Toxic(細工は流々、仕上げを御覧じろですね)

 フランス、コンピエーニュの森。


 そこに存在する迷宮から出現したと思われる魔蟲により伝播した伝染病。

 その対策と解決のために、私たち第1空挺団魔導編隊第一分隊(長いっ!!)は、フランスへとやってきました。

 そして魔術による防疫対策を行った後、先ずは原因究明のために、魔蟲の捕獲作戦を開始することになりましたが。


──フランス迷宮前

「うん、あまりにもお粗末で稚拙。これじゃあ、隙間から魔蟲に逃げてくださいっていっているようなものですよ」


 伝染病が発生してから、フランス政府は急遽、迷宮入り口に防疫用テントによる目張りを行った後、2重にバリケードを設置。さらには監視カメラなどを設置し、無許可で出入りするものが無いようにと警戒を強めています。

 ですが、この防疫用テント、確かに通常の伝染病などには有効かもしれませんが、魔蟲にの対しては決して有効ではありません。


「如月3曹、対策は可能か?」

「はい。いつも通り、迷宮入り口に結界を展開しておきます。これで魔族、魔獣、魔蟲といった『魔石、あるいは魔核をもつもの』の侵入は不可能になります。言い換えると、迷宮からはでてくることがなくなりますので、あとは外に伝播している病気の治療で任務はほぼ完了かと思いますが」


 迷宮入り口付近に設営された、魔導編隊仮設本部。

 その中で、私は有働3佐とジョセフ・ロビンソン監察官に進言しました。

 まあ、有働3佐はウンウンと頷いていますけれど、なぜかロビンソン監察官は渋い顔。


『その結界とやらは、人体に対しては悪い影響はないのだろうね?』

「ご安心ください。私の施す対魔獣結界の効果については、国際異邦人機関にも提出してあります。ほら、東京大空洞のときに張り巡らせたものと同等ですから、人体には全くといっていいほど影響はありません。逆に考えると、この結界を通れなかったものは魔族か魔獣です、その場で速攻処分してください」


 淡々と説明して、ようやくロビンソン監察官は納得してくれました。

 そして私は単身、迷宮入り口の防疫貿易テント前にゃってくると、そのまま結界を構築します。


「ふう……それじゃあいきますか。七織の魔導師が誓願します。我が手の前に六織の白雲を遣わせたまえ……我はその代償に、魔力100000を献上します。絶対障壁アブソリュート・バリアの展開っ」


──ヴン

 うん、魔力値10万の結界により、迷宮入り口を完全封鎖。

 これを楽々突破できるのは、体内保有魔力強度10万以上の存在だけです。

 私が知る限りでは、これを突破できるのは魔王アンドレスを始めとする三天王と、野生の古竜。それと神代の魔獣と……ああ、まだいましたね、悪魔。

 悪魔については、どうでもいいです。

 そもそも、この地球にはいたかもしれませんが、今は神域もしくは冥府でノンビリとしている……と思われますから。


「これで、内部から魔物の類が外に出てくることはありません。ちなみにですけれど、人間は普通に通り抜けることが出来ますので、もしも調査を再開するのでしたら、自己責任でお願いします」

『自己責任ねぇ。ちなみにだが、フランスからは日本政府に対して、伝染病の予防と治療手段についての協力を求めていたはずだが。治療については聖女ヨハンナが担当しているのは確認しているが、予防についての提案は、まだ何も受けていないのだが?』


 ロビンソン監察官が、真顔で問いかけてきました。

 はい、それについてもしっかりと指示を受けています。


「予防については、現状の地球のテクノロジーや魔導科学マギノロジーでは不可能かと」

『それは何故だね? 君たちは先日、この迷宮に赴くにあたって、伝染病を一切受け付けないマジックアイテムを作っていたではないか?』

「はい。ですが、わたししか作れませんよ? あと、他国に対しては、この魔導具を譲渡しないようにと釘を刺されています。ちなみに術式についてはお渡しできますが、それでよろしければ」

