Don't Know Why(どうしてこうなったのですか?)
イギリス・エセックス州。
第16空中強襲旅団戦闘団の拠点である軍事施設で発生したリビングデッドによる基地制圧事件は、基地内の生存者の救出およびリビングデッド化した兵士の無力化・拘束により完了。
被害状況は、イギリス軍で死者16名、重軽傷者合わせて126名。
しかも、この基地に配属されていたゴーヴァン・ドローヴァ魔導少尉についても、依然として行方不明のままだそうです。
魔導編隊の被害は重軽症者8名のみと、私の左腕一本。
日本の被害は全て、私が保有していた魔法薬により完治しています。
ですが、それを見たイギリス軍から、魔法薬の提供を要請されていましたが。
有働3佐の判断で、それについては固辞し、持ち込んだ医薬品による治療行為のみとなりました。
ええ、諸外国での魔法薬を含む魔導具の使用許可については、担当部署の責任者の現場判断であることになっています。
ちなみにですが、日本国政府としては、諸外国での魔法行使についても制限を設けたり、使用禁止にしたいらしいのですけれど、魔術については『個人の能力であり、国家機密に抵触しない』という防衛省の公式見解があるため無理強いをすることはできないそうで。
それでも、海外活動に置いての魔法行使には『国際異邦人機関』に詳しい条項がありまして、つまりは色々と制限が課されていますので。
私が好き勝手に使うことはできないのですよ。
「さてと。七織の魔導師が誓願します。我が体に五織の超感覚を与えたまえ……我はその代償に、魔力12500を献上します……広範囲感知っ」
――ピッキィィィィィィン
以前、太平洋上で海魔捜索の際に使用した探査魔法を発動。
いつもなら平面で捉えるのですが、今回は敵性存在に敵魔法使いが存在しているという可能性も考慮して、地下と空中にも探知範囲を広げます。
そして探査対象は『魔法使い適性魔力』。
これにより、魔法使いはもちろん、リビングデッドのように体内に疑似魔導器官を有している存在も発見することが出来ますが。
「……んんん。やっぱり反応はなしですかぁ」
「どうした如月3曹、そんな難しい顔をして」
津田1佐が私の近くにやって来て、両手を広げて魔法を使っている私に問いかけてきました。
「はっ、魔法持続姿勢で失礼します。現在、魔法による広範囲探査を継続中、これにより一定値以上の魔力を知ることが出来ますが……現在は、この場に運び込まれたリビングデッド以外の反応はありません」
「了解、あまり無理をしないように。二人、如月3曹の護衛に付け、現在、魔法行使中だ」
「「了解しました!!」」
うん、流石は津田1佐、私のやっていることを理解してくれています。
そして大越3曹、貴方はさぼりに来たのですよね、絶対にそうですよね。
「さて、それじゃあ如月ちゃんの護衛を務めますか」
「大越3曹、ここは敵地であることも考慮しろ」
「はっ!!」
ああっ、一ノ瀬2曹が大越3曹を叱責している。
やはりこういう時は頼りになるのですよねぇ。
「それで、まだいそうなのか?」
「わかりません。出来るなら、基地施設内部に侵入して、地下設備などの細かいところまで確認したかったのですけれど。とにかく、何もないのがおかしいのですよ」
「何もないのがおかしい? どういうことだ?」
そのまま説明を続けます。
そもそも、あれだけのリビングデッドを一体どこから持ってきたのか。
基地施設内には許可を得て出入りしている民間人もいますし、そもそもこの規模の基地多ですからかなり大勢の軍人が施設に勤務しているのですよ。
そんな場所で、エリード軍人の監視の目をかいくぐって、いきなりリビングデッドによるバイオハザードなんて発生させることは不可能ですよ。
つまり、この基地施設のどこかでリビングデッドを製造している可能性があるということ。
それも考えて、感知対象を魔力に絞ったのですけれど、リビングデッドの体内に埋め込まれた疑似魔導器官の反応もなければ、それを埋め込むための魔導研究施設の反応も皆無。
ということは、別の場所で作られたリビングデッドが運び込まれた?
