Man In the Mirror(まったく、これだから基地外は……)

 バッキンガム宮殿外。


 巨大結界に包まれた宮殿の外、目の前にボウ・ルームが見えているところから、俺とヤンの立っている場所が庭園側出口に近い場所であることは把握。

 その綺麗に整備された芝生から、巨大なゴーレムが姿を現し、俺がヤンに向かって繰り出している攻撃を次々と止めている。

 まったく、この手の化け物相手なら、俺よりもスマングルの方が有効打を叩き込めるとおもうんだが。

 相手は基地外錬金術師のヤン、手加減なんて必要がない。

 それこそ即死系魔術を連射して、魂を根幹から消滅させたいレベルの魔族だからなぁ。


「はっはっはっ。流石の勇者スティーブでも、この私の最高傑作であるゴーレムに阻まれては形無しというところですか。もっと楽しませてくださいよ……今頃は、宮殿内部は阿鼻叫喚に包まれているでしょうからねぇ」

「内部……ねぇ。そこにヤヨイとヨハンナがいることを知っているんだろう?」

「ええ。ですから、そのためのこの結界ですよ。空帝ハニーの魔術については、全てリビングテイラーから聞き及んでいますからね」

「そのリビングテイラーだって、ヤヨイに殺されただろうが……」


 そう、俺はスマングルから聞いている。

 ナイジェリアの地下迷宮で、ヤヨイとリビングテイラーが死闘を繰り返し、そして彼女に倒されたといううことを。

 それなのに、聞き及んでいる……だと?


「フッ……魔族の魂を破壊するためには、体内に保有する魔人核を破壊しなくてはならない。そして、空帝ハニーの必殺の一撃、確殺の刃シュアーキリングは、切断した対象を肉体・精神ともに分解する……ええ。確かに、【魔人核】が一つだけだったら、死んでいたでしょうねぇ」


 なん……だと?


「ククッ……クックッ」……アーーーッハッハッハッハッハッ。リビングテイラーから聞きましたよ、下半身が転移している最中に、上半身に向かって―必殺の一撃を叩き込んだと。ええ、その直前にリビングテイラーは、魔人核を分割し意識を転移した下半身へ送り込んでいたそうです。つまり、上半身に残っていた魔神核は本物なれど、意識は転移していたのです……ええ。今はまだ肉体の再生中ですが、しっかりと意識は戻っていますよ……」

「……なるほどなぁ」


 ヤヨイはこのことに気が付いていないだろう。

 まあ、いずれ知ることにもなりそうだから、その前にこいつだけでも息の根を止めておくことにするか。


「それじゃあ、一つ聞かせて貰おうか。貴様は本体なのか?」

「ええ。この結界を構築するのに、保有魔力を半分に分割にした状態では不可能ですからね。それで、どうするのですか?」

「こうするさ!!」


――シャキィィィィィィィィィィィィィン

 アイテムボックスに収納してある【武器庫】から、一振りの聖剣を換装する。

 刀身に刻まれたフラー、その左側が炎のように燃え上がり、右半分が氷のように凍結している剣。あっちの世界の刀匠ディモス・トランザーが鍛えし聖剣・レップウ。それに闘気を走らせて聖剣を覚醒させる。

 その瞬間、刀身から冷気が噴き出し、ヤンに向かって一直線に飛んでいく!!


