CAN'T STOP THE FEELING!(おいおい、聞いていねーよ)
さて。
アメリカ海兵隊での訓練。
俺の最近の仕事は、サウスカロライナ州のパリスアイランドにやって来る海兵隊入隊希望者の訓練補佐。
ちなみにだが、俺の次のステップは海兵隊将校。
そのために必要な大学卒業資格を得るため、今しばらくは海兵隊に席を置いたまま、通信教育課程で大学を卒業しなくてはならない。
まったく、俳優志望だった俺が、どうして異世界に召喚されて勇者に祭り上げられた挙句、魔王を討伐して地球に帰還。
そのまま異邦人としてアメリカ海兵隊預かりの軍人になるなんて、どうかしていると俺は思っている。
実際、俺たち異邦人を主人公にして映画を作りたいっていう話も出ているらしい。
それが叶った暁には、俺が主人公に……って、そこは有名アクション俳優に頼み、俺たちはスタントマンとして参加することになるらしい。
やっばり、俳優への道は遠いよなぁ……。
「と思っていた矢先に、いきなりの
訓練教官室で事務仕事をしている俺の足元に、いきなり魔法陣が広がったんだけれど。
うん、これはヤヨイの発動した術式だな、パーティーメンバーを自分の元に呼び寄せる魔術。
これを使ったという事はヤヨイの身に何かあったか、もしくは彼女でも対処できない事案に巻き込まれたのか。
そして、魔法陣の発動に驚いてい上官や同僚たちが、俺の近くまで駆け寄って来た。
「ギャレット上級曹長、これは一体、何事だね?」
「国際異邦人機関所属の異邦人、ミヨイ・キサラギからの緊急コールですね。異邦人保護法およびアメリカ国防総省戦争法プログラムに基づき、ヤヨイ・キサラギの召喚術式を容認します」
これには、『異邦人同士の救援および支援ブログラム』が新たに組み込まれており、緊急時においてはそちらを優先『することができる』という。
アメリカ政府としても、他国の異邦人に助力することで、相互間の協力体制を維持したいということからこのプログラムは作られているらしい。
まあ、かなり忖度されているのは事実であり、俺が今おこなった宣誓についても、異邦人及び大統領以外は異議を唱える事はできない。
「了解だ。プログラムの発動を承認、96時間の支援活動を許可する」
「それでは、行ってきます!!」
上官であるハリー・カルデロン少尉に敬礼すると、俺は一瞬で―勇者装備に換装。
そのまま魔法陣の転送承認を行うと、一瞬でどこか異国の路地裏へと召喚された。
「さて、この溝臭い路地と目の前のワンコはなんだろうか?」
『スティーブ、状況を簡潔に説明します』
おっと、ヤヨイからの念話か。
直接出向いていないという事は、彼女は動けないという事でオーケーだな。
そして、この状況は理解きた。
上半身が人間で下半身が犬の化け物と日本の魔導編隊の連中が対峙している。
「ああ、わかった、このキマイラを捕獲すればいいんだな』
『相変わらず、いい判断です、ではお任せします……そうそう、多分ですが、近くで錬金術師ヤンが潜んでいるかと思われますので、そちらの対処もお願いします』
「はぁ……まあ、ヤヨイの探知魔法で引っかかっていないという事か……了解、勇者っぽく頑張ってみるわ」
さてと。
それじゃあ仕事をしますかね。
「日本の魔導編隊諸君に告げる。俺はスティーブ・ギャレット、ヤヨイと同じ異邦人で勇者だ……って、そこにいるのは佐竹1曹か、新宿大空洞以来だな……と」
――ガギィィィィィィン
一瞬、目の前の化け犬が飛んだかと思ったら、俺の頸動脈めがけてきっちりと前足の爪で攻撃を仕掛けてきたんだが。
「悪いな、勇者固有のスキルでさ、闘気による小型結界を構成して、自動防御できるんだわ」
そう、手のひらサイズの、闘気で形成された小さな楯。
『ゴルルルルル……』
「うん? キマイラ実験に使われた挙句、知性まで獣並みに下がったのかよ……と。佐竹1曹、近くに俺たちを監視している奴が複数存在する、おそらくは黒幕だと思われるから、そいつを見つけ出して拘束してくれるか」
「了解しました、4名はこの場で勇者のバックアップ、残りは怪我人の搬出と周辺の調査に回るように」
一瞬で俺の言葉を理解し、的確な指示を飛ばしている。
この路地裏から逃がすと結構厄介な敵だというのは理解できた。
「後ろの魔導編隊さん、こいつの爪はエナジードレイン、つまり生命力を吸収する効果を持っている。攻撃はするな、防御と通路の閉鎖に全力で当たってくれ」
「了!!」
「ということなんでね、とっとと終わらせて長閑なバカンスを楽しみたいので」
――シュンッ
手加減無用、左手の楯はバックラー型に縮小、右手の剣も銀のマチェットに持ち帰る。
こんな細い路地で長剣やラウンドシールドなんて取り扱えないんでね。
そのまま楯を前に突き出して、右手は下にだらりと下げる。
ゆっくりと全身に闘気を浸潤させたのち、犬の化け物に向かって
――ドンッ
その一瞬で、犬の化け物は高速跳躍を開始。
路地の壁を縦横無尽に蹴り飛ばして加速移動すると、俺の目でどうにか捉えられる速度で高速接近してくる。
ああ、しっかりと斜め後ろから首筋めがけての一撃を狙ってくるか。
フルアーマー状態だから、剥き出しになっている首より上しか狙ってこないよなぁ。
「そして、それも想定済み……っと」
――ズッバァァァァァァァァァァァァァァァッ
体を捻って、飛んでくる犬の化け物の右前脚目掛けてマチェットを叩き込む。
うん、肉球から前腕部肘までを真っ二つに引き裂いた。
「さてと。これで機動性は半減、体躯の関係上、バランスを大きく逸している。素直に掴まるか、それともここで死ぬか。逃げるっていう選択肢はないと思ってくれ」
俺がそう問いかけると、犬の化け物はその場に平伏する。
うん、知性は多少あるらしいこと、強者を見抜く目を持っていることはこれで伺えた。
「まあ、素直に平伏したのは褒めてやるが、それでも抵抗されると迷惑なので拘束させてもらうわ……
――ジャラララッ
俺の左手からと伸びる闘気の鎖。
これに絡められれたものは体内の運動神経が麻痺する。
ということで、これで任務は完了したということで。
「さて、捕獲はそっちのお仕事だから任せるよ……って、ちょい待て、錬金術師ヤンがいるって言っていたよな……」
これで終わりじゃない。
突然、膨大な魔力が発生したかと思ったら、どっかの建物を纏めて包み込んだわ。
その方角に向かって慌てて走っていったとき、俺はトンデモないものを目の当たりにしたる
「嘘だろ……」
バッキンガム宮殿全体が、鳥かごのような魔力の塊によって包みこまれていた。
そしてその正面に、白い魔導師装束を身に纏ったドワーフラビットが姿を現すと、クックックッと笑い始めていた。
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