Cockneys vs Zombies(ほらぁ、ほらほらぁ)
防衛省から届けられた、如月三曹からの報告書。
その内容は、国際異邦人機関と異邦人対策委員会を震撼させた。
国産魔法使いについて慎重な態度を取る異邦人機関に対して、対策委員会はこの樹に国産魔導師の育成に力を入れるべきであると提案。
前回の報告書にあった『国産魔法使いの育成には数十年の時間が必要である』という件など無かったかのように、陸上自衛隊に魔導師候補生についての受け入れ態勢を整えるべきではという提案を開始。
同時に、北部方面隊札幌駐屯地にも、『魔導編隊候補生についての受け入れ要請』という書類を提出。
省をまたいでの越権行為ということで、委員会は異邦人対策委員会を糾弾。
その結果、とある提案が行われることとなった。
「……ということで、流石にこれ以上は魔導師候補生の受け入れを拒んでいられなくなってね。防衛省は、魔導編隊に対して『魔導師候補生の受け入れ』を開始することとなった。これについて、何か異論はあるかね?」
突然の習志野駐屯地への召集。
そして近藤陸将補からの連絡は、じつに面倒くさいものでした。
「はい。まず一つ、名称の変更を要請します。私は魔導師を育成する気は全くありません。ですので、『魔法使い候補生』という名称なら考えます。次に、魔法使いとなるのを希望するのでしたら、最低でも私と同じ条件での入隊をお願いします」
つまり、最低でも階級は『士』ではなく『曹』。
そしてウィングマーク保持者、レンジャー徽章保持者、空挺徽章保持者、この三つの徽章を持つもの以外には教える気はありません。
だって、それぐらいクリアして貰わないとねぇ。
私がそれをクリアしたのですから、魔法使い候補生もそれぐらいクリアしてください。
「なるほど、そう来るのか。では、それらの案件をクリアした場合は、正式に魔法使い候補生として受け入れるという事で構わないのだな」
「はい。全てクリアしていれば、私としてもこれ以上は無理難題を言うつもりはありません。なお、ウイングマークは赤でお願いします。飛行訓練用の魔法の箒については、私がご用意しますので」
この説明で、かなり譲渡したと思われるでしょうけれど。
実は、魔法の箒を使っての飛行条件は、保有魔力1500以上です。
空気生成、衝撃緩和、魔力制御、鷹の目、念話、これらの魔法を同時発動するには、最低でもこれぐらいは必要ですから。
「まあ、如月三曹と同じ条件でなくては、魔導編隊には入ることができないということだからな」
「はい、加えますと、私は自分の部下となるもの以外には、魔法を教える気はありません。よって、魔法を覚えてはい除隊などというふざけたことをする者がいた場合、知識封印の許可をお願いします。魔法だけ覚えて、他の部隊にいったり民間で使うなんて言うふざけた輩を制するためにも、これは譲れません。まあ、魔法による犯罪を現行の法律で押さえることができるのでしたら、別にかまいませんけれど」
うんうん。
現行の法律や滋養例では、魔法による犯罪についての捜査および逮捕・拘束は殆ど不可能。
現行犯ならまあ、ワンチャンあるかと思いますけれど。
「では、そのあたりを精査したうえで、正式に受け入れ態勢を整える。ちなみにだが、現在の第一空挺団の隊員なら、如月三曹の元で魔法を学ぶことは可能かな?」
「はい、不可能です。彼らはすでに、体内に闘気経絡が形成されています。闘気と魔法の併用はできないので」
ちなみに私の場合、魔力を闘気変換して使っているので、闘気を専門に学んでいる人には勝ち目がありません。まあ、ブレンダー流の銀帯を修得できる程度には実力はありますけれどね。
「それは残念だ。では、まずは第一空挺団に所属し、そののちに魔法修練課程の教育を開始する、これでよいのだね?」
「はい、それで構いません。まずは第一空挺団に入るところが難関ですけれどね」
ええ、今からですと、最低でも陸上自衛隊に入隊後、教育隊でまずは基礎を身に付ける。
そののち空挺教育隊を経て、はれて第一空挺団に配属されます。
なお、レンジャー徽章についてはまあ、成績優秀者であり推薦されなくては訓練すら受けることができませんので、根性の腐っているようなボンボン系隊員はなることができません。
なお、魔導編隊の入隊試験についての最終決定権は私が持っていますので、ちょっとでも根性が腐っていたら即除隊ですからね。
