体は無い。
「あれ!?さっき、確かにここで…」
「やっぱり無事で、どこかに移動したとか?」
「だとしたら、すぐにさっきまで俺たちが居た部屋に来ると思いますけど。仲間が居るし、一番近い部屋ですから」
「それはそうね…」
少年の正論に、女性は考え込む。
うーん、これに関しては答えは出ないよなぁ。
みんなには他のことを考えてほしいし、何となく正解を言っておくか。
僕は少し間を開けた後、真剣な様子で口を開く。
「死んじゃったら、ゲームオーバーですよね。っていうことは、よくあるゲームみたいにゲームフィールドから外される…、なあんてことはないですよね!」
最後だけ笑い飛ばすように言った僕に、少年が刺すような視線を向ける。
うっ、ちょっと無理があったか…?
「…このゲームは気取った設定も多いし、無くもないかもな」
おおっ、物分かりが良いじゃん。
「それより、ここの部屋はこれから使わない方が良さそうだね」
「え、何で?」
「だってここは防音室だよ?予告の鐘の音は屋敷の外で鳴っているし、聞こえなくて当然だ」
そう言いながら、他の部屋よりも分厚くて重いドアを開ける少年に、内心ニヤッとする。
良いねぇ、大正解!
この子、落ち着きもあるし、ヒントとか出せば思い通りに動いてくれそうだな。
そうすれば、僕はあんまり目立たずにゲームの進行ができて有難いけど。
そんなことを考えているとは知らず、少年は僕たちに向かって手招きする。
「まだ次の夜は来ないと思うけど、念のためこの部屋から出ておこう。鐘の音が聞こえないのは危ない」
「そうだね」
四人で部屋を出て元の居間に戻ると、少年が不思議そうに尋ねてきた。
「そういえば、何で二人は一緒に居たの?全員が隠れられるために、別々の場所に行くって言ってたのはあの男性だろ」
「あの人は先に隠れる場所を見つけてたんだ。でも、僕はまだだったから手伝ってくれるって…」
「一分間の鐘の音の間に見つけておいた隠れ場所に行こうとしたけど、鐘が聞こえなかったせいで間に合わなかった、という訳か」
「そうだね」
「人狼の姿は見た?」
「僕は楽器ケースの中に居たから…」
「見えなかったんだな?何か聞こえたとかは?」
「銃声みたいなのが聞こえたよ」
「えっ、人狼って拳銃使うの?」
春香が驚いた声を出す。
「みたいだな」
「ええ…」
春香は今にも泣きだしそうな表情になる。
完全に怯えきっている春香に思わずフォローしようかと思った時、春香の隣に立っていた女性が彼女の肩をそっと抱いた。
「大丈夫よ。昼のうちは安全だし、その間に人狼を倒しちゃえば良いわ」
「そ、そうですね!」
春香は自分に言い聞かせるように何度も頷く。
「私、美里っていうの。あなたは?」
「私は春香といいます」
「二人は?」
美里さんが僕と少年の方に視線を向ける。
「僕はシュウっていいます」
「一真です」
「春香ちゃんとシュウくんに一真くん、よろしくね。殺されたかもしれない男性だけど、もし生きていたらきっとまた会えるから、その時にまた情報交換すれば良いわ。とりあえず、私たちで行動してみましょう」
大人が一人になってしまった責任感か、美里さんは少し無理をしているような笑顔を作る。
それに気づかないふりをして、僕は「そうですね」と頷いた。
「さっきの夜が終わってから、まだ五分しか経っていません。一階で行っていない部屋を覗いて、時間が余ったら少し二階とかも見てみます?まずは人狼候補のこの屋敷の人間に会わなくちゃ」
「二階?」
「廊下の端に階段がありました」
「二階なら、さっき俺は隠れてたよ」
しれっと言う一真に、僕は一瞬ヒヤッとする。
ま、まじ?
初めての夜はいつ来るか分からないし様子見になるだろうから、近場で隠れると読んでたんだけどな。
下手したら、キッチンから出てくるときに鉢合わせてたかもしれないじゃん。
そしたら、男性が殺された直後の芝居できないし…。
危なっ!
「とにかく、そうと決まったら早く行動しましょう。時間が勿体ないですし」
「賛成!」
動揺を悟られないよう、僕は少しだけ口角を上げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます