Came Here for Love feat. yayoi kisaragi(うん、想像するのはやめましょうね、怖いので)
フランスでダンジョンが出現して、間もなく一か月。
この間、各国は国連の国際異邦人機関を通じてフランス政府に対して共同調査を打診したものの、全て『フランス独自で調査を行います、現時点では他国との共同調査については考えていません』という返答しか貰うことが出来ず。
逆に各国の諜報機関がフランスに潜入し独自に情報収集を行っているらしく、どの国も現在のフランスの動向を必死に掴もうと暗躍している。
そんな中。。
フランス政府より、国連機関を通じて迷宮の初期調査が終了したことが告知された。
そしていよいよダンジョン踏破作戦が開始されたこと、大量の資源が回収されたことなど、それまで未知数であったダンジョンの情報が次々と公開されたのである。
中でも、魔物の甲殻および大量の魔石についてはどの国も垂涎の的であり、サンプルを求めて打診が後を絶たず。
だが、日本政府はこれらの情報については冷静な目で見ているだけであった。
その理由は簡単で、『迷宮調査委員会』からの報告により、自然発生したダンジョンの危険性についての報告書が国会に提出されたのである。
内部に存在する魔物、それらが反乱を起こした際の対処方法について、フランスの持つ軍事力では最悪の事態に対応することができないのではという危惧。
さらには先日、第1空挺団からの『
その結果として、日本はフランスに出現した自然発生型迷宮については静観という立場を取ることになったのである。
………
……
…
――日本・北部方面隊札幌駐屯地
いつものように空挺団員としての訓練の後、午後からは空挺団候補生たちを相手に格闘技の訓練を行っています。
ちなみに闘気教習ではなく、純粋な格闘技による訓練です。
ええ、フランス迷宮が発見される前から、習志野駐屯地の近藤陸将補からせっつかれていたのですよ、【格闘徽章】を取れって。
だから、この機会にしっかりと修得しましたよ。
方面集合訓練に参加し、修了試験もトップ3で卒業。
部隊格闘指導官としての資格を取りましたよ、えっへん。
これで私の所持している徽章は全部で5つ。
左胸の下から順に、航空徽章、レンジャー徽章、空挺徽章、体力徽章、格闘徽章の5つです。
なお、諸般の事情により、体力徽章だけは右胸です。
これだけついていると、一番上にくる体力徽章が襟に隠れてしまうんですよねぇ。
「はい、本日の訓練はここまでっ!!」
私の前に並んでいる隊員達に激を飛ばします。
「「ありがとうございました!!」」
挨拶ののち敬礼。
そして皆さん隊舎へと戻っていきます。
私もこれで今日の課業は終了なので、魔導編隊隊舎事務室へ戻り報告書を作成。
それを小笠原1尉に提出しなくてはなりません。
ちなみに他の部隊でも一日の訓練報告書を提出しているかというとそんなことは無く、ただ魔導師である私の訓練状態を知りたいということで義務付けられているだけです、解せませんよね。
ということで隊舎に戻って来たのですが、どうにも空気が重いようで……
「あの、小笠原1尉、何かあったのですか?」
「あら、ちょうどよかったわ。たった今、総監部から連絡が届いてね。本日の課業終了後、習志野駐屯地へ向かって欲しいって連絡が届いたところなのよ」
「はぁ、それは構いませんが。片道30分程度で飛んでいけますから……あの、フランスで何かありました?」
この雰囲気から察するに、国内の事件ではなく海外の事件で私の意見が欲しいというところでしょうね。
だって、国内の事件なら放送で呼び出されているはずですから。
外国の事件という事で、それほど緊急性がないと防衛省も判断したのでしょう。
「フランスのコンピエーニュ迷宮、そこを警備していたフランス陸軍が全滅したのよ」
「はぁ、それはまた……って、え? 全滅? ちょっと待ってください、それはつまり、迷宮から魔物が溢れたっていう事ですか!! まさかダンジョンスタンピードが発生したと?」
「それが、そういうことではないそうで。詳しい話は習志野で確認してください。ということで如月3曹、現時刻を持って習志野駐屯地へ向かうよう!!」
「拝命しました!」
ビシッと頭を下げて、そして退室。
それじゃあ、一っ飛びで習志野駐屯地へと向かいますか。
――習志野駐屯地
17時の課業終了後、私は魔法の箒で習志野駐屯地へ。
そして正門前に着地したのち、堂々と駐屯地内へと移動します。
緊急時以外は、駐屯地内への着地は認められていないため、正門前に一旦着地する必要があるのです。
あとは真っ直ぐに総監部へ向かい、そのまま近藤陸将補の元へと移動。
すでに私が正門前に着地した時点で報告は届いていたらしく、とにかくスムーズに近藤陸将補の元へとたどり着きました。
「如月弥生三等陸曹、到着しました」
「はい、ご苦労。話は聞いているかね?」
近藤陸将補は努めて冷静に、やや笑顔で話しかけてくれました。
「ある程度の……いえ、フランス迷宮を警備していた陸軍が壊滅したという報告は聞きましたが、詳細その他については伺っていません」
「まあ、一般的な、表面上の情報だけという事だな。では、詳しい説明を行うとしよう。まず、つい先日の事だが……」
それから近藤陸将補は、説明を交えつついくつかの写真を私に見せてくれました。
フランス陸軍第6機甲旅団、そこから派遣されて来た1個連隊の7割が負傷もしくは戦闘不能状態に陥ったそうで。
なお、迷宮から魔物が湧き出てきて襲撃を受けたという報告はなく、迷宮付近にて待機していた部隊から順に意識を失い、そのまま発熱、体表面に黒い斑点模様が浮かぶ上がる、肉体の部分石化、発情といった症状に襲われたそうです。
現在は、迷宮から離れた場所にある病院に、症状別に隔離されているという事なのですが、病についての原因は不明。よって治療方法もなく、現在は国際異邦人機関を通じて、聖女ヨハンナの出動要請がでているとのことです。
「……なるほど。つまり、私が先日報告した、魔蟲による空気感染症の症状がまとめて噴き出したという事ですか」
「その通りだ。最悪なのは、幾つもの症状が同時に現れたものが多いこと、発情した隊員達による姦淫報告もあるということだ。感染者から他者への感染については、如月3曹からの報告は届いていないが、そのあたりはどうなのだ?」
「大抵の症状は接触感染します。特に粘膜接触が顕著でして……あの、発情した隊員って、しっかりと隔離していますよね? ただ発情しているしているだけということで、軽んじて開放していたりはしませんよね? 最悪は院内感染によるパンデミックも発生しますが」
ええ、発情者以外は隔離してあればいいのですよ、まず体を自由に動かせるはずがないので。
問題は、発情した軍人が体力任せに院内の女性、看護師たちを襲った場合。
襲われた女性も発情するので、さらにトンデモもないことになってしまいます。
ええ、それはもう……サキュバスやインキュバスに魅入られた人たちのように。
そうなったらもう、最悪です。
あっちの世界ではほら、同性愛というのはそれほど普及していませんしサキュバスの能力による発情でも、同性を襲うようなことは無かったのですよ。
それが、フランスですか……。
よりにもよって、同性婚が認められている国で、発情とは……。
「そこで、フランス政府から七織の魔導師である如月3曹に、この事態を鎮静化すべく助力を求めたいという打診が、外務省を通じて届いたのだが」
「防衛省、それと総監部の指示に従います。まずは隔離された患者についてはヨハンナに一任して、私は迷宮を無力化します。それでよろしいのなら」
「いや、迷宮の無力化は必要ないらしい。この感染症対策、できるなら治療と予防法についての知識が必要だと」
「……フランス政府は、そうまでして迷宮という危険物を自由にしたいのですか」
「おそらくは……な。フランス元老院は迷宮の危険性を重視し、異邦人による鎮静化を求めているのだが」
つまり、下院である国民議会が納得していないと。
しかも、フランス議会においては、元老院よりも国民議会が立場が上。
そうなると、目に見える危険性が公にならない限りは、民衆も動くことは無いということですか。
「フランス大統領は、迷宮の鎮静化ではなく感染症の鎮圧を必要としたと。そのためにヨハンナと私に助力を求めたいという事ですか」
「その通りだ。いけるか?」
「命令であれば。ただ、この場合の私の立場は」
「いつもの通り。フランス政府が国際異邦人機関に救援要請。そこから日本の国連機関に連絡が届き、平和維持という目的で自衛隊員を派遣する」
うん、いつもの手順ですか。
それならまあ、特に問題はありませんけれど。
「魔導編隊として動くのであれば、分隊としての派遣を考えている。こののち総監部へ報告、可能な限り迅速かつ速やかにフランス派遣を行う。以上、追って連絡があるまで習志野駐屯地で通常任務に就くように」
「了解しました!!」
この報告より二日後。
いつものように有働3佐を隊長とした魔導編隊第一分隊は、聖女ヨハンナと共にフランスへと向かう事になりました。
はあ。
日本国内だったら、ここまで悪化する前に対策が練られたのですけれど。
どしてこう、諸外国は自国の利権や面子というものに拘るのでしょうかねぇ。
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