「そしてレンジャー徽章とウイングマーク……第一空挺団魔導編隊は、魔導具によるヘリボーン作戦などもあるので、当然と言えば当然か」
「はい。ここは譲れません。ですので、今からご説明しますと、国内においてこれらの教程を全てクリアできる隊員は一人だけかと」
「小笠原一尉……か。そして彼女は、北部方面隊第一空挺団魔導編隊事務官統括……と。つまり実戦に耐えうるのは、当面は如月三曹のみということか」
はい。
それでも、これ以上突かれまくっても面倒くさいですから、この条件で良しとしておきますよ。
ちなみに弟子を取るのではなく、魔法協会所属の魔法教官としての指導です。
ゆえに教えられるのは二織まで、それ以上は教える気はありません……というか、教えられません。
「まあ、私一人ではきついので、万が一にも魔法関連の力が必要な場合は、第一空挺団闘気編隊にでも出張ってもらうということでよろしいかと」
闘気変態、もとい闘気編隊は私から闘気を学んだ隊員たちによる臨時編隊の総称。
彼らと私を加えて、ようやく魔導編隊という名目だけは保っているようです。
なお、ナイジェリアでの実践により、彼らもそこそこに闘気を扱えるようになりました。
お尻の殻は外れたようですが、まだピヨピヨヒヨコ状態です。
それについては、また訓練スケジュールを調整する必要がありますね。
「わかった。では、今の話についてはこちらで精査し、上にあげておく。ということでねようやくデスクワークから開放されるな」
「はい。まったく無駄な仕事でした。紙の無駄です、常に経費削減を酸っぱく言われている身としてはたまりません」
「まあまあ。それじゃあ、ここからが本題だ……イングランドのエセックス州コルチェスターにおいて、バイオテロ発生の疑いが掛かっている」
は、はぁ?
えぇっと、イングランドのエセックス州……あ、ひょっとしてイギリス魔導編隊って、コルチェスターの第16空中強襲旅団戦闘団がベースになっているとかじゃないですよね?
もう、嫌な予感しかしませんよ。
「バイオテロとは、どのような状況でしょうか? それに、現在、ニュースやインターネットでも、それらについての話は出ていないと思われます」
「箝口令がでているという噂だ。現地の諜報関係者からの報告が届いただけで、詳しい話は現在も調査中。なお、第16空中強襲旅団戦闘団との連絡は完全に途絶えており、状況が全く分かっていない……ただ、最後の報告では、『ゾンビが出現した』という戯言のように感じるものが届いていたらしい」
「あ~、魔導編隊、やっちゃいましたかぁ。人造魔導師計画、やっぱりやらかしてましたかぁ」
うん、大方の予想を裏切ることなく、やっぱりイギリスでは人造魔導師計画を実行していたようです。そして適合しなかった兵士たちがゾンビのようになり、人を襲い始めたと。
体内に組み込まれた疑似魔導器官、それに付随している術式の暴走。
周辺の生物から魔力を摂取すべく襲い掛かっている……というところでしょう。
この場合、頭をすりつぶそうが手足を吹き飛ばそうが、疑似魔導器官がそれらを再生しますからね。
ちなみにですが、頭を吹き飛ばした時点で人間としては死亡。
あとは魔導器官に寄生されたゾンビのようなものです。
「おそらくはな。それでだが、出動要請が国連を通じて届けられた場合、如月三曹は出撃することは可能かね?」
「不可能ではないですが……うん、私一人ではなく、魔導編隊としての出動許可を頂きたく思います」
「魔導編隊……つまり、闘気保持隊員の動向も必要と」
「はい。疑似魔導器官は魔導具、魔法でなくては破壊不可能。ということで、闘気を叩き込んで停止させるしかありません。ちなみにですが、例のイギリスの魔法使いはどうしたのですか?」
ここ、重要です。
もしも生存しているのでしたら、彼にも助力を求めたいところです。
そして犠牲者となってゾンビ化している場合、ちょっと私も本気で相手しなくてはならない事案が発生します。
「詳しいことは分からない。ということでね、国連機関からの要請があるかもということを念頭に、通常任務に戻ってよし」
「了解です!!」
ビシッと敬礼の後、私は習志野駐屯地を後にします。
とりあえずは北部方面隊に戻り、通常任務に精を出すことにしますか。
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