Islands In the Stream(お前はパイにしてやるからな!!)
……厳しい戦いでした。
なにせ、相手は英国最強の一角、ブルーズ・アンド・ロイヤルズ連隊です。
その体内に寄生型魔導具が侵入し洗脳のような状態で戦わされていたのです。
あのタイプの魔導具によって寄生された場合の戦闘能力の上昇値は、およぞ三倍から五倍。
そのようなスーパーデリティッシユアイテム、可能ならば無傷で、寄生型魔導具を体外排出しろというミッションですよ。
そりゃあ、難易度が高くなっているに決まっているじゃないですか。
「ハアハアハアハア……有働3佐、まだ動けますか?」
「闘気循環による身体強化だったか、あれを駆使しているのだがもうこれ以上は無理だ。全身の筋肉が悲鳴を上げているぞ」
私の後ろ、壁にもたれかかるような感じで有働3佐が座り込んでいます。
ええ、生身の人間で、武器もなく、闘気循環による勁のみで四人も倒したのですから大したものです。
ちなみに有働3佐の倒した寄生型魔導具は、スターリングシルバー製のティーポットに閉じ込めてシーツでくるんであります。
「はい、それを乗り越えてください。恐らくですが、アメリカ海兵隊のだれよりも、有働3佐が闘気についてコントロールできているかと思います。では、私もそろそろこの戦いを終わらせてきますので」
配膳前の食事が乗せられているワゴン。
おそらくですが、次はこの料理が運ばれていたのでしょう。
食後のティーセット、その添え物として用意されたデザート。
その開いている皿とナイフを手に、私は再び連隊の中に走っていきます。
「残った連隊は五名ですか。私がセガールなら、この程度は瞬殺なのでしょうけれどねぇ」
残念ですが、私は単独で潜水艦を制圧したりすることなんてできませんよ、ええ。
『沈黙の……』というシリーズの映画は大好きでしたから見ていましたよ。
おかげであっちの世界での戦闘スタイルも、一時期はセガール流体術と銘打って派手にやらかしていましたから。
そのあとで、師匠に出会って魔導師覚醒したのですから、セガール流体術は一時期封印していましたけれどね。
「……でも、流石に身体能力では私の方が上ですけれど、このリーチの差というのはいかんともしがたいものですね」
「キヒャゲヒュァ……」
「はいはい、呼吸器が傷ついて声出ませんか。あなたの身体の場合、最初に気管に侵入されたみたいですね。そこから無理やり体内を食い破って胃の方に移ったというところでしょうか……」
口から血を噴き出し、ヒューヒューと呼吸が乱れています。
この状態では、急いで手当てしなくてはなりませんので、一撃で終わらせましょう。
「ということで、トリャッ!」
――ズボッ
右足に闘気を浸潤させてから、一撃で目の前の連隊兵のみぞおちに向かって足刀を叩き込みます。
この一撃で胃の内容物が全て逆流、ついでに寄生型魔導具も吐き出させましたのでこれでおしまい。
「よし、あと四人!! それよりもスティーブ、とっとと外の面倒な奴を終わらせてくださいよ。あなたの方が相性がいいのですから」
後半は愚痴です。
私が召喚したスティーブが、このバッキンガム宮殿で起こっている異変に気が付かない筈がありません。彼は、アメリカのヒーローになることが夢だったのですよ、ハリウッドでトップアクションスターを目指していたのですから。
………
……
…
バッキンガム宮殿が巨大な鳥かごのような結界に包まれてから。
俺は、まっすぐに宮殿に向かって走った。
「……あの結界は、勇者の加護を消失させるタイプか。ということは、この場に錬金術師ヤンがいるっていう事だよな」
状況を確認するためにスーパーダッシュ。
そのついでに、俺の目の前で仁王立ちしてククックックッと笑っているドワーフラビットめがけてサッカーック!! どこの世界に、体高60センチで白衣を着てマッドサイエンティスト笑いをしているドワーフラピッドがいる!!
――ギン
だが、俺の渾身の一撃は奴の目の前に展開されたバリアのような薄い膜で弾き飛ばされた。
「相変わらずの脳筋だね、スティーブくん」
「悪いが、俺はアクションスターなのでね。それよりも、随分と余裕のようだが?」
――ビシッ……バッギィィィィィィン
俺の言葉に眉根をひそめたドワーフラビット。
その瞬間、俺の渾身の一撃を受けたバリアは砕け散った。
「ば、馬鹿な。この俺の対物理バリアを蹴りだけで破壊するだと?」
「ああ、こう見えても凝縮した闘気が、常時体内を循環しているのでね。普段から全身に闘気を纏っているようなものなんだが、それを一転に集めた時のパワーは、たかが対物理バリア程度なら簡単に砕けるんだわ」
「クックックッ……恐るべし勇者スティーブというところでしたか」
うん、俺のことをよく知っているドワーフラピッドだな。
それにしてもこいつは一体何者なんだ?
あの宮殿を包んでいる結界なんて、魔王四天王クラスしか作り出すことができない筈だが……。
ああ、つまりそういうことか。
「俺たちに敗れて封印されていたはずなのに、まあ、随分と可愛らしく転生したものだな、ヤン」
「まあ、おかげさまで苦労しましたよ。元の力を取り戻すため、どれだけの【経験値】を集めたものか」
「また経験値の話かよ……」
この魔王四天王っていうのは、とにかく厄介。
俺たちの召喚された異世界には、【経験値】などという概念はない。
だが、この錬金術師は、人間やその他の生物が強くなる理論を研究し、そして一つの結論に達したらしい。
相手を殺害したとき、その対象の魂の原質は数値化され、倒したものの魂と同化する。
そのさい、一定量の魂の原質を吸収した魂は一段階・昇華する。
それに伴い、肉体能力・精神能力が早く的に向上する。
これが、ヤンの提唱した【魂経験値理論】。
悔しいことにこれの理論の一部は真実であり、実際に俺たちも敵対する魔族を倒した時に
だが、それが全てではなく、魂の昇華については様々な理由があるのだが、そこについては頑なに拒否。魔族は、敵を殺して強くなるという一点しか認めていなかった。
「ええ。おかげで、昔の力を取り戻せましたよ。ほら、貴方もご存じでは? アイルランドで噂されている『キラーラビット事件』というのを」
フッ、とモノクルを外して息を吹きかけ、それを磨き始めるヤン。
その大胆不敵な態度に騙されて、迂闊に攻撃しようものならカウンターが飛んでくるのは知っている。
「ああ。確か野生のドワーフラビットに襲われて25人の人間が殺された事件だったな。確か、今から半年ぐらい前のニュースを見ていたが、ある時を境にぱったりと止まったと聞いていたが」
「ええ。必要量の魂が集まりましたから。そして、新しい理論も一つ完成しましたので」
「新しい理論?」
嫌な予感がする。
まさかとは思うが。
「ええ。魂の原質は、より純粋な魂ほど経験値を集められるのです。それも無垢であればよい……苦労しましたよ、生まれたばかりの幼子たちを集めるのは」
――ドッゴォッ
ヤンの言葉の直後、俺は全身の闘気を右手に凝縮して、ヤンに向かって力いっぱい殴りつけた。
だが、その瞬間、奴の足元から巨大な手が生えてくると、それをいともたやすく受け止めていた。
「このゴーレムもその集大成です。使用されている魔石をこれを作るためにどれだけの母体を必要としたことでしょうねぇ」
「ぶっ飛ばす!」
ああ、やっぱりこいつは最高の基地外だ。
マッドサイエンティストなんていう優しいくくりじゃすまされない。
ここで、もう一度、息の根を止めて見せる。
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