『それでかまわない』


 うん、そういうと思ったので、A4レポート用紙120枚の魔導術式をお渡しします。

 

──ドサッ

「これが魔導術式です。ちなみに日本語、フランス語に訳することができないので、オードリーウェスト大陸の公用語の一つ、ゼルス・ベンス語で記されていますので」

『……んんん、これをどうしろと?』

「ご自分たちで解析なさってください。ちなみにこれをフランス語に訳そうとしましたが、わたしには無理でしたので。ここの一文、『ヨレーイリッフ・ヘルス・オフマ・ニア』という植物の加護に関する記述が、そもそも地球に存在しない植生とその精霊にまつわる言葉であり、単語化できなかったのですよ」


 はい、私はかいつまんで、そして端的に説明していたのですが。

 ロビンソン監察官はどうしたものかと不安そうな顔をしています。

 そして有働3佐は、必死に顔がにやけるのに耐えているようです。

 あ、余談ですが、小笠原1尉は普通に解読出来ましたからね、流石は『一織の魔法訓練生』です。


『う、うむ、では、わがフランス軍のために、防疫用魔導具を製作して貰うというのは』

「別途、日本国政府と交渉してください。なお、その際は材料についてはフランス政府に提出してもらいます。純度6以上の魔石とミスリル板が必要なので」

『そ、そのようなものはない……』

「では、諦めて下さい……ああ、この迷宮の魔物を討伐しているはずですので、魔石は入手出来ているはすよね。ミスリル板については、多分ですが……ナイジェリアの自然迷宮では発掘しているそうですので、そちらと交渉をお願いします。私個人の在庫は、フランス政府に対して譲渡するつもりはありませんので」


 これは意地悪ではなく、正規ルートでの入手方法があるのでそちらから手に入れてくださいという事です。素材があり、先ほどの魔導術式を解析できれば、私がドッグタグに付与した防疫の護符程度は作れるはずですから。

 まあ、神の加護も必要ですけれど、それらについての注意事項もゼルス・ベンス語で書き記してあるので大丈夫かと。


「では、そろそろ作戦を開始する。古畑2尉と一ノ瀬2曹、大越3曹、花澤3曹は迷宮内調査班として入り口付近にて待機。護持ごのじ2尉は鷹尾2曹と鶴来3曹、栗花落3曹とともに、迷宮街に存在する魔蟲の討伐作戦を開始。backupは如月3曹の戦闘聖域サンクチュアリィにて行うため、その指示に従うよう、以上!!」


──ザッ

 なにかもの言いたげなロビンソン監察官を無視して、全員が有働3佐に対して敬礼。

 

「それじゃあ、いきますよぉ。七織の魔導師が誓願します。我が目の前に、手の前に七織の神殿を遣わせたまえ……我はその代償に、魔力50000を献上します。戦闘聖域サンクチュアリィ、展開っ」


──シュンッ

 一瞬で私の目の前に、大理石によって生み出されたコンソールが展開します。

 ご存じ、沖縄での3か国合同演習で本領を発揮した魔導戦闘システムです。

 そしてマジックアイを大量に発動して、この森全体の索敵を開始。


──ピキーンピキーン

「来た来た、来ましたよぉ。この大量の魔蟲の反応。討伐作戦体閣員にマジック・アイを装着しますので、あとは戦闘聖域から発せられる自動音声に従って、ターゲットの補足&デストロイをお願いします。私は魔蟲以外の反応を確認次第、そいつの討伐に向かいますので」


 さあ、余剰魔力25000も支払って、拡張機能も発動した戦闘聖域です。

 魔導編隊の皆さんは闘気の扱いに長けているので、あとは任せて大丈夫でしょう。 

 私は、今回の事件の黒幕探しでも、開始することにしましょうかぁ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る