Too Sweet~(え、スティーブの処分ですか? 考慮だけします)
戦闘聖域を展開し、フランス迷宮周辺に住み着きつつある魔蟲の探索および殲滅作戦が、いよいよ幕を開けまして。
私が各隊員に付与しておいたマジック・アイからの情報を、ベースキャンプの戦闘聖域で受け取り、随時ターゲットを確認したのち、適切な指示を行っている真っ最中。
兎にも角にも、迷宮外に逃げている魔蟲の数が多すぎます。
よって、私もこれから行動を開始。
まずは一番近くてやばい奴の駆除を隊員の皆さんに指示を飛ばしましょう。
「こちらベースワン、護持2尉にダイレクト。方位2-5-5、距離12、大きな木の幹に擬態した魔蟲2。鷹尾2曹は幹の付け根を、護持2尉とは幹の上の魔蟲に警戒してください。続いてと栗花落3曹にダイレクト。方位3-3-4、距離25、地面に魔蟲3。鶴来3曹はバックアップを」
『了解』×4
この指示だけで、みなさんは一斉に行動を開始。
まずは護持2尉が両足に闘気を纏い、一気にジャンプ。
注意すべき幹の上の魔蟲めがけて間合いを詰めていくと、右手指先から補足糸のように伸ばした闘気で幹ごと魔蟲を切断しました。
――スパパパパァァァァァァァァン
「うん、一撃で……へ? 切断? それって闘気鋼糸ですよね? 闘気戦闘技術としては初歩ですけれど、あまりにも難易度が高くて初見殺しって言われている技ですよね?」
そんな高難易度の技を繰り出して、一撃で樹皮に擬態している魔蟲を切断って……。
そして護持2尉の真下では、幹の中に掬っている魔蟲に向かって、鷹尾2曹が体全体に闘気を宿し。
「破っ!!」
――ボムッ
幹に手を添えてから、そっと少しだけ空間を開くと、いきなり震脚からの浸透勁? え、なにそれ、私も使えないのですけれど?
そもそも、それも闘気戦闘技術ではかなり難易度高いのですよ、習志野の訓練時にはそんな技が使えるだなんてそぶりも見せていなかったではないですか!! 謀りましたか、私を騙していたのですか!!
「え……ええっと。まさかとは思いますけれど」
そっ、と鶴来3曹の映っているモニターを確認。
あ、よかった、栗花落3曹と一緒に、現場に向かっています。
そして栗花落3曹が20式5.56mm小銃を構えると、鶴来3曹が地面に手を当てて。
――キィィィィィン
地面に闘気を浸潤し、それを薄い膜のように広げています。
さらにそこに向かって、掌に蓄えた闘気を力いっぱい打ち付けて。
――パァァァァン
小気味よい金属音が響きます。
それに驚いた魔蟲が地面から飛び出しましたが、そこに向かって栗花落3曹が小銃をフルバースト。
それはもう、一匹当たり30発は叩き込んでいますよね……って、ちょっと待って、20式5.56mm小銃の総弾数は30発ですよ、しかも薬きょうが排出していないじゃないですか……って、えええええ!!
「うっそ。小銃の中で闘気弾を形成して射出しているの? え、え、そんな技術、私も知らないのですけれど」
私が師事したブレンダー流闘気術には、確かに浸透勁も闘気鋼糸もありましたよ、でも私は覚えていないのです。
正確には、私のは体内で魔力を闘気に変換するため、精密なコントロールはできないのです。
それをここまでまあ、ものの見事に闘気の達人のように……って、ちょっと待ってくださいねぇ。
私は、この闘気のコントロール術を知っています。
あとは確認するだけ。
「ベース・ワンより各員。随分と闘気制御が上手くなっていますけれど、いつ、スティーブに学びました?」
『こちら護持2尉。如月3曹が長期休暇を取っている最中だ。日米親善ヨコスカフレンドシップデーの準備のために、一か月以上前から来日していた勇者スティーブが、直々にレクチャーしてくれた』
『お陰様で、一人一つずつは闘気技術を身に着けることが出来た』
『これなら如月3曹を驚かせますよって、笑っていたと具申します』
『問題はさ、体内保有魔力量なんですけれどねぇ……』
あ、あの勇者ぁぁぁぁぁぁ。
私を驚かすためだけで、こんな高等技術をレクチャしてからにぃぃぃぃ。
いや、技術だけは初級から中級だから、別にいいのか……いや、良くない。
私を驚かすという一点で、こんなことをしていたとは。
「はぁ。では、各員・体内のチャクラに闘気を凝縮してください」
『お、ここでレクチャーか』
うん、マジック・アイで各員が闘気を練り始めたのが判ります。
では、次のステップ。
「そのままチャクラに集められている闘気を纏っている膜を一気に開放。同時に、体内の経絡全体から闘気を放出してください」
『了解』×4
そのまま言われるがままに、闘気を全周囲に開放。
もしもビジュアル・エフェクトが見えていたなら、きっと全員が様々な色の闘気に包まれ、そして放出していたことでしょう。
闘気の色は、人それぞれ。
生き方や血統、そして資質によって様々な色を持っています。
そして一点に集められた闘気が全開放出されるという事は、闘気や魔力を糧とする魔蟲がそれを見逃すはずがありません。
「アラーート! 各員対魔蟲戦闘を続行。森のあちこちに散乱していた魔蟲が、皆さんに向かって一斉に移動を開始しました!」
ええ、マジック・アイだけでなく私の魔力センサーでも、ひしひしと感じ採れています。
その魔蟲の数、ざっと120体。
まあ、大半は雑魚ですので、闘気を纏った平手でペシッて叩けば潰れますけれどね。
それが判っているから、厄介な奴ら相手にまずは戦闘して貰っていたのですから。
『嘘だろ!』
『待て待てぇぇぇぇ、シャレになっていないってば』
『こ、こんな数相手に、どうしろっていうのですか』
「大丈夫ですよ、両目に闘気を集めて。あとは見える範囲で強い奴から潰してください、まず負けることは無いと思いますので。私は残りの魔蟲が森の外に出ないようにしますので……」
そう告げてから、足元の地面に向かって魔石を一つ放り投げます。
これはナイジェリアで回収したダンジョンコアの欠片の残り。
そしてゆっくりと詠唱を開始します。
「七織の魔導師が誓願します。我が足元の魔石を媒体に、魔物を寄せ付けない安全地帯を作り給え……我はその代償に、魔力26500を献上します。プルシアンブルーの結界っっっっ」
――ヴン
一瞬で、迷宮付近を中心に安全地帯が形成されました。
これは冒険者たちが使う生活魔法を改良した、私のオリジナル魔術。
かつて、スマングルはこの魔術でナイジェリアの野生保護区を安全地帯で包もうとして失敗しました。
ですが、今回のは私のオリジナルです。
ええ、私の感知できる範囲での魔蟲は全て、この安全地帯の中に閉じ込めることに成功しました。
本当は、もう少し後で展開しようと考えていたのですが、森のなかに潜む魔蟲たちが、安全地帯の有効範囲内に飛び込んで来たので展開させていただきました。
さて、これで魔族も立ち入ることができない結界を構築できましたので、あとはゆっくりと魔蟲退治を決めましょうか。
ただ、近くの病院施設で治療を続けているヨハンナ、彼女のことが少しだけ心配なのですが。
うちからも護衛を二人付けていますので、大丈夫でしょう。
特に緊急連絡も届いていませんから。
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