I Don't Wanna Wait(敗北を知りたい……いえ、知らされた相手が黒幕ですか)
コンピエーニュの森で行われている【魔蟲討伐任務】開始から一週間。
すでに私が施した結界内に逃げていた魔蟲については全て殲滅完了です。
この一週間、私が行った事と言えば
ええ、私自ら出張っていくようなとんでもない巨大魔蟲なんて発生していませんでしたよ、迷宮外では。
先日の夕方、最後の確認作業も無事に完了したので、魔蟲討伐任務については無事任務完了なのですが、本日はフランス陸軍のお偉いさん達による視察が行われるとかで。
急遽、私たちは迷宮前に集合する事になりました。
「……有働3佐、視察といっても、このコンピエーニュの森の中だけですよね?」
「私はそう報告を受けているが、迷宮への突入した場合は、何か問題があるのか?」
「はい。ちょっと……いえ、かーなーりやばい案件が成長しています」
私は閉じている片目で、迷宮内部の偵察を行っている真っ最中。
並列思考でウィザード・アイを発動して操作し、結界によって封鎖されている迷宮内部へと飛ばしているのですが。
それはもう、見るも無残な状態です。
腐葉土の上に置いてあった大きな岩をよけた時、その下に有象無象の虫たちの姿を想像してください。そんな感じで、天井から壁からびっしりと魔蟲がへばりついているのですよ。
そのまま迷宮内部を確認していると、フランス陸軍の軍用車両がベースキャンプに到着。
そこから出てきたのは、F2ジャケットと呼ばれている迷彩ジャケットを身に着けた士官と、彼に追従するようにフランス軍の兵士達。
そのまま整列している私達の前にやってくると、開口一番。
『フランス陸軍のオスカー・シルヴァン・ラメットです。此度の魔蟲討伐、ご苦労でした。この後は各地域の病院へと運ばれている兵士たちの治療、及び病院周辺地域の警備をよろしくお願いします。迷宮調査については、こちらで引き受けることとなりますので』
「了解です、なお、迷宮調査については、こちらの如月3曹より意見具申がありますので」
敬礼しつつ、有働3佐がそう告げます。
すると、オスカー大佐は私の方をちらっとみて、話をするようにと促しましたので。
「迷宮第一層にて、小規模のスタンビートが発生する予兆があります。現時点で迷宮第一層入り口周辺の壁や床、天井には中型魔蟲がびっしりと張り付き、結界が消滅するのを今か今かと待っています」
『その対処は、実弾で可能であると聞いているが』
「はい、問題はありません。ですが、これまでの小型魔蟲と異なり、体内に魔石が発生している可能性も否定できません。また、そのような場合は、フランス軍で対処不可能な魔蟲が迷宮より一斉に飛び出し、この付近は人が住めない地形へと変貌する可能性もあると……」
そこまで説明したとき。
迷宮一層奥に広がる大空洞で、人の姿を確認。
オールドクラシック風の椅子に座り、脚を組んだ姿でこちらを見てニヤニヤと笑っている女性。
ええ、私はこの魔族を知っています。
かつて異世界で、私たちが唯一敗北した相手。
私やヨハンナにとっては、大魔王アンドレスよりもたちが悪く、相性最悪な敵。
そいつが、私の放ったウィザード・アイに向かって手を振っているじゃありませんか。
「訂正します。今すぐに、フランス政府はこの迷宮を放棄、私たち異邦人に迷宮破壊を行うように申請した方が良いと進言します」
突然の方針変更に、オスカー大佐や他の兵士だけでなく、有働3佐たちも驚いた顔で私に視線を送ってきます。
『それは、どういうことかね?』
「はい。この迷宮第一層に、魔族がいます。この迷宮を作り出している存在であり。すべての人類の敵……魔族の名前は『夜魔キスリーラ』。私達勇者が敗北した相手です。ということで、これ以上の迷宮の調査はお勧めしません、もしも討伐望むのでしたら、国際異邦人機関を通じて各国の異邦人へ連絡をお願いします」
そう告げて、私は一歩下がります。
ええ、出来る事なら、私は急いでフランスから日本へ帰りたいです。
