Fifth Mission~要人警護と錬金術師 

Take A Bow(こう見えても貴族ですから)

 ひっじょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉに納得のいかない結末を迎えた、エセックス州のバイオテロ事件。

 

 イギリス政府からの公式発表は、正体不明のテロリストによる軍事拠点の制圧と、それを奪還するために日本の魔導編隊に出動要請をしたという事になっています。

 ええ、『イギリス軍が人造魔導師計画に手を染めた結果、制御できず暴走した軍人が徘徊し施設を占拠した』なんて言う不名誉な事実は一切公表されませんでしたよ。

 この件については私たち第一空挺団および魔導編隊にも緘口令が敷かれています。

 ということで、今回の国連平和維持軍としての派遣は完了し、すべての報告は近藤陸将補経由で日本政府に送られることでしょう。


 ええ、とにかく詳細については明かすことができない任務ですのでね。

 人為的に魔導師を作り出せる計画があるだなんて知られた日には、私とスマングルに色々と連絡が来るに決まっていますから。

 擬似魔導器官の素体となる魔石については、ナイジェリアの迷宮から採掘される魔晶石で代用可能ですし、そこに術式を刻み込むのは私の得意技ですからね。


 ということで、このやりきれない気持ちをぐっと抑えて、ドカーンと一発、イギリスへと向かう事になりました。めでたしめでたし……はぁ、不安です。


──マンダリン・オリエンタル・ハイドパーク・ロンドン

 そしてやって来たのはイギリスはロンドン。

 バッキンガム宮殿から近い五つ星ホテル、マンダリン・オリエンタル・ハイドパーク・ロンドンに到着です。

 私たちが来た時も、かなりの警備体制が敷かれていましたし、この晩餐会に出席するために多くの来賓がホテルを訪れているそうです。

 ええ、そんな偉い方々がいらっしゃる場所に、私のような庶民がいていいものかと。


「……あの、有働3佐、どう見ても私は場違いな気がしてきたのですが」

「そうかね? むしろ堂々としていて構わないとは思うが。ちなみに一つ質問だが、如月3曹は異世界アルムフレイアでは爵位を持っていてなかったのかね?」

「爵位……ですか?」


 うーん。

 まあ、色々とやらかした挙句、オードリーウェスト王国では伯爵位は授与していますが。

 領地ももたない法衣貴族でしたけれどね。

 だって、日本に帰ってくることが前提でしたから、土地の管理権限なんて貰うわけにはいかなかったのですよ。


「ああ、オードリーウェスト王国の伯爵位を授与しています。これが、その証明ですが」


 アイテムボックスから勲章を一つ取り出します。

 これは王国発行の貴族章であり、私のは『蔦とユリと竜』のデザインがあしらわれています。

 ちなみに素材は魔法金属アダマスティン製、その中心には7つの宝玉がちりばめられています。

 

「ほう。それじゃあ、それも胸に付けておくといい」

「え、いいのですか?」

「本来なら、問題ありと考えるところだが。異世界の貴族ということならば、それも大目に見られるだろうから。何も知らないマスコミは規律違反だなんだと揶揄すると思うが、そんなのは気にする必要はない、言いたい奴には言わせておけ」


 さすが、できる上官は違います。

 ちなみに私の服装は、陸上自衛隊・第二種礼装。

 ええ、普段来ている制服よりも良い服装ですよ。

 右胸にはしっかりと徽章と防衛記念章もついていますし、右肩には部隊章もついていますよ。

 さらに、右胸に伯爵位を示す勲章を付けろと、ええ、上官命令ですからつけますよ。


 そんなこんなで準備も万端。

 明日はいよいよ晩餐会、気合入れていくしかありませんね。


………

……


 そして翌日。

 各国政府の方々と一緒に昼食会に参加、そしていよいよ夕方の晩餐会に挑みます。

 私は招待客ではありますが主賓ではないため、有働3佐と共に会場入り。

 他の参加者の方々と、楽しい歓談に花を咲かせることにしました。

 なお、私と有働3佐の本来の業務は、招待客として外交を行う事ではありません。


──ザワザワッ

 会場内が少しざわつくと同時に、吹奏楽が優しい音色を奏でます。

 いよいよ英国女王・シャーリィ・エリザベス3世の入場が始まりました。

 そして各国の招待客が次々と入場、我が日本からも主賓である天皇陛下御夫妻方がご入場となりました。


「如月3曹、警戒」

「りょ」


 そして私の横に立つ有働3佐の指示が届きます。

 その指示と同時に、私は無詠唱で魔術の詠唱を開始。

 ええ、私の本来の仕事は、この晩餐会会場にて天皇陛下及びイギリス女王の警護です。

 先日の人造魔導師計画、その後始末がまだ終わっていません。

 可能性としては、このタイミングでの奇襲作戦が最も効率的です。

 会場周辺を警備している近衛兵および王室騎兵にも、リビングデッド事件についての報告は届いているはず。そのうえで、魔族が仕掛けて来る可能性は十分にあります。

 日本とイギリス、二つの国の象徴が同時に殺されるとなると、どの国も魔族に対して二つの感情を持つことになるでしょうから。


 徹底抗戦か、服従か。

 

 自分たちの実力を見せつけるように、そして無力な人間を嘲笑うように奇襲を掛ける、まさに奴らのやらかしそうなことです。


「(ふむふむ……敵性反応はいまのところなし、高濃度魔力反応もありませんか……)、ま・ぜろ」


 魔法による索敵反応なし。

 その略語が、ま・ぜろ。

 陸上自衛隊第一空挺団・魔導編隊で用いられる略語です。

 これ以外にも100近い略語がありまして、それらについてはまた時間のある時か非番の時にでも。


「了、継続」

「りょ」


 限りなく少ない言葉で、それでいて周囲に気付かれないように。

 有働3佐が念話を使えたなら、それで全てやりとりできるのですけれど。

 残念ですが、闘気適性保持者であるため、それは叶わぬ夢。

 そのまま暫くして、主賓の挨拶から、国家演奏などもありまして。

 無事に晩餐会は始まりました。


 なお、私が主賓というのも嘘ではありませんよ、明日、シャーリィ・エリザベス3世との謁見がありれますから。

 それが本命だそうですが、女王自ら、私とヨハンナと話がしたいそうで。

 どんな話を振られるのか、今から心臓が爆発しそうなほど緊張していますよ。


──ピッ

「あ~、ま・いち。2-2-5 125」

「了。オクレ」

「りょ」


 ほら。

 方位225度、距離1250メートルに魔力反応一つ。

 有働3佐の指示て、すぐに外で待機している魔導編隊の通信兵に念話を送ります。

 一方通行ですけれど、これですぐに動いてくれるはず。


「如月3曹、危険度は」

「……この強度は黄色ですね、闘気隊員で対処可能です」

「わかった……」


 ぼそっと呟く有働3佐にそう告げると、私は意識を半分だけ晩餐会に傾け、残り半分を周辺の索敵に切り替えます。うん、並列思考って本当に便利ですよね。

 さて、反応があったのは罠か? それともなにか別のものか。

 次の出方が楽しみですよ。

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