Innuendo(或いは閑話ともいう)
はぁ。
イギリスはエソックス州でのリビングデッド鎮圧から始まり、バッキンガム宮殿での要人警護も無事に完了。そして一夜明けて、本日は女王陛下との謁見です。
はい、私の本来の任務はこちらでして、晩餐会での警備から続く一連の任務ということだそうです。
ということで朝一で身支度を整えますと、有働3佐と共に一路、バッキンガム宮殿へ向かいました。
案内されるままに謁見室に向かい、横一列に並んで女王陛下がやってくるのをじっと待ちます。
ええ、この時のために、マナーについては一通り学んできましたよ。そもそもですが、私には異世界で身に着けた社交術があります。
他国の国王や貴族との謁見なんて、もう100回以上も繰り返してきましたよ。
国によってはマナーも違い、その都度新しい所作を頭と体に叩き込んできましたから。
――ガチャッ
そして扉が開き、シャーリィ・エリザベス3世がやってきました。
さあ、ここからが見せ場です。
決して相手に不快な思いをさせないように、しっかりと足を引いてカーテシーで挨拶。
手ぶらでなんて来ません、すでにギフトは預けてあります。
そしてこちらからは口を開かない、女王陛下の問いかけに対して答えを返す。
ええ、しっかりと頭の中に焼き付けてありますから。
そして一通りの儀礼的挨拶を終えると、女王陛下がにっこりとほほ笑んで一言。
『……それじゃあ、ティールームに向かいましょう。立ち話ではなんですので。今日は、レディ・キサラギに色々とお伺いしたいことがありますからね』
「はい。私がお答えできる範囲でしたら」
『ふふふ。そう固くならなくて結構ですよ。では参りましょうか』
そのまま女王陛下に付き従うように、ティールームへ向かいます。
そこで私は、様々な質問をされました。
私が異世界に行くことになったきっかけ
魔術について、誰でも学ぶことができるのか?
私の異世界での冒険譚
などなど。
ちなみに私の魔術知識については、個人の能力であるために【国家の秘匿情報】ではありません。
自衛隊に所属した際、自衛官として得た情報などは全て秘匿する義務があるのですけれど、個人能力である魔術については、それを公にすることを規制できないそうで。
これについても、異邦人対策委員会は枷を付けるべく、『如月3曹の所有する魔術は国家財産であり、それを他国に伝えることは違法行為である』などといちゃもんを付けてきたことがありましたよ。
ちなみに議員の皆さんには高笑いされていましたが。
ということですので、私が女王陛下の問いかけに答えることについては、なんら問題はありません。
ただ、とんでもなく専門的な説明になるので、いままでは行っていなかっただけですから。
まあ、とりあえずは私の説明できる範囲で、簡単な部分はお話ししました。
その場にいらっしゃった方々には
そして、ようやく話が終わりそうになった時。
『一つ、教えて欲しいことがあるの……いいかしら?』
それまでの楽しそうな口調ではなくも、真剣な表情で女王陛下が私に問いかけてきます。
ですから私も静かに、女王陛下の眼を見て頷きました。
『アヴァロンは、実在するのかしら?』
その質問の意図は私にはわかりません。
ただ、好奇心で問いかけたとは思えないように感じます。
「失礼ながら。この場での魔導具の使用を許可していただけますか?」
ええ、私単体での魔術では、今の質問の答えを導き出すことはできません。
だから、トラペスティの耳飾りと、真偽の片眼鏡を使う必要があると判断しました。
『ええ、構いませんよ』
「では、失礼します」
静かに告げてから、アイテムボックスの中に納めてある二つの魔導具を換装します。
そして体内魔力を活性化させるために。髪を解きリミッターを解除。
私の魔力に反応して魔導髪がふわりと舞い上がりますが、目の前の女王陛下は真剣ななまなざしでこちらをじっと見ています。
「トラペスティの耳飾りに、七織の魔導師が誓願します。我が眼の『真偽の片眼鏡』に、神威感覚を授けたまえ……我はその代償に、魔力180000を献上します」
――キィィィン
トラペスティの耳飾りが虹色に輝き、そして片眼鏡が共鳴します。
そしてその瞬間、私の眼に、小さな島が浮かびあがりました。
大きな湖の真ん中に浮かぶ、小さな島。
そこでこちらをじっと見つめている、8名の妖精たち。
ええ、そこが『アヴァロン』であり、彼女たちは島の守護者であり監視者であるということも、瞬時に理解できました。
アヴァロンは、実在します。
それも、このイギリスの地に、いまもなお。
選ばれしもののみが乗ることが許された船、それでなくてはいけない『精神世界の神なる島』、それがアヴァロンなのでしょう。
