Careless Whisper(リビングデッド……じゃないのですか?)

 現在、このバッキンガム宮殿は、魔族による【勇者加護減衰結界】に包まれています。

 これにより、女神より授かりし【勇者の加護】は封印され、私たちは生身の状態で戦うことを余儀なくされてしまったのです。

 

 ちなみに私の場合は【アイテムボックス】【魔導師適性】が失われてしまったため、あっちの世界で身に着けた【闘気による身体強化術】は使えるのですが、七織の魔導師として魔術を制御することができません。

 同じように、ヨハンナもアイテムボックスが使えないのですが、彼女のもつ【神聖魔術適性】については、この結界を生み出した錬金術師ヤンの持つ【錬金神ディアゴ】の加護をはるかにうわまっているため、阻害されることはありません。

 ただし効力は減衰しているので、恐らくは死者蘇生は使えないでしょう。


――ブゥゥゥゥゥゥゥゥン

 廊下に置かれていた、晩餐会会場へ運ばれる予定のティーポット。

 それを左右に持ち、闘気を浸潤させることで疑似的な魔導具を形成します。

 はたから見ると、スターリングシルバー製のティーポットをトンファーのように構えた自衛官という感じです、お笑い芸人か忘年会の一発芸に見えないこともありませんが。


「グシャゲシャァァァァァァァッ」

「はいっ、貴方が何語を叫んでいるのかわかりませんよっと!!」


――キンガキンキキキキンッ

 こちらに向かって走って来る、クラッシックスタイルの給仕二人に向かってティーポットで応戦。

 相手はナイフのような武器を所持……って、それは、ステーキナイフですね、必要に応じて給仕がサーバーとして使用するもの。


 その巧みなナイフ捌きをティーポットで受け流しつつ、相手の頭部に向かって右回し蹴りを叩き込みます。大抵はこれで意識を刈り取ることができるのですけれど、相手は床に倒れままゴキッゴキッと首を動かし、そしてユラアッと陽炎がたなびくように立ち上がってきます。


「……有働3佐に進言。こいつらはグリフォンハウスで制圧したリビングデッドではありません」

「どういうことだ?」


 私の後ろで、有働3佐も駆けつけてきた敵性存在相手に防戦中。

 さすがに英国のバッキンガム宮殿内部で殺しはご法度ですよ。

 それに、私たちは自衛隊、殺すのではなく制圧するのが信条ですから。


「少々待ってください。私の経験則ですが、ちょっと試してみます」


 そう告げてから、私は右手に魔力変換型闘気を集めます。

 そして立ち上がってこちらに向かってくる給仕の右ストレートを躱しつつ、その無防備な腹部に向かって、力いっぱい闘気を叩き込みます。


――コォォォォォン

 小気味いい、軽快な金属音のようなものが響き渡ります。

 それと同時に、給仕は腹部を押さえてうずくまると、口から金属製の小さな蛇のようなものを吐き出しました。


「やっぱり寄生型魔導具ですか。まあ、この短時間に、この宮殿に勤めている人たち全てを人造魔導師に作り替える事なんてできそうもありませんからね。ということで有働3佐、腹部に向かって闘気の勁砲を叩き込んでください。この魔導具は外部からの闘気や魔力に過剰に反応して、体外へと逃げようとしますから」

「了解だ」


 さて。

 私の足元で蠢いているこの魔導具は放置しておくと危険です。

 とりあえずは動きを止めて分解したいところですよ。

 といっても、アイテムボックスが使えない以上は、機能停止するのが関の山。


「魔力は使えるけれど、術式は組めない。組むと自動的に宙へ術式が発動して、私の魔術を阻害する……と、ほんっとうに、やっかいな結界ですよ」


 足に闘気を生成し、それで力いっぱい蛇型魔導具を踏みつけます。

 すると、私の闘気により魔導具の中にある魔石が砕けちり、起動停止状態になりました。

 あとは廊下まで運び込まれていたワゴンからクロスをひっぺがし、そこの上に魔導具を放り込む。

 あとで纏めて縛り上げて、アイテムボックスに回収することにしましょう。

 そして、私たちの騒動に気が付いたらしい招待客の皆さんついても、今は部屋から出ないようにとヨハンナが説明してくれているようです。

 

「それに、エリザベス女王もいらっしゃいますから、ここは好奇心に身を任せてここにやってくるような方はいないでしょう……と。有働3佐、ちょっと面倒くさい相手が走ってきます」

「やることは一緒だ、制圧する」

「了」


 さて。

 英国最強の一角と言われている、ブルーズ・アンド・ロイヤルズ連隊。

 その兵士たちが、駆けつけつつサーベルを引き焚いて襲い掛かってきます。

 普段は騎乗し宮殿敷地内を警備する騎兵連隊、その精鋭たちが、私たちに向かって牙をむきます。

 

「それじゃあ、陸上自衛隊のトップエリートである私たちと、英国最強の騎兵連隊、どちらが上か白黒つけましょうか!」

「如月3曹、すみやかに制圧するように、こんなところで力自慢している場合ではないだろうが!!」

「り、りょ!!」


 おおっと、有働3佐に怒られました。

 あぶないあぶない、ここは速やかに無力化することを考えましょうか。

 

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