いやいや、この基地施設の隊員がリビングデッド化したということは、やはりこの基地内部に秘密があるに違いないのですよ。
「……ということなのですが、ご理解いただけましたか?」
「成程なぁ。しかし、その反応がないということは、やはりどこか外で実験が行われていたという事になるんか?」
「軍事施設の、それも特殊部隊をまるっと外に派遣させて、実験台として改造したのちに基地に戻す……つまり、それが出来るだけの権力を持っているものが黒幕ということに繋がってしまいます。そもそも、疑似魔導師実験については私はぶっ潰す気満々だったのです」
ええ。
一度改造した人間は自我が崩壊し、まさに『
そうなると、魂を救えないのですよ。
だから、速やかに疑似魔導器官を破壊し……殺すしかないのです。
「しかし……ひょっとしたら、イギリスが疑似魔導器官によって廃人化した人間の精神を回復する手段を持っているかもしれない、という可能性は?」
「ありえません。師曰く、それが出来るのは九織の大賢者のみだそうです。そして、そんな神に近い存在が、この地球に居るとは考えられません」
「……分かった。では、そのことも踏まえて防衛省に報告しておく。あと外務省を通じて、イギリス政府と国連に揺さぶりをかけてもらうか」
「よろしくお願いします」
そのまま私は、引き続き探査を続行。
あとは休息を挟んで同じことを繰り返しているうちに、気が付くと三日が経過していました。
………
……
…
――三日後
私たち日本の魔導編隊は、今日で作業が終了。
あとはイギリス陸軍に引き継いで、日本へ帰還する準備なのですけれど。
「……晩餐会、ですか?」
「ああ」
イギリス政府より、日本の外務省に打診があったそうです。
そひれは一週間後にバッキンガム宮殿で行われる公式晩餐会、そこに『日本の異邦人』として正式に招待したいという連絡があったそうです。
私以外には、聖女ヨハンナにも打診があったらしく、彼女は三日後にイギリスにやって来るとか。
「ちなみにですが、私たちが日本に帰還するのは四日後です。そののち私は単独でイギリスに飛んでくるという事でしょうか?」
「そういうことになるが。習志野からイギリスまで、どれぐらいの時間で飛んでくることが可能だ?」
いやいや、それはまた非現実的ですよ。
それならイギリスに滞在していた方が……って、部隊で、作戦行動で動いているから無理ですか、無理ですよねぇ。
習志野駐屯地からですと……真っすぐに北に飛んで、中国を掠めてロシアを縦断。
カラ海、バレンツ海をすっとんでスウェーデンも縦断して……。
うん、直線距距離で16000㎞ってところですか。
魔法の箒の巡航速度、大体マッハ1と換算しますと。
「はい、ぶっ通しで13時間ほど飛び続ければ、到着するかと。なお、これはし直線距離での計算であり、他国の領空を侵犯しないように高度を上げた場合、大きく変動するかと思われます」
「ふむ。それならば、経費として民間航空機で移動してもたいして変わらないか」
え、ゆったりとした空の旅ですか?
それなら自力で飛んでいきますから大丈夫ですよ。
「いえいえ、魔導編隊所属の魔導師としましては、そこは自力で飛んでいくので大丈夫です」
「他国の上空を飛んでいくという時点で、色々と国際問題に発展する恐れがある」
「そ、それなら、領空の上、えぇっと、高度100キロメートルのあたりを飛んでいけば」
「カーマンラインの上か……って、そんなところを飛べるのか?」
ええっと。
流石にそこまでは上がったことは無いですよねぇ。
カーマインラインが大気の消失する限界点、つまりその上を飛ぶのですから大気なんてありません。
気圧も0.01hPa以下。
まあ、そんなところまで、生身で往けるはずがありませんが、それは魔法でなんとか……できるかなぁ。ちょっと不安になってきました。
「はっ、如月3曹、日本に帰還後、速やかに一般旅客機にてイギリスへ向かいます」
「よろしい。同行者については後日、出発前までに選出する。国賓として参加するので、堂々と胸を張って、務めを果たすように」
「はっ!!って、こ、国賓?」
まさかの言葉に、私の心臓が爆発寸前。
いや、これはいい機会です、イギリス国王にも謁見できるのでしたら、疑似魔導器官の危険度についての説明を行いたいものです。
ええ、あれを回収された挙句、別の人間に移植して……なんていう実験でもやられた日には、それをやらかした研究者の首を引っこ抜きたくなってきますからね。
それに、未だ発見されていないイギリスの魔導師の存在も、気になって仕方がありません。
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