「その技は知っていますよ。ええ、ですから対処も可能です!」


 再びゴーレムがヤンの前に飛び出すと、両掌を前に突き出して構えた。

 その程度の護りで、この絶対零度ちょっと近い冷気を押さえることなど不可能だな。


「そんなゴーレムで止めれると思ったのか!」

「先ほど……話した筈ですよ。ええ、詰めが甘いですね」


――ニュルッ

 ゴーレムの掌、そこに無数の子供の顔が浮かびあがる。

 しかも、まるで生きているように、苦痛にゆがんだ顔をこちらに向けていた。

 それも、一人じゃない、5人、10人……どんどん子供の顔が増えていった。


『ウワァァァァァァァァァァァァァァァァァン』

『痛いよぉぉぉ、助けてよぉぉぉ』


 聞こえてくるのは悲鳴。

 俺の目は闘気によつてコートされている、幻影など一発で見抜くことができる……。

 だが、この目の前の子供たちは幻影ではない。

 当然、生きているとも思わないが……。


「くっ……戻れ冷気よっっ……この外道がぁ!!」

「ありがとうございます。危なく、勇者が聖剣で子供の魂を切り裂くという惨劇が起こるところでした。ええ、先ほども申しましたよね、より純粋な魂を集めたと、そしてその集大成であると」


 バッ、と両手を天に向けて広げるヤン。

 そしてゴーレムが俺に向かって全力で走ってくると、次々と拳を叩き込んでくる。

 ああ、この攻撃を武器で受け止めると、その場所に子供の顔が浮かびあがって潰れるんだろう? その程度の結果は想像ができるわ。

 まったく……。


「ヤン……貴様は、ろくな死に方はしないからな!!」

「はっはっはっ。例えば、どんな死に方をするというのですか? この絶対的有利である現状、この私はどのような手段で殺害されると」


――パスッ

 それは一瞬。

 勝ち誇り笑顔で叫んでいたヤン。

 その頭部の真横、ヤンが常時施していた対物理障壁に銃弾がめり込むと、一瞬でヤンの頭部を貫通した。


「まあ、お前の死因は狙撃による銃殺だな。俺がお前とずっと対峙しつつ、意識をこっちに向けていた理由が分かったか?」


 ああ。

 ヤンの姿を見た瞬間に、第一空挺団の隊員に指示を飛ばしておいたんだよ。

 あとは、彼らが配置について準備ができるまで、ただひたすらに俺がヤンに攻撃を繰り返し、意識をこっちに釘付けにするっということだったのでね。

 幸いなことにな、第一空挺団の闘気隊員は銃弾に闘気を纏わらせることができるっていうからさ。

 

「……おおっ……凄い、これが死ですか……あははぁぁぁぁぁ……」


 頭部を撃ち抜かれ、半分ほど吹っ飛んでいるのにも関わらず、ヤンはベラベラと話を続けている。

 もっとも、銃弾で頭を撃ち抜かれた瞬間に、ゴーレムが停止して崩れたのだから、お前が本物だっていうのは理解できたわ。


「しかし……どうして私の結界を撃ち抜けたのですか……たかが狙撃銃の弾丸程度では……」

「ああ、自衛隊の弾丸じゃ無理だろうから、俺が持っていた狙撃銃を貸しただけだ。.338ラプア・マグナム弾……象を一撃で殺せるライフル弾だ、錬金術師のバリア程度なら破壊するだろうさ」

「ははぁ……日本にはない、アメリカの装備……ですか……ああ……なるほどねぇ……」


 そう呟きつつ、ヤンの身体が散っていく。 

 散っていく?


「この糞っ垂れがぁ……貴様もニセモノかよ!!」

「頭は使うものですよ……ええ……この体もゴーレムですからね。魔術が浸透しやすいように調整した……生命体を使ったゴーレムへぶぉわあっ」


――グシュッ

 これ以上の減らず口は聞きたくはない。

 ヤンの頭部を踏み抜いて消滅させると、バッキンガム宮殿の方を向く。

 先ほどまで鳥かごのような結界に包まれていた宮殿だが、その鳥かごも徐々に消滅し始めていた。


「……ふぅ。今回の四天王は、本当に厄介だわ……どうする、ヤヨイ……」


 今頃、内部でも戦闘は続いているだろう。

 まあ、そっちはヤヨイとヨハンナに任せるさ。

 俺はとっととアメリカに帰還……って、おい、こっからどうやって帰ればいいんだ?

 ヤヨイ、早く終わらせて俺をアメリカに送ってくれ! 

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