キスリーラの能力は、すべての男性を隷属し、意のままに操ること。
そして、星をめぐるマナラインに干渉し、自在に迷宮を構築すること。
地球規模のマナラインでさえ、このフランス迷宮のようなものを簡単に作り出すことができるのですから、その実力は理解できることでしょう。
ですが、オスカー大佐は私の方を見てウンウンと頷いています。
『如月3曹の意見は大変参考になった。今後の迷宮攻略のヒントとして受け取っておこう』
「了解です」
『それでは、これで日本国陸上自衛隊の、コンピエーニュ付近での活動を終了する。引き続き医療機関の警備および治療補助にあたるように』
これで、この場での話し合いは完了。
私たちはベースキャンプの撤収を行った後、コンピエーニュの森から少し離れたところにある『コンピエーニュ総合病院』へと移動。
近くにある空き地を駆りて再度ベースキャンプを設営します。
ちなみにこの病院にはヨハンナが詰めているので、こちらの状況も確認出来るので一石二鳥といったところでしょう。
〇 〇 〇 〇 〇
――コンピエーニュ総合病院・仮設ベースキャンプ
移動した翌日には、すべての作業は完了。
魔導編隊第一分隊は半数がベースキャンプ待機、残り半数は施設敷地内の偵察と防衛任務を仰せつかっています。
ちなみに私はヨハンナと合流、病院内部での待機任務兼・治療補佐という仕事が待っていましたけれど。
『はぁ、もう最悪。この伝染病の原因も、すべてわかったじゃないの』
「そうなのよ。すべてはあのキスリーヌが関与しているっていうことが分かっただけで、絶望しか見えてこないのよ。どうしよう?」
昨日の迷宮偵察で確認した夜魔キスリーヌの存在。
それをヨハンナにも説明したところ、今すぐにもここから逃げ出しそうな表情になっています。
『どうしようもなにも、あいつは魔法中和能力を持っているじゃない。私や弥生ちゃんが相手できないのよ、それにスティーブとスマングルだって、キスリーナの魅了で何度も窮地に陥っているし……どうしよう』
「ま、まあ、軍のお偉いさんに忠告はしておいたので、あとはフランス政府に任せるしかないじゃない。私としても、とっととこの地を諦めて逃げるしかないって思うわよ」
『それで、私たちを見逃してくれると思う?』
――ザワッ
そのヨハンナの言葉で、私たちは嫌な記憶を思い出しました。
キスリーナの種族は
私とヨハンナも幾度となく襲われ、なんど貞操の危機を迎えたことか。
ええ、守りましたよ、しっかりと守り通して見せましたよ。
唯一の対抗手段である『闘気』、それを使って逃げるのが精一杯でした。
私の闘気はご存じのように『魔力変換型』であり、純正闘気ではないのでキスリーナには殆ど効果はないのです。
それでも必死に逃げたというか、逃がしてくれたのは私たちを敵だと思っていないから。
「頼みの綱である闘気使いのスティーブと、精霊使いスマングルの出番よ」
『そうなるわよねぇ。それじゃあ、わたしから連絡しておくわね』
「私は今のうちに、キスリーナ対策の魔導具でも考えてみるね。これまで研究していた対魅了魔導具、なんとか完成させてみるよ」
『よろしくお願いね』
と、休憩時間にそんな話をしつつ、私とヨハンナは仕事に戻る。
私の鑑定魔法で症状を確認し、ヨハンナが治療。
彼女の鑑定魔法は『一般魔術』のため病気の強度計算は難易度が高く、適切な魔力量を算出できないけれど、私は『錬金術』による解析魔法を使用するので、本の些細なところまで見通すことができる。
これで治療が進めばいいのですけれど。
はぁ、キスリーナが相手かぁ。
フランス政府は、どうするんでしょうねぇ。
まさか魔族相手に交渉なんてしないでしょうね……。
そうなったら最悪だし、それよりも急いで全ての患者の治療を終えて、星のマナラインとレイラインを確認しないと。
そっちに割く魔力が膨大過ぎて、迂闊に使ったら一週間は再起不能になるからなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます