Sixth Mission~フランス迷宮は、蟲蟲大行進
Yesterday Once More(平穏な日々、ですねぇ)
イギリスでの激しい戦いが終わり、そして冬がやって来て。
今年は青森県・八甲田山で冬季演習が行われました。
極寒と吹雪の中での演習、それはとっても過酷なものです。
スキー履いての移動、ビバーク地点には硬く積もった雪を四角く削り出して陣地の構築、テントの中はストーブ一つだけ。
そしていつ来るか分からない襲撃に備えつつ、朝を迎える。
そして日が昇る前から移動開始、部隊長が地図と無線機を使用して目標地点を調べると、いよいよ攻撃開始……。うん、この訓練のときほど『
だって、この訓練時は『魔法使用の禁止』を仰せつかっています。
これだけでなく、幾つかの訓練時は私は魔法を使わないように指示されています。
それは、私が『第1空挺団』の団員であるため。
魔導編隊としての訓練時は魔法使用は無制限ですが、パラシュート降下などの基本訓練は、すべて魔法抜きでと近藤陸将補からの命令が届いていましたから。
おかげて、さらにフィジカルも強くなりましたよ。
魔法を使わなくても、たかが0度程度は気にしなくなっていますから。
「如月ぃぃぃぃ、荷物の組みなおし!! その重量バランスだと肩に負担が掛かるからな!!」
「はいっ!!」
訓練教官の激しい叱咤。
教官の中には『冬季遊撃レンジャー』の徽章持ちの方もいらっしゃるので、私に対しても厳しい視点で教えてくれます。まあ、私の場合、フィジカルモンスターではありますが、基本的な自衛隊の決まりごとや訓練教程などは一般隊員と同じ。
頭の回転が速い分、物覚えは良い方だと自認していますけれど、実践ともなりますとコツがいるものなどについてはまだまだ甘いのですよ。
「如月ぃぃぃぃぃぃ。そんな状況では、この後の日米合同訓練でどうする!! 第7師団との合流後の訓練についてこれるのかぁぁぁぁぁ」
「はいっ!!」
うんうん、他師団や日米合同訓練などでは、ライバル関係にある師団に負けてはいけない。
恥をかくことがないよう、ではなく、とにかく勝て、この一言なのです。
特に、年明けに北海道の北見で始まる日米共同訓練では、スキー競技会などもあるため、第1空挺団としても必死なのですよ。
だって、北海道出身の私でさえ、スキー徽章は持っていないのですから。
とまあ、そんな感じで冬季演習のスケジュールを淡々とこなした後は、いよいよ演習も終了。
いよいよ日米合同訓練がはじまります。
………
……
…
――北部方面隊・札幌駐屯地
「いゃあ……今年の日米合同訓練も凄かったですねぇ」
「また、他人事のように……」
はい、無事に日米合同訓練も終えて、北海道に春が来ました。
え、演習の内容ですか?
迫撃砲訓練とか、夜間雪中行軍、小銃小隊の攻撃前進、補給車両の襲撃訓練とかそういう話が聞きたいですか? そんなのは、自衛隊広報部で公開されている演習映像がありますので、そっちを参考にしていいかと思いますよ。
特に私の口から語ることもありませんし。
ええ、吹雪の中、戦闘糧食を温めずに食べたとか。
視界ゼロの中での仮設敵車両襲撃の際、足を滑らせて居場所がバレた隊員をかばって発見されたとか。
スキーを外しての片膝立ちの前進中に、クレーターのようなものに嵌って埋まってしまったとか。
おかげさまで、如月3曹は『魔法が使えないとただのフィジカルモンスター』だって公表したようなものでしたからね。
乙女に向かってフィジカルモンスターとはどういうことだ、って叫びたくなりましたけれど。
訓練終了式の時なんて、逆に感動して泣きそうになりしまたから。
来年はスキー徽章と射撃徽章を取って参加してあげますからね!!
「だって……こう、思い返すと私のドジとか、まあ、色々と見えてきましたから」
「まあ、如月3曹の場合は、知識と体力は1尉クラスに引けを取らないのに。どうしてここ一番でドジるのかって、総監部でも笑っていましたからね」
「その、ここ一番のドジが危険なのですけれど」
「でも、実践では如月3曹はミスらしいミスはしていない筈では? はい、これでチェックは完了です。明日からは、札幌ドームで行われる『魔導編隊適性試験』の会場で試験教官を担当してください」
「はっ!!! それでは明日より、現地にて活動を開始します」
はい、やってきました『魔導編隊適性試験』。
鳩時計型魔力測定器を用いての、いつもの試験です。
現在の魔力適性該当者は、私の上官である小笠原1尉のみ。
残念なことに、魔法適性を調べた結果、小笠原1尉の適性は『付与・強化』を得意とする『一般魔法』でした。
「よろしくお願いします……と、では如月3曹、ちょっと教えて欲しいことがあるのですけれど」
「はいはい、七職の魔導師としてご説明します」
そう告げてから、今度は小笠原1尉が魔導書を右手に生み出すと、ペラペラと開いていきます。
ちなみにですが、現在の小笠原1尉は『一般魔術の書』と契約したため、正式に『一織の魔法訓練生』となりました。
それはもう、防衛省もホクホク顔でしたよ。
これまではただひたすら、政府関係者が『国産魔法使いを育成しろ』って突いてきたのに、ここにきて『新たに一織の魔法訓練生が誕生しました』って公式に説明したのですから。
なお、この件は政府機関でも極秘情報使い。
私に師事して魔法使いが誕生した、なんてことが公開されると色々と面倒ごとが増えますので。
そして防衛省は『しっかりと適性があるのなら、魔法使いになれる可能性があることは証明しました』という建前で、全国で定期的に『魔力測定』を始めたのですから。
今や、柱時計型測定器は私だけでなく小笠原1尉も使えるようになったので、シフトを組んで全国を行脚できるようになりました、めでたしめでたしです。
なお、魔導編隊隊舎事務室での魔法訓練教育については、他の事務員たちも興味津々で見ています。
いつか、自分たちも魔法使いになれる……それを夢見て。
〇 〇 〇 〇 〇
――習志野駐屯地・第1空挺団
本日は、第1空挺団にて基礎訓練および鉄塔からの降下訓練です。
ええ、これも緊急時以外は魔法使用禁止訓練ですので、己の肉体だけで勝負です。
しかも、今回は空挺候補生たちの訓練も兼ねているので、いつもよりも緊張感が漂っています。
それに、異邦人対策委員会の視察も兼ねているので、気合も入るってものですよ。
ええ、私からの評価値マイナス1点ですけれど。
とにかく、午前、午後といつも通りの訓練を開始。
努めて何もミスがない、そんな訓練を行いました。
そして訓練終了後に、私は会議室に移動。
そこで異邦人対策委員会からの質疑応答が行われます。
「単刀直入に聞きます。国産魔導師を今以上に増やせませんか?」
「今の質問については、不可能と答えます。魔導師は七織の魔導師、すなわち私の身です。現在育成中なのは一織の魔法訓練生ひとりです、これ以上は適性者がいないため不可能です」
淡々と説明すると、目の前に座っている委員会の面々が苛立っているのが良く分かります。
ただ、どうして苛立っているのかは知りませんけれど。
「もう少し、適性値の上限を下げるとかできないのかね?」
「無理ですね。魔力適性値1.0、これが最低条件です。これが満たされないと、魔導書との契約が行われません。そして、魔法言語を理解することができないのです」
「その魔法言語だが、日本語に訳すことはできないのか?」
はい、その質問が来るのも理解していましたよ。
以前、国際異邦人機関の沢渡さんからも同じような質問があったので、小笠原1尉とともに、書き出したのですよ。魔法言語一覧の中の、基礎小節1と2を。
その数、400字詰め作文用紙で、ざっと320枚。
出版社によっては、これでラノベが一冊できるレベルです。
それを目の前に積んで、説明を始めます。
「こちらは、魔法文字の中でも最低限の基礎部分、そのうちの基礎小節を二つ日本語に翻訳しました。これを理解できるかどうか、ですね。興味がありましたらどうぞ」
そう促したので、委員会の人数名が魔法文字の翻訳が記されている用紙を手にに取り、そして頭を捻ります。ええ、分かるはずがないのですよ、あの理論は。
「一つ聞きたい。ここの文字だが、『あれに名も万彼ネタ貴下タハシノインソミナチキイヤは素Cシンタあれ何』と書かれている一文が、どうして『我は請願する』になるのかね?」
「そういうものですから」
「それじゃあ分からんよ。理屈はあるのだろう?」
ほらきた。
理屈と言われても、それを説明できる筈がありませんよ。
「ては、一つ教えてください。ローマ字でNとIと書いたもの、NIは、どうして『に』と呼ぶのですか?」
「それが常識だからだが?」
「では、先ほどの文字配列も、そういう常識なのです。以上です」
そう私が告げた時。
「常識、ではないね。ローマ字は、そもそも外国人が日本語に付けたふり仮名から始まっている。ポルトガルの宣教師が、外国人に日本語を学ばせるために付けたふり仮名が起源であり、やがてキリスト教弾圧によりポルトガル式からオランダ式になった。そけを日本人が学び、今のローマ字へと変化したものだ。常識ではない、しっかりとした歴史背景に基づいている……ということですが」
それは、私から最も離れた場所にいる議員。
名札には『瀧山新次郎』と記されている彼は、私の質問にたいして「それが常識だ」と吐き捨てた議員説明しています。
「そ、そんなことは知っている。では、ここに記されているものは、魔法が使えれば瞬時に理解できるとでもいうのかね?」
「はい、こうなりますので」
作文用紙を回収し、それを一つにまとめた上に手を乗せます。
そして魔力を掌から放出し、書き記された文字を全て魔力文字として起動。
やがて作文用紙の上に文字が浮かびあがり集まり始めると、高速で回転して小さな黒い球に変化しました。
(魔導小節の連携圧縮、比率はレクト式25というところか)
ん?
誰か何か言いましたか?
うん、気のせいですよね。
一瞬ですけれど、うちの師匠のような魔導理論をブツブツいうような人がここにいるのかと思ってしまいましたから。
まさか地球人に、あの高難易度に魔導理論を理解できるひとがいるとも思いませんので。
そう思って周囲を見渡しますと、先ほどの瀧山議員が腕を組んでブツブツと話しています。
まさか、理解したのですか?
そう思って耳を傾けますと。
「……麻婆豆腐も良かったが、冷麺も捨てがたい……」
ん~。お昼に食べたものを思い出しているのでしたか。
紛らわしいので、勘弁してください。
「さて、話を戻します。これが、ここに記された圧縮魔法文字配列です。魔法使いは瞬時にこれを生み出し、理解します。ですが、そのためには最低でも魔力値1.0は必要です。足りない場合はこれを形成することも、これを取り込んで理解することもできません」
「それを、その難易度を下げるのが君の仕事ではないのか!!」
「まさかぁ。私の仕事は国防、そして緊急時災害対策とその対応です。魔法使い育成は、自衛隊の仕事ではありませんよ? それとも現行法を改定して、魔法使い育成機関を自衛隊に設立し、そこでこれを学ばせますか? 自衛隊式ですので、まずは魔力を高める訓練からはじめますよ?」
だって、自衛隊は体力が資本。
そのためには肉体の基礎訓練は当たり前ですから。
同じように魔法使いは魔力が基本。
そのために魔力の基礎訓練を行うことはやぶさかではありませんよ。
小笠原1尉には、私が指導していますから。
「そ、それだ、では自衛隊に入隊した者に魔法基礎訓練を行う、それでいいじゃないか」
「ですが、それも基礎が出来ていればの話です。自衛隊だって、入隊資格はあるじゃないですか。そういうことてす。これでよろしいですか?」
私は無茶なことは話していません。
適性があり、そして空挺レンジャーとして第1空挺団に入ることが出来れば、教えますよって何度も説明しているのですから。
そしてまだ何か言いたそうな議員のみなさんでしたが、ここで時間となりましたので質疑応答は終了です。
はぁ。
明日は国会での質疑応答ですか。
まったく、今更何が聞きたいというのでしょうか。
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