「女王陛下にお伝えします……アヴァロンは、いまもなおこの地に存在します。そうですね、そこが選ばれたものでなくては向かう事が許されない地であるということは、女王陛下もご存じかとおもいます」
淡々と告げてから、私はゆっくりと息を吐いて、もう一言だけ伝えます。
それが、彼女の望んでいることでしょうから。
「そして、島では今もなお、その地を管理するものが存在します……ですから、ご安心ください。このイギリスの地は、彼女たちによってずっと見守られていますので」
ええ。
私も思い出しました。
この地に古くから伝えられている、古い伝説。
その中に記されている、アヴァロンを守護する9名の妖精たち。
先ほど見えた島には、8人しか妖精は存在しなかった、でもそれは当然。
だって、彼女たちを統べる妖精モルガン・ル・フェは、女王陛下の傍らで、静かに頭を下げていたのですから。
『そうですか……ありがとうございます』
「この国は妖精たちによって守護されています。ですが……間違ったことが許されているならば、守護妖精はいずれ、アヴァロンへと戻ってしまうでしょう……ですよね」
最後の部分は小さく、そして目の前の妖精モルガンに問いかけています。
すると彼女も、私をじっとみてから、静かに頷いていました。
………
……
…
――北海道・北部方面隊第1空挺団隊舎事務室
「……と、これで報告書は完成です」
女王陛下との謁見を終えてから。
私たちは翌日、日本へと帰還しました。
そして休む間もなく報告書を作製し、統合幕僚長へと提出しなくてはなりません。
ちなみに作戦指揮を行っていた有働3佐からは、エソックス州でのリビングデット制圧についての報告は提出されるそうで、私は晩餐会ての護衛任務および女王陛下との謁見の報告を行います。
「では、それを畠山陸将の元に提出。そこで再度、報告をお願いします」
「畏まりました!」
小笠原1尉に報告したりのち、私は総監部で畠山陸将との面会を申請。
そしてそのまま部屋に入り報告を行った後……。
「うむ、ご苦労であった。では、明日からも頑張ってくれたまえ……ということで」
ということで?
あ、いやな予感がします。
「如月3等陸曹、此度の英国での活動功績において、四級賞詞を与える!!」
「はっ!!」
久しぶりの賞詞です。
これでまた、防衛記念章が一つ増えました。
というか、四級賞詞は二度目なので、桜のマークが一つ追加されるのですよね。
同じ防衛記念章を貰うと、桜花のマークが一つずつ増えるのですよ。最初は銀色で、三つ目の防衛省で金桜花一つに変わります。四つ目は銀桜花二つ、そして五つ目以降は金桜花二つになるのです。
あと、四級賞詞は5千円もらえます。
これで私が保有している防衛記念章の【第44号(国際貢献)】と【第8号(第4級賞詞受賞者、災害派遣)】に、銀の桜花が追加されました。
トータルでは【第4号(第3級賞詞受賞者、災害派遣)】も一つあるので、これで防衛記念章は3っつ目。そのうち二つに、銀桜花が追加されたのです。
ちなみに私が任務でナイジェリアやイギリスに向かったのは『国際貢献(PKO・国緊隊・能力構築支援)』という扱いなので第44号防衛徽章がもらえるそうです。
ほかの任務遂行者はすでに習志野で授与しているそうで、私だけではないのでほっとしています。
「ということで……4級賞詞二つに、三級賞詞一つか。どうする?」
「はい、質問の意図が判りません」
なんとな~く理解していますが、はっきりと言って欲しいのです。
いや、はっきりと言わないという事は、私の立場と現状を鑑みての事なのでしょう。
「昇任する気はあるかね? いや、普通なら昇任を断る者はいないのだが」
「はい、このままでお願いします。畠山陸将がおっしゃっているのは、部隊枠昇任のことですね?」
「そういうことだ。如月3曹の場合、海外県任務での実績よりも、むしろ『闘気修練』による評価のほうが大きいからな。業務改善についての貢献度を則っての昇任というのは、別に問題ないと思うが」
それを言われると、返す言葉もありませんが。
そもそも、昇任すると義務が大きくなってしまい、まともに自由時間が作れなくなることもあります。そうなると、自由に空を飛ぶというのも難しくなってしまいますよ。
「はい、昇任は保留でお願いします」
「はぁ……わかった。そもそも、3曹から2曹へ普通に昇任する場合は、最低でも5年は必要だからな。では、今年度の如月3曹の昇任は見送りということでいいな」
「はい!!」
よし、これでまた一年は3曹のままです。
どうせ同期の隊員が昇任したら、ある程度の年月で自動的に昇任しますからね。
これでようやく、のんびりとした生活に戻れますよ。
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